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ドラゴン×キス  作者: 木口なん
1章 竜の少女

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42話 新生一〇六小隊





 旭が復興に勤しむ中、シオンはアーシャだけを伴ってある場所にいた。

 それは正一が横たわるあの場所であった。



「アーシャ、足を持ち上げてくれ」

「うん」



 そして二人はビニル製の死体袋へと正一を収めていく。それをシオンとアーシャの二人だけで行うのには主に二つの理由がある。

 まずは正一が竜人化しかけていたからである。完全竜人化する前に殺されたので辛うじて人の姿を留めているが、それに触れたいと考える者はいない。赫竜病に感染するかもしれないからだ。

 そして最大の理由はデミオン濃度の高さである。竜人として殺害した玄と浅実の遺体は既にデミオン粒子となって崩壊しており、それが空気中に留まっている。つまりデミオン濃度が通常よりも高い状態となっているのだ。そこで、シオンとアーシャの二人が駆り出されたのである。

 普段は忌まわしいだけのこの体質も、今はありがたかった。



「これでいいの?」

「ああ。これでこの人の家族の所に連れていける」

「家族?」

「今度、子供も生まれるそうだ。前に聞いた」

「そうなんだ。もう二人は?」

「玄さんと浅実さんのことはよく知らない。よく知る前に……殺すことになったから」



 竜人を殺すことはシオンの仕事であり、キサラギにおけるアイデンティティだ。他の誰にもできないことができるからこそ、この忌むべき体質を保有しながらドラゴンスレイヤーとして活動できている。本来ならばアーシャのように研究所で一生を過ごすことになるところを、竜人殺しという称号のゆえに見逃されているのだ。

 キサラギに余らせておく戦力がないという世知辛い事情もあるからこそだが。



(仮にこの人たちのことをよく知ってしまったら……俺は殺せなかったかもしれない)



 何と自分勝手なことか、とシオンは思う。

 キサラギの中に竜人殺しとしての居場所を求めているかと思えば、それを妨げる他者からの愛をも求めてしまう。



(俺は浅ましくて……汚い)



 他者とは違うという孤独。

 皆と同じになれないという孤独。

 そして誰からも理解されない、最も深い孤独。



「やっぱり、一人が楽だな」



 しかし絆を失い、自ら断ち切らなければならない絶望は孤独を上回る。

 消えてしまうからこそ怖い。

 取り戻せないからこそ苦しい。

 だから思わずそれを口にしてしまった。普段ならば聞く者のいないはずの呟き。ところが今はシオンの隠された心を聞き取る者がいた。



「ちょっと。あたしと一緒にいるんじゃなかったの?」



 アーシャがの腰に手を当て、仁王立ちで問いかける。その顔はいかにも不機嫌ですと主張しており、同時に悲しさや畏れも孕んでいた。

 それを見てシオンは笑みを浮かべる。

 スモッグのような悩みはいつの間にか晴れ渡っていた。



「訂正する。俺にはお前が必要だ。一緒にいて欲しい」

「仕方ないわね。ま、あたしが研究所に戻されなかったら一緒にいてあげるわ」

「何とか俺から水鈴姉さんに頼んでみる。ああ、水鈴姉さんってのは俺たちの……まぁボスだな」

「それでもだめだったら?」

「んー……東京にでも逃げるか? あそこは廃墟しかないけど人は住んでるらしいし」

「ふーん。あんたに任せるわ。あたしはそんなの分からないし」

「絶対に何とかする。それに交渉の手も考えてはいる」



 完全異形化竜人、獅童源三を討伐したこと。

 これを盾にアーシャの有用性を訴えるのがシオンの考える手であった。



(RDOの科学者連中をどうにかしないとな。本格的に東京に逃げることも考えないと。取りあえずは、証拠になりそうな首輪も回収しておくしかない)



 まさかリシャールたちが皆殺しにされているとも知らず、シオンは心配事を重ねていた。





 ◆◆◆





 旭という組織は見捨てられた人々の集まりである。

 二一九九年の年末に起こった世紀末の悪夢により、多くの人々が東京から地方へと流れた。その頃には既に横浜市を改造した新都市キサラギが形になっていた。対ドラゴンを想定した都市ということもあり、数百万人もの人が門戸を叩く。

