1話 竜人殺し
新作です。
二年前ぐらいから設定を考え始めていたんですけど、投稿小説が多過ぎると管理できなくなりそうなので『虚空』を完結させてから投稿することにしていました。
今後はこちらをメインに投稿しようと思います。
ドラゴン・ディザスター・デイ。
その日、世界は変わった。
厄災とも呼ばれるその日、生態系の支配者は人間からドラゴンへと移り変わった。
二〇八七年八月十三日。フランス、パリに突如として赤い巨大生物が出現したのだ。鋭い牙や爪は容易く建物を破壊し、車を踏み潰す。透き通る深紅の鱗は警察の銃弾を軽く弾き、後に出動したフランス軍の地対空ミサイルすら効果を及ぼさなかった。
観光地はドラゴンが出現して数時間もしない内に壊滅し、象徴的な建造物ですら容赦なく潰された。一部の一般人が撮影した動画がウェブ上にアップロードされたが、よくできた加工映像だと評されてしまったほどである。
だが情報はすぐさま全世界へと伝わり、各国を震撼させた。
熱心なキリスト教徒たちは終末の予言が成就されたのだと声高々に叫んだ。
事実、通常兵器が効かないドラゴンはパリを中心にヨーロッパ全土へと広がり、僅か一週間の間であらゆる都市を滅ぼした。EU諸国の壊滅に伴って株価は暴落し、世界情勢も混乱した。そしてその間にドラゴンは世界へと広がり続ける。
しかし厄災はそれで終わらなかった。
無数に出現し、また増え続けるドラゴンという厄災に留まらず、病という形で人間は種族の存亡に追い込まれる。体表にドラゴンを思わせる深紅の鱗が現れ、徐々に竜のような姿へと変わっていく。いや、竜人とも言える姿に変化していく病だ。
赫竜病と名づけられたその病は、人としての姿を失う代わりに、人を超えた膂力や回復力を患者に与えた。そこで各国は厄災を以て厄災に対抗することを考える。近代兵器が通用しないドラゴンに対し、ドラゴンの力を得た『人』という新たな兵器をぶつけることを考えた。
ドラゴンの力を取り込み、ドラゴンを狩る者。
彼らはドラゴンスレイヤーと呼ばれ、各国の研究機関が秘密裏に人体実験を開始した。人という種の存亡がかかった時、法や倫理は力を失った。
それから百年以上が経ち、世界は元の姿を失っていた。
世界からは国という組織がほとんど失われ、ドラゴンスレイヤーを主戦力とした都市が各地に生まれた。
旧横浜市に建設された新都市キサラギ。
ドラゴンスレイヤーによって守られた数少ない、人のエリアである。
◆◆◆
二二〇五年五月十日、旧川崎工業地帯。
ここも百二十年前は重要な工業地区として栄えていたが、今はほとんどが廃墟となっている。放置された機械は錆びつき、各工場の壁には蔦が張っていた。時折ドラゴンの唸り声が響くこの場所は、一般侵入制限区域に指定されている。
だが、そこを歩き回る一つの影があった。
「こちら一〇六小隊シオン。該当地区の調査を終了。デミオン濃度レベル二。小型竜を二体確認。新人研修には丁度いいと判断する」
『了解。新人小隊の研修が終わるまで調査を継続せよ』
「……まだやるのか?」
『さっさとやれ』
小さなノイズと共に通信が途絶える。
耳に装着した小型インカムから手を離し、少年シオンは溜息を吐く。
動きやすいながらも頑丈な繊維で作られた服、丈夫な靴、そして腰にはポーチと一本の刀、更に散弾銃を背負っていた。彼は竜を狩る者、ドラゴンスレイヤーなのである。
(危険地域に長く留まるのはよくないんだが……まぁ、俺には関係ないか)
シオンは建物で身を隠しながら移動を続ける。この旧川崎工業地帯は小型から中型のドラゴンが大量に生息することで知られている。あまり長く留まると、見つかって捕食されるだろう。
ドラゴンは人を見つけると執拗に襲いかかり、喰らう。赤い化け物たちにとって、人間とは食料なのだ。
