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顔だけは良い妹が何故かバーチャルアイドルをやっているらしい  作者: 光川
翅のない妖精編

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プロローグ 翅の無い妖精

 妖精と人の間に生まれた子供。

 妹はきっとそういう存在だ。

 不思議な色合いに光る髪の毛とか、僅かな綻びも無く整った容姿だとか。人の世界に馴染めない存在感は子供から見ても異質で――。

 なんとなく、彼女の居場所はこの世界の何処にもないような気がした。

 そんな思いからはや数年。


 妹は立派なニートになりました。



 四月三日。

 時刻は深夜一時一分前。


 ガレージキットが並んだ棚の埃を丁寧に払い、拝み、レトロなデザインのラジオの電源を入れて部屋の電気を落とせば暗闇の中に音だけが響き始める。


『グレゴリーのオールデイジャパン』


 タイトルコールと共にお馴染みのテーマソング、ボサノバスウィートスウィートが流れはじめた事を確認しながらベッドに横たわると開いた窓からは春の夜風が入り込み、涼しさを感じながら毛布にくるまる。

せっかくの週末。一般男子高校生にしては地味な趣味かも知れないが、これが僕にとって一週間で一番楽しみな時間だったりする。


 今時ラジオをリアルタイムで聞く、しかもスマートフォンではなく『ラジオでラジオを聞く』人は随分と少ないかも知れないけど。なぜだかこの儀式めいた一連の手順が気に入っていた。


 真っ暗な部屋の中。どこか遠くのラジオ局で行われている会話が流れ、どこか遠くの知らない誰かと同じ時間を共有しているという感覚はなんとも不思議な気分だ。


 オープニングトークが始まるとお笑い芸人の二人が彼らの身近に起きた話を面白おかしく紹介し、彼らの日常が他人事なのにどこか身近に感じてなんとも愉快な時間が流れていくと――。


「そろそろか」

僕がこのラジオをリアルタイムで聞いている理由。


『では続いてこのコーナー』


 これだ。


『早くも三周目。十週続けば正式なコーナーとして採用されますが』

『プロゲーマー田中。姑息だけどどこか憎めないプロゲーマー田中の今週の出来事をリスナーが教えてくれるという事なんですが。ラジオネーム、ゴールデン偶々……。先日、田中の配信を見ていたらいわゆるゴースティングという行為を行っていたんですが』

『ああ。あのあれでしょ、他の配信者のゲーム画面を見て自分が有利に戦おうってやつ』

『ゴースティングを行っていた田中は急に「やっぱりこういうの良くないよな」と言い出してそのゴースティングをした相手にゴメンね、と一万円のスーパーチャットを送った後にキルしていました』

『迷惑! だけど、憎めないかぁ』

『憎めないかなぁ?』


「ふふっ」

 つい笑ってしまう。

 そう。僕はいわゆるはがき職人としてメールを投稿しており自分のラジオネームが読まれる事を心待ちにしているしがない一般男子高校生。客観的に見るとなんともほの暗い感性をしている気がする。


『続きましてラジオネーム』

 どきどきしながら読まれるラジオネームに集中する――が。


「あああああ、もう! ほんとムカつく! なにこれ! エリにぶれーだよっ」


 はた迷惑な隣人の声が響く。

隣の部屋から愚妹(・・)の叫び声が壁を突き抜けて聞こえてきた。


「……はぁ」


 興ざめだ。

とりあえず身体を起こして開けていた窓を閉めて音を遮断しようと試みるが。


「なにこいつ! ぜったいゴースティングだよぉ。みんなあ、助けてぇ」

「ゴースティング流行ってるな……、って聞き逃した」


 妹の声は相変わらず壁の向こうから突き抜けて聞こえてくる。この壁、ベニヤ板一枚だったりするのかもしれない。バイト代も入ったし部屋の壁に防音素材でも取り付けようかな。


『続きましてラジオネーム、恋する小悪魔』


 初めて聞くラジオネーム。

リスナーの新陳代謝が早いのは良いラジオ番組の証かもしれないけれど、あんまり凄い人だと僕のメールが読まれる確率が減ってしまう……。メールを読まれると送られてくるステッカー、ソレを集めると貰えるキャップがどうにか欲しいのだ。


そう思いながらも枕元にゴソゴソと手を伸ばし目当てのワイヤレスヘッドフォンを手繰り寄せて装着、これで雑音を気にせずラジオを楽しめ――。


 ガタン!


「やったあああああ、みんなやったよおお! エリってほんと天才っ!」


 興奮して叫ぶ妹の声がヘッドホン越しに聞こえてくる。改めて確認するまでも無く時刻は深夜。もしここが集合住宅であればご近所問題待った無しの騒ぎ。一軒家に住まわせてくれた両親に感謝しつつ、ふつふつと沸く怒りをため息と共に放出。

 わざわざ『静かにしようね』と言いに行くのも壁ドンで不満を露わにするのも面倒だ。ヘッドフォンのノイズキャンセリングをオンにする。


「こんな妹は嫌だってコーナーあれば毎週メール送れるのに」


 年単位で蓄積された話のストックを披露する場が無いのが残念だ。

 結局、今週は僕のラジオネームが呼ばれる事もなく、自然とうつらうつらとしながら眠りに落ちていく。


 ユメウツツの頭の中には何故か、随分と昔の映像が脳裏に流れた。あの妹が初めてこの家にやって来た日。妹の輝かんばかりの全盛期。あの時まではまともだったのに。


「よーし、今日は朝までやっちゃうよーっ!」


 結局、翌朝目が覚めるまで妹の声は響き続けていた。




昨年書いたものを放置していたのですが、せっかくなので読んで頂きたく……。

ラノベ一冊分書きあがっているので安心して読み進めて下さい!

順次公開していきます

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― 新着の感想 ―
続きがきになって、ブックマークしました。
面白いですね 続きが楽しみですわ
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