 しかしキサラギが受け入れることができたのは僅かに四十万人。そのほとんどは科学者や医療従事者であった。キサラギが養える人数は最大でも六十万人程度であり、またこの都市も関東圏を守護するドラゴンスレイヤーの育成施設としての意味が強かったことから仕方のないことであった。

 そして世紀末の悪夢において無数のドラゴンと戦った自衛隊は、東京消滅と共に指揮系統を失った。彼らは独自の判断で自分の所属する基地に戻り、そこでコロニーを形成する。獅童源三が、自衛隊所属ドラゴンスレイヤーたちが設立した旭という組織もそんな経緯で誕生した。

 彼らはキサラギに受け入れられなかった人々を受け入れた。



「あいつら、今更……」

「しっ、聞こえるぞ。あいつらは化け物だ。耳だっていい」

「別に聞こえたって構わねぇよ」



 シオンが歩けば、そこかしこから怨みの視線を向けられる。

 怨みそのものを囁かれる。



「あんな奴らに獅童さんが」

「俺たちを捨てた癖に、まだ奪うのかよ」

「あいつらこそ殺されたらよかったのに。死んだのはこっちの仲間だけらしい」

「ふざけやがって」



 アーシャにもそれらは聞こえている。しかし日本語が理解できず、何を言っているのかは分からない。ただ居心地が良いわけではなかった。



「ねぇ、何言われているの?」

「……いや、気にしなくていい。元から俺たちキサラギのドラゴンスレイヤーは嫌われているからな」

「ふぅん」



 この程度のことは慣れている。

 またシオンも彼らの気持ちを理解できるので、言い返したり睨み返したりしようとは思わなかった。また正一の遺体を入れた袋を運ぶという大事な仕事もある。余計な問題を起こす暇はない。



「無理するんじゃないわよ」



 問い詰めることなく、アーシャはそれだけ告げる。

 シオンは思わず目を見開いた。



「何よ?」

「いや、そうだな。無理はしない。ヘリに向かおう。俺たちがすることはもうなさそうだ」



 地下シェルターに避難していた住民も戦いの跡片付けや、死者の葬儀準備で忙しそうにしている。しかし望まれない手伝いをする必要もないだろう。

 正一の遺体をヘリに運び、その後は待機することを決める。



(富士樹海で囮になってから……アーシャと出会ってからまだ四日か)



 驚くべきことに、まだ一週間も経っていない。

 そしてシオン自身もこの四日で大きく変化したという自覚があった。





 ◆◆◆






 シオンたちがキサラギへと到着したのは日も沈んだ頃であった。

 一〇九小隊が乗ってきた二機の軍用ヘリを使ったので、横須賀からはあっという間である。そしてシオンを出迎えたのは水鈴であった。



「全員お疲れ様。一〇一と一〇九は報告書を提出し、今日は休みなさい。それと一〇六はその子を連れて私の部屋に来なさい」



 シオンとしては今すぐにでも休みたい気分だ。

 そもそもデミオンによる回復力があるとはいえ、富士樹海からの連戦で栄養が不足している。邪龍や竜人となった源三との戦いで大怪我を負った際、治癒にはシオンの体に蓄えられていた栄養が用いられている。実を言えば、今のシオンは数キロほど体重が減っていた。ようやくキサラギに帰って来たことで安堵してしまったのか、疲労感が一層強まっていた。

 しかし彼女の意向を無視する訳にはいかない。

 従姉であるとはいえ、如月水鈴はキサラギの支配者なのだから。



「アーシャ、行くぞ」

「どこに?」

「水鈴姉さんのところだ。ここからが正念場だぞ」



 そして何より、シオンにとってはここも戦いだ。

 これから話されることは富士樹海からどう脱出したかということの他、アーシャのことについても色々と聞かれるだろう。彼女はRDOが持ち込んだ実験体であり、キサラギはその実験の補佐を請け負っている。失われたと考えられていたアーシャが戻ってきたのだから、それを引き渡すことになるのは間違いない。

 シオンはそう考えていた。

 水鈴とそれに付き添う夏凛の背を眺めながら、自分の考えを纏めていく。



(やっぱり首輪の件から攻めてRDOの責任問題にするしかない、か)