誰も生きたまま食べられて死ぬのは嫌だ。
小型ドラゴンですら車ほどの大きさがあるので、人間を噛み砕く程度のことは可能なのだ。如何にドラゴンスレイヤーが人間を凌駕する身体能力の持ち主とはいえ、やはり純粋なドラゴンの方が強いのは当然。ドラゴンスレイヤーは赫竜病を応用し、ドラゴンの力を意図的に植え付けた人間なのだから。
「ウゥゥゥ……」
微かな唸り声に反応し、シオンは息を潜める。同時に、羽ばたく音が上から聞こえた。その音は徐々に近づき、やがて重いものが地面に降り立つ。
ドラゴンが空からやってきたというのは見なくとも分かった。
(だから嫌なんだよ)
物陰で溜息を吐いたシオンは、左手に力を込める。その手は腰の刀に触れていた。
ドラゴンの最も厄介な部分は空を飛ぶことだ。鳥が自由に飛び回るように、ドラゴンも自身のテリトリーを自由に飛び回る。一時エリアの安全を確保したところで、空から別のドラゴンが新しく現れることも珍しくない。
今回もその例であり、シオンの仕事はその始末、あるいは追い払うことだ。
少しだけ顔を出し、ドラゴンを確認する。
(小型、か。何とかなりそうだな)
ここにいるのはシオン一人だ。これが中型だったなら、迷わず逃げていただろう。中型ドラゴンを討伐するとなると、シオンと同レベルのドラゴンスレイヤーが複数名必要となる。単独で討伐できるのは小型ドラゴンまでだ。
刀に右手をかけたシオンは、タイミングを伺う。
そしてドラゴンが視線を向こう側へと向けた瞬間、物陰から飛び出した。狙うは不意打ちだ。ドラゴンスレイヤーとしての身体能力をフル稼働させ、抜いた刀でドラゴンを背中から貫く。
竜鱗を思わせる深紅の刀身が、ドラゴンの心臓を潰した。
「グルルルゥ……ォォォオ……」
弱々しい唸り声をあげて、ドラゴンは地に伏した。シオンは刀を抜く。だが、その刀身には血が付着していなかった。ドラゴンには血液が存在しない。ドラゴンの心臓は、ドラゴンを構成するデミオンという物質を供給する器官なのだ。デミオンの供給が止まれば、ドラゴンは死ぬ。
倒れたドラゴンは徐々に体が崩れていき、やがて風に乗って消えて行く。
最後に赤い宝石のような塊だけが残っていた。
「コアの回収も完了っと。今日はこれで三つか」
シオンは拾い上げたコアをポーチに仕舞った。
心臓がドラゴンにデミオンを供給するとすれば、コアはデミオンを溜めておく器官だ。このコアはデミオン資源なので、ドラゴン討伐後に回収することが推奨されている。
そしてまたすぐに物陰へと隠れた。
一瞬で終わったとはいえ、戦闘音を立ててしまったのだ。他のドラゴンに気付かれる前に姿を隠すのが定石である。
「グルルルゥ! グオオオオン!」
「ガアアアアア!」
シオンの選択は正解であった。隠れてすぐに二体の小型ドラゴンが現れ、空で旋回を始めた。流石に刀の届かない空中のドラゴンに喧嘩を売るつもりはない。銃も持ってはいるが、近距離での使用を想定した散弾銃なのだ。隠れてやり過ごすことに決めた。
ドラゴンはしばらく旋回し続けた後、別々の方向へと去っていく。
「取りあえず見つからなかったか……あの竜、乱入しなければいいけど」
今回の任務は新人ドラゴンスレイヤーたちのための哨戒だ。
念のため、インカムのスイッチを入れる。
「こちら一〇六小隊シオン。当該区域に小型竜が二体乱入。注意を」
『オペレーター了解。三一七小隊、そこから確認できるか?』
『三一七小隊の正一だ。こちらからも見えた。片方は俺たちでやる。海側に行ったもう片方を頼むぞ』
「一〇六、了解」
通信を切り、シオンはまた移動した。
◆◆◆
ドラゴンスレイヤーは貴重な存在だ。
