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顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい  作者: 光川
日常編

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短編 フィラー・フラワー2


 

 九月某日。

 本日はペイントパレットのバーチャル部門の新人三人と大先輩の計四人で親睦を深めるために夜ご飯を食べに来ているのですが。

 私、添島智恵理、高校三年生。生まれて初めて入る完全個室の焼肉店で大緊張しています。というのも隣に座る大先輩。目の前の席の同期二人。

 それぞれ独特の迫力があって居心地が悪いです。


「――ということで三人ともデビューおめでとうっ。ささやかながら新人歓迎会ということでみんな飲み物は持ったかなっ? わたしがせーのって言ったら乾杯だからね」


 華やかな声と笑顔でこの場を取り仕切っているのが大先輩のマリリさん。

 女優もかくやというお顔立ち、グラビアアイドルもかくやというお胸。同じ女の子だというのにちょっとドキドキする。


「はい、かんぱーい」

「……ん。もう食べていいの? いただきまーす」


 そして、微笑みを浮かべながら勝手に乾杯したのがアンジェリカさん。

 ネイルのコーティングを気にしてマリリさんの話を聞いていなかったのが清廉さん。

 どちらも先輩への態度がなっておらんっ。二人とも私の一個下なのでここは年長者として一言物申したいところなのだけど――くぅん。

 アンジェリカさんはクォーター美少女で一見優しい雰囲気のわりに妙に迫力があるというか、私の内面を観察してそうな感じが怖くて物申せないし。

 清廉さんは何を隠そう歌姫miuで私のようなぽっと出の新人が物申せる人じゃないし、凛として深窓の令嬢みたいな雰囲気が近寄りがたくて物申せないし。

 正直、おなじユニットとしてデビューしたのが謎すぎるほどのキラキラ美少女たちから放出される空気に私は完全に呑まれていた。


「きみら態度悪くなーい? はい、添島ちゃんだけかんぱーい」

「あ、はい、乾杯です。私の同期がすみません」

「うんうん、やっぱり一人くらいはちゃんとした子がいないとねっ」


 コンとグラスがぶつかりマリリさんが微笑む。よかった、怒ってないみたい。

 グラスをテーブルに置いたマリリさんはトングを持ち、最初のタン塩を並べ始める。

 肉奉行というやつだろうか。こういうのって先輩にやって貰って良いのかな。


「あ、あの。私が代わりましょうか」

「いーよいーよ、わたしお肉育てるの好きだから」


 素敵な笑顔を向けられる。こんな女の子いたら男の子は一瞬で好きになっちゃいそう。

 マリリさんの気遣いに感動していると。


「そうそう。主導権握りたいタイプなんですよ」

「いるわよねー。サラダ取り分け女子」


 アンジェリカさんと清廉さんが冷めた口調でマリリさんからトングを奪い、それぞれ自分に近い場所でお肉を育て始めた。そこはかとなくエゴを感じる所作。もしかしなくとも失礼なのではなかろうか。


「そこの二人、余計なこと言わないでくれるかな?」


 ほらマリリさんの機嫌を損ねちゃった。


「別にいいでしょ取り分けたって。別にいいでしょ主導権握ったって。このテーブルの主役はマリリちゃんなの。みんなの胃袋をコントロールしたいだけなの!」


 ……胃袋を、コントロール? なぜ?