 そんな風に色々と考えている内に水鈴の執務室へと辿り着く。

 それまでに擦れ違ったドラゴンスレイヤーや職員はシオンの姿を見て驚きの表情を浮かべていたりしたのだが、集中しているシオンはそれに気付いていなかった。

 ともかく、部屋に入るとすぐに座らされ、夏凛が水を用意する。



「そうね」



 まずは水鈴が口を開いた。



「取りあえずは樹海のことから聞きましょうか。邪龍のことも聞いておきたいわ」

「わかった」



 囮役として樹海に残り邪龍を相対した後、アーシャを助けたところまで話す。それは日本語であるためアーシャ自身は何も分かっていない様子だったが。 

 そのせいで詰まらなそうにキョロキョロと部屋を眺めている。

 その間に一通りの説明を終えた。



「なるほどね。後で邪龍の見た目を覚えている限り報告書にしてちょうだい。それとよくここまで帰ってきたわね。大変だったでしょう?」

「それはもう。小田原に辿り着いた時はこれで助かったと思ったけど……」

「ええ、まさかあんなことになるなんてね。でも良かったわ。これでキサラギと旭は同盟関係を結ぶことになったの。怪我の功名だけど、結果的にはプラスよ」

「だけど……」



 シオンは少し言い淀む。

 だが水鈴もその先は予測していたのだろう。先にそれを口にした。



「RDOのことでしょう? それなら問題ないわ?」

「……どうしてだ?」

「リシャール博士を含めて全員がドラゴンに襲われ、死亡したの。運がなかったわね。折角、ドラゴンスレイヤーまで連れてフィールドワークに行ったのに」



 それが何を意味するのか、シオンはすぐに理解した。

 リシャールたちの護衛であるイーグル小隊は旭の基地でシオンたちを襲った。そして彼らはシオンと竜胆が殺害したのであって、ドラゴンに喰われたわけではない。リシャールのことは知らないが、少なくとも彼らが連れてきたドラゴンスレイヤーの結末はそうであった。



「それはっ!」

「シオン」



 何かを言いかけたシオンを止める。

 水鈴はただ笑顔を浮かべ、唇に人差し指を当てた。



「……つまり、RDOから来た連中は全滅したと?」

「そうよ。まぁ向こうは抗議してくるでしょうけど、こちらで勝手にストーリーを作りましょう。リシャール博士はフィールドワークと称して、キサラギの近くに大型ドラゴンを呼び寄せる実験を行った。その結果、彼らは死亡した。そして私たちの同盟者である旭に大きな被害が出た。これでRDOに責任と補償を求めるわ」

「できるのか?」

「今回の件で資材を大量に貰ったから、もう手を切るつもりで強気の交渉をするわ」

「それなら、これが使えるかもしれない」



 シオンはポーチから壊れた首輪を取り出す。アーシャの首に取りつけられていたもので、彼女の暴走を止めるため、シオンが噛み砕いたものだ。しかし首輪としての原型は残っている。



「これを調べて、何かの証拠にできないか? アーシャに付けられていた首輪なんだけど、これが作動した途端に大型竜が現れた」

「それはいいわね。預かっておくわ」

「……その代わり、頼みたいことがある」

「あら? 珍しいわね。言ってみなさい」



 水鈴は試すような口調になる。

 そしてシオンもここで深呼吸し、考えていた言葉を吐きだした。



「こいつをRDOに戻したくない。俺の部隊に入れたい」

「理由を言ってみなさい」

「俺がこいつと……アーシャと一緒にいたいからだ」



 あまりにも素直な言葉に、水鈴だけでなく夏凛も驚きを隠せない。上品に口元を隠しつつ笑みを浮かべる。



「アーシャとも約束した。俺ができることは全てする。RDOに支払うものが必要なら、俺が全て手に入れてくる。だから何としてでも彼女の権利を手に入れて欲しい」

「そこまで言うならいいわよ」

「無茶を言っているのは……っていいのか?」

「構わないわ。そもそも、その子は死んだことになっているもの。RDOの連中が死んだ記録と一緒に、その子の死亡記録も入れておいたわ」



 今度はシオンの方が驚かされた。

 キサラギにとってリシャールを含むRDOの科学者を死亡させた件は痛いはずだ。RDOから責任を追及され、理不尽な代価を支払わされる可能性もあった。それを少しでも減らすため、アーシャの確保と引き渡しを最優先にすると思っていたのだ。

 水鈴もシオンの考えが読めたのか、それについて説明する。



「今更なのよね。その実験体の子を引き渡したところで、面倒は変わらないわ。それにさっきも言ったでしょう? 今回、あの連中が引き起こした問題を理由にRDOとは手を切るの。だからこっそり、その子を貰ってもいいでしょう?」