しかし危険な職種でもあり、簡単に失われてしまう。それで頻繁に新人のドラゴンスレイヤーが入隊してくる。今回、初めてのドラゴン討伐となる四〇八小隊には三一七小隊が同伴していた。
「間もなくこっちに小型竜が一体やってくる。それは俺たちが何とかする。お前たちはまず、銃で援護してみろ」
廃工場の一つに隠れていた彼らの内、新人の五人は緊張した様子である。ある者は刀を握り、ある者は銃に込めた弾を確認し、ある者はキョロキョロと周囲を確認する。正真正銘、命がかかった仕事なのだ。新人でなくとも、やはりドラゴンの接近が分かると無言になる。
三一七小隊のリーダー、正一は新人それぞれに最後のアドバイスを送った。
「竜馬は周りが見えなくなる癖がある。常に全体の戦況を見極めて。彩は怖がり過ぎだ。もっと攻めていこう。竜は怖がっている奴を狙ってくるからね。氷室は銃器の扱いが苦手だったかな。弾を無駄にしないよう、丁寧な立ち回りを心掛けて。遥は狙撃手だから……上手く気配を消すんだ。それと発砲後はすぐに移動して、ドラゴンに位置を捕捉されないようにしてね。氷花は……まぁ、緊張だけしないように」
新人ドラゴンスレイヤーは、初めてのドラゴン討伐の前に種々の訓練や座学を積んでいる。刀の振り方、銃の扱い方、そしてドラゴンへの知識である。
そしてドラゴンに有効な武器は主に二種類。
「やるぞ。玄、浅実、莉乃」
正一を含む三一七小隊の四人は刀を抜いた。
その刀身は深紅であり、どこか水晶のような透明感もある。しかし、強度は充分な物質だ。あらゆる近代兵器を弾くドラゴンの鱗と似た素材であるため、ドラゴンを切り裂くことができる。
そして新人である四〇八小隊の面々は銃器を構えた。
見た目は通常の銃火器だが、その弾丸の弾頭は刀と同じく赤い。
「遥は狙撃位置に移動を。他の四人は俺たちに続け」
そう言って、正一は廃工場から飛び出した。
続く形で三一七小隊の他の三人も出ていくと、空を飛んでいた小型ドラゴンはそれに気付いた。ドラゴンは人間を襲う習性があるため、姿を見つけると急降下してくる。
空を飛ぶドラゴンは、まず囮となる近接戦闘部隊が先に飛び出し、ドラゴンが急降下してきたところを銃火器で迎撃して撃ち落とすのが教科書にも載っている基本戦術だ。
今回もこの戦術が上手く嵌った。
「今だ!」
小隊長である正一がそういうより少し早く、三一七小隊のメンバー落ちたドラゴンへと斬りかかっていた。彼らは普段、調査小隊として活動している部隊だ。そのため小型ドラゴンですら全員で狩る。たとえ小型であっても、一人でドラゴンを狩ることができるのはエース級小隊だけである。
全方位から一斉攻撃されたドラゴンは、動きを止めた。
しかし死んだわけではない。
コアに蓄積されたデミオンが心臓によって供給され、傷は回復している。通常の兵器を通さない竜鱗の強靭さと、この回復力こそがドラゴンの強さである。心臓かコアを破壊しない限り、ドラゴンを討伐したことにはならない。
動きを止めた小型ドラゴンにトドメを刺すのは玄の役目だ。背中からドラゴンの心臓部に向けて刀を突きだし、見事に貫く。
心臓を破壊された小型ドラゴンは、そのまま沈黙した。
「三一七小隊の正一だ。こちらは竜を仕留めた。新人研修も無事完了だ」
『こちらオペレーター。了解だ。帰投準備を進めろ。合流地点は川崎エリア、ポイントCだ』
「三一七小隊、了解!」
正一はオペレーターへと連絡を終えた。
一瞬のことであったが、これで任務は終了となる。しかし帰るまでは油断できない。新人が最も死にやすいのは、任務終了後に油断して起こるのだから。
◆◆◆
「よっ……と」
また小型ドラゴンを討伐したシオンは、本日四つ目となるコアを回収して再び身を隠していた。そして周囲の安全を確保し、刀の状態をチェックする。確かに対竜武装として刀は効果を発揮してくれるが、扱いを間違えたり雑に振るえば刃が欠けることもある。