「そういうところが鬱陶しがられるんですよ」

「あんたって良いところと悪いところが表裏一体よね」

「…………はぁい、添島ちゃん。お肉焼けたよぉ」


 言いたい放題言われたマリリさんが口角をピクピクさせながら私のお皿にタン塩を乗っけてくれた。


「い、いただきます」


 ああ、美味しい。出来るならもっと良い空気の中で味わいたかった。


「というか茉莉花、なんであんた来たのよ。私達三人で良くない?」

「添島ちゃんに気を遣ったんですぅ。セーレンどころかアンジェちゃんも妙に迫力あるじゃん。あんたら二人の中に可愛い子羊を入れられないでしょ」

「そんな。こんな可憐な乙女に迫力だなんて。ねえ、添島さん」

「あたしだってかなりフレンドリーだと思うけど。ねえ、添島さん」

「え、あ、ひゃい」


 ボブルヘッドのように頭をコクコク揺らしてしまう。


「こらこら、同意をカツアゲするんじゃない。というか二人ってちょっと仲良くなってる?」

「友だちの友だちだから多少はね」

「私も同意見です。夏休みに少し話す機会もありましたし」

「じゃあ仲良くしてよ。二人が仲良く出来るなら色んな企画だって――」


 マリリさんの言葉を受けて二人は目を合わせると、失笑した。

 二人を陰キャ陽キャで分けるのも良くないかもだけど、致命的にウマが合わない部分があるのだろう。それを二人は初対面の時点で感じ取っていたに違いない。

 他でもない私にはわかる。

 だって、その二人に挟まれて座ってたもん!

 

「だいたい同期っていっても無理に合わせる必要も無いと思うのよ。あたしは音楽でアンジェリカはお喋り、それで添島さんが……そうそう、添島さんはホラーゲームとドッキリメインで行くって話でしょ」


 ん? 私の活動方針ってそんなだったっけ?


「違いますよ。添島さんは熱量のあるオタク語りと下手面白いゲーム実況がメインなんですよね?」


 アンジェリカさんも妙な決めつけを……。

 二人の視線が私に向けらえてドキドキする――けど!

 ここは勇気を出して口を開かねば。せっかくなら、色々相談したい!


「じ、実はまだ私も何をメインにしていくか悩んでいて。だから、その、みんなにこの場でアドバイス貰えたら嬉しいなって……」

「へぇ?」

「アドバイス、ですか」

「わたしは今のままでも良いと思うけどねー」


 三人の視線が私に集中し、お肉の焼ける音だけが広がる。

 あー、美形に見られる圧やば。三者三様の可愛さを前に嫌な汗をかく。この三人を前にして平静保てる人とか居るのかな。

 私はとりあえず烏龍茶の入ったグラスに手を伸ばし、ゴクリと喉を潤した。

 そして――、最初に口を開いたのは清廉さんだった。


「あたしの友だちで添島さんの熱心なファンがいるけど『この人がゲームで失敗する姿を最大限楽しむために同じゲーム買っちゃった。先にクリアして指示厨したり心からあーあって言いたい』とか言って珍しくニコニコしてたから今のままで良いと思うわよ」


 その熱心なファン、歪んでませんか。

 アドバイスと言うにはちょっと当たりが強い気が……。


「私もそう思います。知り合いが添島さんのアーカイブ配信見せて来て『見てこれ、頑張ってひねり出したトークが滑っててスパチャ送っちゃった』とか言って楽しんでましたし」


 そのお知り合い、性格悪くないですか。

 というかそのスパチャおぼえてますよ!


「わたしの未来の旦那も添島ちゃんの配信見てるけど『なにが面白いって常識的で教養を感じるところでしょ。感性が普通だから安心感があるというか。じきに他の二人の人間性に疲れた人に見つけてもらえるよ』とか言ってたし大丈夫だよ」

「他の二人って誰よ」

「その未来の彼氏、呼び出してくれます?」

「――」


 感性が普通だから、安心感がある……か。

 素直には受け取り辛い言葉だけど、少なくとも私を応援してくれている人が三人の周りに居るのだと思うと……ちょっと安心した。

 そっか。この二人に囲まれていても見てくれる人は居るのか。


・・・


「あのね、あたしも頭では星野の配信があたしを守るためにあったってのは解るのよ。でも、あんまりじゃない? 見た瞬間気絶したわよ。絶対、あのバカがこうした方が良いですよとか言ったのよ」

「未羽さんのお気持ちわかります。私も例の配信を見ましたが、あれ見てダメージのない女の子は居ないと思いますよ。ええ、本当に、苦しかったでしょう。もう少し詳しくその時の気持ちを教えてください」

「アンジェちゃーん、口角上がってるよー」


 かれこれ一時間ほど。

 最初は恐ろしい空気だったというのに、気づけば女子会っぽい雰囲気で楽しくなってきた。こういう知り合ったばかりの女の子たちとお店で話しているなんて、ちょっと大人になった気分かも。普通に生きていたら出会わない人たち。

