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マリリとお喋りっ☆

 

 尋問。


 会話と言う名の尋問が行われた気がする。

 日はすっかり暮れて、七時過ぎ。何時間喋るんだこの悪魔。


『そっかそっか。そういう人生を歩んだ結果、マリリちゃんという天使、いや、悪魔に出会っちゃったわけかー。あるある!』


 なにが『ある』なのかは分からないが僕はすっかり疲れていた。


 それこそ記憶の一番遠いところ。

 幼稚園児くらいの記憶から今に至るまで根掘り葉掘り聞かれた気がする。どういう遊びをしていたかとか、どこでアルバイトをしているとか、友達とはどういう話をしているとか。なんなら話していて初めて思い出したような記憶すらあった。


 ちなみに本題であったはずの企画に関しては一言も話していない。


『でも気になるなー、その先輩さんが作ったマリリちゃんフィギュア。最近マリリを知ったアヤノンは知らないだろうけど、マリリのフィギュアって受難の歴史でさ。一年ちょい前にプライズで出た奴なんてあまりの出来の悪さに邪神マリコスとか言われててマリリちゃんは悪魔だっての!』


 あーあ、コーラを飲み終わってしまった。


 最初に机に置かれていたお茶は既に飲み終わってしまい、そのタイミングで帰ろかと思っていたら、いきなり現れた事務員らしき女性がミルクティーをくれて。


『あー気をつかって貰っちゃったねー。とりま、それ飲み終わるまでお話しよーよっ。DMで言ってたよね。今日は一日暇だって。マリリちゃんは細かいとこまで覚えてるんだぞー』


 確かにマリリは悪魔なのかもしれない。その『貰ったミルクティー』を飲み干したタイミングで……。出来過ぎたタイミングで追加されたコーラをも今飲み干してしまった。僕は間違いなく軟禁されている。


『あ。マリリ少しお花つんでくるー』


 よし、帰ろう。


 この普段とは違う環境も悪い。

 正常な判断能力を奪われ帰るタイミングを失ってしまっていたのだ。


『待っててね。ね?』

 誰が待つかいな!


 ――確かにマリリは可愛い。

 最初の一時間までは本気でマリリの事が好きになりそうだったほど。

こうして二人で喋ると彼女の魅力。マリリを好きだという眷属さんの気持ちも大いにわかる。愛らしい声も天性の明るさも、自分の話と他人の話を盛り上げられるトーク力も空凄

い。それこそ万人から向けられる愛を受け止めて、万人に愛を与えるほどの力があるアイドルなのだ。


 しかし。


 逆に言えば。


 彼女から向けられる愛は万人で分担しなければ受け止められるものでは無く。ましてや一人で相手をして良いものではない。つまり。


 ここで逃げねば男がすたる!


 お花摘みに消えたマリリを確認した後に五秒待ち、マリリが完全に消えた事を確認してから立ち上がり静かに帰宅準備。


 ガチャ、と扉が開いた。


「ひぃっ」

「うわ、びっくりしたぁ」


 マリリが現れたかと思い思わず悲鳴を上げてしまった僕の前に現れたのは――。


「綾野君、ご愁傷様」

「吉野さん……」


 吉野さんは机に並んだペットボトルを確認すると、僕の肩をポンと叩いた。


「悪いとは思ってたんだけど、マリリのストレス発散を兼ねてその、ね。普段の配信って会話に見えて一方通行のお喋りが多くてさ。でも周りの人もマリリに付き合ってたら時間がいくらあっても足りないしで」

「生贄だったわけですね。ジュラシックパークの羊じゃないんですよ」

「んー、返す言葉も無い。長時間お疲れ様。お腹空いたでしょ、さっき夕飯にピザを注文したんだけど、よければ一緒に食べようよ。デラックスセットだよ?」


 たしかに、飲み物ばかりでお腹が減った。


 だが。


 さっとモニターを見つめる。まだ逃げれる。


「いやせっかくですが」

『いいねっ! ピザピザ! アヤノン、ピッツァだぞーっ』


 悪魔が帰って来た。


「……そうか。裏切りましたね吉野さん」

「嫌だなぁ。ボクは最初から悪魔側の人間だよ?」


 ちくしょう。


「ボクもほんとに心苦しいんだけど。アレでもうちのトップアイドルだからさメンタルケアというか。ここは一つ。ここはなにとぞご協力を!」


 小声で、恐らく本心からの謝罪を口にする吉野さん。僕は社会で生きる人間の大変さを知ると共に、妹とは別ベクトルで変な女が居るのだなと涙を流した。


『ふっふー、今日は気分がイイぜー』


 この世の何処にいるかもしれないモニターの中のマリリはこの上なく上機嫌だった。



・・・



 結局、会議室から解放されたのは八時過ぎだった。ピザは美味しかった。


「はぁ、疲れたぁ」


 自室に帰り、ベッドに座るとようやくゆっくりと身体が休まった。悪魔に数時間軟禁され、頭の中が大変メルヘンだ……。

 そういえば妹の夕飯を作る事をすっかり忘れていたけれど、リビングに置いていた『小林』の和菓子の袋に開封した形跡があったし、飢えているという事はないだろう。


「……」


 紙袋から二つのモノを取り出す。一つは。


「おお。デカい」


 マリリのおっぱいマウスパッド。マリリに関しては当分見たく無いもののマリリのおっぱいには罪はない。ありがたく使わせてもらおう。そしてもう一つ。


「確かにこれはひどいな」


 邪神マリコス。ニ十センチほどの大きさのフィギュア。顔の造形が酷い。目が怖い。

 お土産に持たされたものの、これだけでも返しに行きたいレベル。なんならお祓いさえ必要かもしれない。


「そうだ」


 SNSを立ち上げてスマホカメラでマリコスを撮影。ハッシュタグ、マリリ祭り。


『終わりました。みなさん、どうして教えてくれなかったんですか?』


 とマリコス画像と共に投稿。

 ピコン。イイねが押された。ピコン、拡散された。ピコン、ピコン、ピコン、ピコン――。

 この拡散力、やはり眷属のみんなはこうなる事を知っていたらしい。


〈草。生きて帰った、だと? ふぐり氏これでホントの仲間だね。邪神持たされてて草。祭りは祭りでも邪神鎮魂祭だからね。あーあ。これで村の平和が保たれた。それでも裏山〉


 好き放題コメントが書き込まれている。


 今日は多くの事を学んだ。

 一つ、迂闊に知らない場所に行かない。

 一つ、おっぱいマウスパッド貰えるからと言って釣られない。

 一つ、悪魔の誘いに乗らない。

 特に最後のが重要だ。


 ピコン。


 つい投稿してしまったものの、これはまた通知をオフにしないと収まりそうもないな。


 ピコン。

『やだなー、まだ終わって無いって。逃がさないぞー笑』



 僕はマリリのアカウントをブロックした。


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