「……アーシャで実験をするつもりか?」

「それもいいと思ったけれど、あなたが欲しいなら上げるわ。ただ、少なくとも体質ぐらいは調べさせてもらうわよ」

「それなら」

「ええ。認めてあげるわ。その子を一〇六小隊の二人目とすることをね」



 シオンは安堵の息を吐いた。

 するとアーシャが問いかける。



「どうなったの?」

「一緒にいることを認めてくれるらしい」

「本当に!? 大好きよシオン!」

「ま、約束したからな」



 RDOへと引き戻されず、シオンと共にいられる。それが分かったアーシャは笑みを浮かべてシオンに抱き着いた。刺々しい態度だった頃と比べれば天と地ほどもある。それだけシオンを信頼するようになったということだった。

 またシオンもこれだけの感情を向けられたのは初めてのことで、激しく戸惑う。

 そして水鈴は困ったような表情を浮かべるシオンを見て満足気であった。彼女からしても面白いものを見たという思いだったのだ。



「さて、話の続きね」



 ここで水鈴は英語で語り始める。

 つまりアーシャにも聞かせるべきと判断したのだ。シオンは警戒しつつ問い返した。



「続き?」

「ええ。何もただで認める訳ではないわ。あなたを含めた新しい一〇六小隊で任務に出てもらうわ」

「あたしにも? いいわよ。任せなさい!」

「そんな簡単に請け負うなよ……それで?」

「東京よ。そこに住む人々と接触して信頼を勝ち取りなさい。それとコロニーの規模や人口も調査して報告するの。最低一か月は出てもらう長期任務になるわね」



 条件としては軽いと言わざるを得ない。

 一か月もキサラギに戻れないという制限こそあるが、大型ドラゴンを倒せと言われることに比べれば随分と楽である。もっと厳しい条件を覚悟していただけに、シオンとしては拍子抜けであった。



「それだけか?」

「それだけとは随分な言い草ね。これは重要な任務になるわ。私たちは旭と同盟を結んだ。でも特別大きな勢力になったわけではないわ。だから関東圏で一つの勢力として拡大する必要があるの。それには東京の復興と、そこに住む人々の強力が必要よ。あそこはほぼ廃墟だけど、まだ使える物資や設備だってあるもの。それに今の東京はかなり危険だと言えるわ。世紀末の悪夢のせいでデミオン濃度が高いの。竜人も沢山いるという噂もあるわ」

「だから俺たちか」

「私たちが狩場にしている旧川崎工業地帯のドラゴンも東京から流れてきているのは知っているでしょう? それだけ危険な場所なのよ。普通のドラゴンスレイヤーには行かせられないほどにね」



 そう言いながら、どこか水鈴は遠くを見つめていた。

 彼女は思い出しているのだ。自身も参加した世紀末の悪夢での戦いを。超大型ドラゴンが率いるドラゴンの群れと戦った日のことを。

 シオンはまだ正規のドラゴンスレイヤーでなかったため参加していないが、キサラギの中には今もその時の恐怖を語る者は少なくない。

 あれから五年半ほど経っているとはいえ、今の東京が危険というのは間違いないだろう。超大型ドラゴンこそ討伐したが、それ以外にも多くのドラゴンは討伐されないまま残っているのだから。そして水鈴の言った通り、ドラゴンの撒き散らしたデミオンによって赫竜病も蔓延していた。予想でしかないが、竜人もかなりの数が徘徊しているはずである。



「……アーシャを外すことはできないのか?」

「ちょっとシオン! あたしは大丈夫よ!」

「いや、流石に訓練を受けていないお前が行くのは無理があるだろ……」

「ふん。問題ないわ! あんたが守ってくれるんでしょ? それにあたしだっていざとなったらキスしてあげるわ。あたしのキスで強くなれるんでしょ?」

「おい、誤解を招くような――」



 その一瞬、空気が冷えた。



「あら? 面白いことを聞いたわね? その子のキスで強くなれる、かしら?」

「シオン君も手が早いですね」

「色々誤解だ水鈴姉さん。それと夏凛さんも!」



 アーシャからデミオンを供給されることでシオンが強化されるのは間違いない。そしてその方法がキスであるということも嘘ではない。

 しかし致命的な誤解が生じているような気がして、シオンは背筋に冷たいものが流れた。

 ただ水鈴も深堀するつもりはないのだろう。

 すぐに雰囲気は戻った。



「まぁその詳細は後で聞くわ。それよりさっきの答えだけど、ノーよ。既に私の権限でその子は一〇六小隊に組み込むことが決まったわ。そして私は東京の調査を一〇六小隊に依頼しているの。この意味が分かるわよね?」