(見た限りは欠けも無し。あとは内部の亀裂か)
刀のメンテナンスで最も困難なのは、内部の脆弱化を発見することだ。表面に現れない内部の破損は非常に気付きにく。これが原因でドラゴン討伐中に刀が折れ、死んでしまったドラゴンスレイヤーの事例もあるのだ。
そしてこの内部破損の簡易的なチェックも、しっかりと方法が確立されている。
シオンは体内のデミオンを少しずつ流していく。
デミオンによって肉体を構築するドラゴンと同様、ドラゴンスレイヤーたちも体内に多少のデミオンを有する。ドラゴンがデミオンを供給して竜鱗を堅くしているように、ドラゴンスレイヤーもデミオンを供給することで対竜武装を瞬間的に強化することができるのだ。これを活性化という。
このデミオンを刀にゆっくり流し込むと、徐々に柄の方から刃の先に向かって赤の輝きが増していく。
(特に問題もない、と)
ここで刀身に流されるデミオンが僅かでも滞った場合、亀裂が発生している疑いがある。今回は問題なかったが、これで武器破損寸前という疑いがあるならば撤退を希望することも可能だ。
ドラゴンスレイヤーはあくまでも貴重な戦力。
無暗に特攻させることはない。
その代わり、戦場での判断はほとんど自己責任だ。各部隊の通信や戦術指揮などはキサラギ本部のオペレーターが管理してくれる。しかしそれは大局でしかない。オペレーターの指示を参考にしつつ、各自の命は各自で守らなければならないのだ。
確認が終わった後、刀を鞘に戻してインカムのスイッチを入れる。
「一〇六小隊のシオンだ。小型竜は始末した」
『こちらオペレーター。新人小隊も無事に竜の討伐を終えたらしい。今は帰投準備中だ。一〇六小隊も帰投してくれ。合流地点は……いや、待て』
「どうした?」
『例の新人たち、三一七小隊からの救難信号だ。この信号は……竜人遭遇だと!?』
「撤退指示は?」
『出してはいるが、返事がない。恐らく既に戦闘中だ』
インカムは常にオペレーターと、同じエリアで作戦中の小隊からの通信を受信している。一方でこちらから発信する際にはインカムのスイッチを入れてから話さなければならない。
しかし急な戦闘で状況説明が難しい時、ボタン一つで救難信号が発信できるようになっている。救難信号は誤発信を防ぐため、モールス信号のように特定の符号で押すことが決まっている。また符合の種類により緊急案件の内容も分かるようになっていた。
そしてオペレーターへと発せられた緊急信号の符号の意味は『竜人遭遇』である。
『シオン、この任務にお前がいてくれたことは幸運だ。頼むぞ「竜人殺し」』
「……ああ」
『誘導する』
シオンはオペレーターの誘導に従い、移動し始めた。
◆◆◆
三一七小隊と四〇八小隊を襲った悪夢には、何の前触れもなかった。
初めての竜討伐に興奮や呆気なさを感じていた新人たちの熱が冷めてきた頃のことだった。
「そろそろ帰りましょう。長く騒いでいたら、新しい竜に見つかるわ」
「油断大敵。それもそうね」
浅実と莉乃がそう話して新人たちに声をかけようとした時、莉乃が気付いたのだ。崩れた工場から姿を見せた、赤い人型の生物に。
「危ない!」
咄嗟に莉乃は新人たちの前に出て、刀で防御態勢を取る。
新人たちが驚いて莉乃を見た時、彼女は刀を破壊され、右肩から上半身をバッサリと切り裂かれていた。爪で切り裂かれたような三条の傷から鮮血が飛び散る。
「莉乃!」
「気を付けろ正一。竜人だ!」
「ああ。玄は援護を頼む」
血を噴き出しながら倒れた莉乃を支えたのは氷花だった。だが、彼女は新人の中でも比較的落ち着いている方で、他のメンバーは酷く混乱していた。