 夢の中に居るような気分でつい三人を眺めてしまう。

 まだ気楽に会話に入る勇気はないけれど、空気が美味しくてライスが進む。


「私、最近ミヤザキアニメを見直したんですけど一番新しいあれ、皆さんは見ましたか?」

「あーアレね。主題歌好きだったから見に行ったけど、あたしには早かったわ。とりあえず壮大というか、強い思い入れみたいなのは感じたけど……。ミヤザキアニメなら耳すまが一番ね。あたしもあんな青春送りたいわ」

「わかるー。ちなみにわたしちゃんは何が好きでしょうか」

「若い男の心臓狙うシーンに共感してそうですし、ハウルですか?」

「……キレそう。ちなみに、幼少期のハウルが好きです」

「ほら」


 私の同期の二人。

 今も私は勝手に恐れてはいるものの、思ったよりも気さくでユーモアがある。

 正直なところ、実は私も親睦会に意味があるのか不安だったんだけど、どうやら意味はあったみたい。今は、もっと二人の同期のことを知りたくなってる。


「わたし、最近イヤホン失くしちゃってさ。セーレン、なんかおススメある?」

「なんであたしに聞くのよ」

「音楽好きでしょ」

「んー。あたし、耳塞ぐタイプのイヤホンって鼓膜に良くなさそうだから使わないのよね。だから最近はオープンイヤーのやつか骨伝導のやつがメインかしら」

「なるほど、さすがに意識高いわ……。アンジェちゃんは?」

「私は三百円で買ったやつです。礼さんがワイヤレスの使ってるのを見ると便利そうだなとは思いますけど音質に拘りも無いので」

「あ、ワイヤレスの欲しいなら今度マリリちゃんのシステムボイスが実装されたワイヤレスイヤホンが発売される予定なんだけど。プレゼントしよっか?」

「お気持ちだけいただきます。さすがに毎日悪魔の声を聞くのは主が許さないでしょう」

「えー、堕天しようよー」


 遠い世界に住んでいるような三人が交わす言葉はすごく身近な話題ばかり。お肉を食べながら、なんだか嬉しくなってくる。


「わたし、思ったんだけどさ――」


 ……それにしてもマリリ先輩、お肉も食べずさっきからずっと喋ってるな。

 お喋りモンスター、ここに在りだ。


「ね、添島ちゃんはどう思う?」

「先輩が全て正しいかと」

「むっふっふー、でしょー?」

「……添島さんもあしらい方が分かってきましたね」

「一回喋り出すと止まらないのよねぇ」

「あはは」


 ……そういえば。

 会話の中でふと思い出す。

 このお店の前で皆さんと会う前に、以前コンプラ講習をしてくれた男の子(名前を一回しか聞いて無いから失念してしまった)とお店の前ですれ違ったんだけど。

 こういう時って改めてご挨拶した方が良いのかな。

 んー、でも女の子と一緒にいたし邪魔しちゃ悪いか。


「んじゃ、そろそろ添島ちゃんのこと色々教えてもらおっかな」

「ええっ」


 ――ああ、まだ自分がどうなるかは分からないけど。いろいろ頑張ろうっ!



・・・



「じゃあ柚乃さん、出所おめでとー」

「あ、はい、どもっす。正確に言えば他県に無断外泊した結果の自宅謹慎という形でしたが。はい、この度めでたく夜間外出を許されましたっ!」

「おぉー」

「そして今日は夏に我が子、リオネット兄妹の同人誌で爆稼ぎさせて頂いたささやかなお礼もさせていただこうかと思いますっ! ほんとはエリさんも来てくれたら良かったのですが、今日は先んじて、我が息子にお肉をご馳走しようかと思います!」

「ゆーのっ、ゆーのっ」

「うぉおおおかんぱあああいっ!」


 添島智恵理。

 ブイチューバーとしての活動名はシエルちゃんです。


 読んでいただきありがとうございました!

 そして、いつも感想、評価等々重ねてありがとうございます!


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