「本気なのか?」

「ええ。二日の休暇を与えるわ。三日後には東京に出発しなさい」



 これも水鈴にできる最大の譲歩なのだろう。

 無茶を頼んでいる自覚のあったシオンは、ここで引き下がることにした。



「分かった。それとありがとう、水鈴姉さん」

「いいわよ。可愛い従弟の頼みだもの。それにシオンを宜しくねアーシャ?」

「あたしをそう呼んでいいのはシオンだけよ。キャトルと呼んで」

「ふふ。馴れ馴れしかったかしら? じゃあよろしくねキャトル」

「勿論よ。あたしに任せなさい」



 アーシャは胸を張って宣言する。

 それを見て、シオンも渋ってはいられない。



(アーシャは俺の唯一だ。絶対に守る)



 その誓いを胸に、シオンは話し合いを終えた。







 ◆◆◆







 シオンとアーシャを退室させた後、水鈴はコップの液体を一口含む。そして喉を湿らせてから再び口を開いた。



「これから忙しくなるわね」

「ええ。RDOからも事情の説明を求めて上層部の誰かがやってくる可能性もあります。キャトルさんが見つかれば問題ですね」

「だから早めに東京へ行ってもらうのよ」



 あの二人を東京へと向かわせるのは、ただ任務のためというだけではない。それも大きな理由ではあるが、RDOの目からシオンとアーシャを逸らすという目的もあるのだ。

 いや、寧ろそれが最も重要な理由であった。



「それよりキャトルの登録をしておいて」

「はい。ですが本当に宜しいのですか? RDOとの交渉には切り札を使うつもりなのでしょう? 素直にあの少女を引き渡しても良かったと思います」

「RDOはどうやってもこっちの責任にしてくるわ。それにあの組織は世界中と繋がりがある。下手に逆らうより、手切れ金を支払って独立した方が得なのよ。あの組織のやり方は嫌というほど知っているわ」

「その手切れ金がアレ……ですか」



 夏凛は心配そうにしている。

 それもそのはずだ。水鈴がRDOに渡そうとしているものは、特別な意味を持つものなのだから。



「ええ。世紀末の悪夢で討伐した超大型ドラゴンのコア。あれを差し出すほかないわ」



 キサラギが地下の研究施設で厳重に保管している最も貴重な物資。それが超大型ドラゴンのコアである。強力なドラゴンのコアは強力なドラゴンスレイヤーの因子にもなり得るものだ。RDOに限らず、どの組織も欲しがることは間違いない。

 つまり、もうキサラギに関わるなという条件を引き出した上に今回の問題をなかったことにするだけの力を秘めている。



「シオン君とキャトルさんに可能性を見出したと?」

「それもあるわ。ほぼ単独で完全異形化した竜人を仕留めたのでしょう? それも竜壁を操るような、大型竜にも匹敵する竜人をね」

「はい。報告ではそのように聞いています。私は実際に見たわけではありませんから、一〇一と一〇九の報告書に詳細が記されているかと」

「話が本当ならば、シオンはますます使えるわ。私たち如月家の異端児。あれは世界で唯一、邪龍とすら戦える素養を備えている。赫竜病にかからないというのはそれだけ貴重よ」

「実際、邪龍・樹海と戦闘し、生き残りました。だからですか?」

「そうよ」



 富士樹海で新たに発見された邪龍。

 水鈴はそれに興味を抱いていた。



「いずれ私たちは富士樹海を攻略し、取り戻す必要があるの。あそこは私たちにとって特別な意味を持つ場所だから」

「水鈴様、それは」

「ええ、ある意味で私の我儘ね」



 水鈴はもう一度、カップの中の液体を含む。

 今度は火照った体を冷ますために。




 これで1章は終わりです。

 2章は執筆中ですので、完成したら投稿します。


 バランスぶっ壊れの世紀末世界を書いてみたいなぁと思って始めた作品ですが、結構難しいですね。あーでもない、こーでもないって考えながら書いていたら1章だけでめっちゃ長くなりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 長くなる分には、それだけ楽しめるので読む側としては嬉しい事ですが、、、2章を楽しみにしています。
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