特に血が上りやすい竜馬は反射的に刀を抜き、現れた竜人へと斬りかかる。
だがそれは無謀だった。
正一と玄が竜人に対処する前に、竜馬が手を出してしまったのだ。勿論、竜人は竜馬に反応して攻撃する。彼の刀による攻撃を軽く弾き、そのまま爪で竜馬の首を引き裂いた。
「竜馬! くそ! 正一!」
「緊急信号は送ったよ。援軍が来るまで俺たちで耐えるしかない」
竜人はあくまでもドラゴンだ。
赫竜病の慣れの果て、人でありながらドラゴンに近くなってしまった哀れな存在である。
「接触禁忌種だ。新人共は早く逃げろ! それと竜馬と莉乃は諦めろ。もう無理だ」
「でも正一さん……」
「分かっているはずだ彩! 竜人に傷付けられたら、もう助からない。赫竜病に感染する。まして竜人と戦いながら死体や怪我人を連れて帰るのは無理だ」
竜人はドラゴンと同様に危険種として認知されている。
ドラゴンスレイヤーたちは調整されたデミオンによって力だけを引き出せるようにしている。一方で竜人は赫竜病によってデミオンに侵食され、ドラゴンとしての性質に近くなった存在だ。
そして竜人はドラゴンに近いが故に、人を襲い、喰らう。
「あ、竜馬」
新人の一人、氷室が腰を抜かす。
それもそのはずだ。竜人が死体となった竜馬を食べ始めたのである。竜人は体表こそ赤い竜鱗に覆われているが、あくまでも人型だ。人型の生物が人を喰らうという衝撃的な光景を前に、冷静でいられるはずがない。
長くドラゴンスレイヤーをする正一たちならば、仲間の死もすぐに受け入れる。死と隣り合わせの仕事に感傷は不要だ。
「早く逃げろと言ったはずだ!」
正一と玄が一斉に竜人へと斬りかかる。竜人は二人の攻撃を避けて飛び下がった。
もう竜人は人ではない。殺さなければならない。だが、この考えは悔しいものでもあった。
(すまない、莉乃)
チラリと後ろを見ると、傷口を抑えて苦しむ莉乃がいた。ドラゴンスレイヤーは凄まじい回復力を有するため、重症からでもその場で回復できる。しかし感染は違う。赫竜病の感染はあっという間に広がっていくため、止めようがない。
そもそも赫竜病の原因はデミオンであり、ドラゴンスレイヤーが有する回復力の源泉もデミオンだ。つまり、赫竜病の進行を速める効果しかない。ドラゴンスレイヤーが竜人に傷を負わされた場合、その傷口から侵食してあっという間に竜人化してしまう。
もう莉乃は助からない。
完全な竜人となり、ドラゴンの本能に支配される前に介錯することが彼女にとって幸せだ。
「彩、氷室、遥、ここは任せて逃げるよ。私たちがいたら足手まといだから」
「で、でも氷花……」
「小型竜もまともに倒せない私たちが竜人を相手にできるはずがない!」
竜人化が進む莉乃を離し、氷花は氷室を引っ張っていく。流石に氷室も我に返ったのか、自身の足で駆けだした。
こうしている間にも正一と玄は竜人と切り結び、浅実は拳銃で援護する。
その激しい音は逃げながらも聞こえていた。
「いいのかよ氷花! 俺たち、何もしなくて!」
「竜人は普通のドラゴンより堅い。人間サイズの体に少なくとも小型竜並の力が入っているのよ。力の密度が絶対的に違うの。私たちの刃じゃ、通らない」
初任務で仲間を失い、みすみす逃げることになった。
氷花も彩も氷室も遥も悔しい。
「それに通信を聞いたでしょ。『竜人殺し』が来る!」
その言葉に、逃げる新人たちはハッとした。
彼らは知っている。
ドラゴンスレイヤーとしての講座の際、少しだけ聞いたことがある。
キサラギには竜人を葬ることに特化したエース部隊が存在すると。そしてその部隊の唯一の隊員にして隊長は、『竜人殺し』と呼ばれていることを。
とりあえず今週は毎日出します。
その後は週一投稿ですかね。