第5話 始末①
クレイジーと犀子は一旦別れ、それぞれで裏切者ベタリートを探していた。
「おいそこのおっさん、この男知らない?」
クレイジーが路地裏で酔っ払いに写真を見せた。
「ああァ~?酒くれたら思い出すかもなあ」
酔っ払いの態度にイラつくクレイジーだったが、10分後どこかから酒をかっぱらって戻って来た。
「おらよ。これでいいの?」
「うぃ~、ありがとよ」
グビグビと酒を飲む男。あっという間にボトルは空になった。
「で、思い出した?」
「あはは、ああ~その男だけどよ。よく見たら知らなかったわ。わり…」
「パウンド・キック!」
キレたクレイジーが酔っ払いを思いっきり蹴っ飛ばした。
「ほげぶ!?」
酔っ払いは4メートルぶっとび地面に激突し、気絶した。
「はあ、聞き込みしてもこれじゃ埒が明かないね」
そう言ってクレイジーが別の方法を考え始めたその時、
「お前が最初の犠牲者や!」
隣の建物の窓から刀を持った少女がクレイジーめがけてふって来た。身長はクレイジーより一回りだけ上。銀髪を後ろで縛ってあるこれといって肉体の異形化の見られない褐色の少女だった。
クレイジーは一切動じず、左手で刀を掴み少女ごと地面にたたきつけた。
「いきなり降ってくるなんて何のつもり?」
右腕を砲身状に変化させ、クレイジーは問う。
「あの、その、堪忍してくれ!ほんの出来心なんや!」
「出来心とはいえ私に一太刀浴びせようなんて十年早いよ」
クレイジーが砲身を突き出す。
「や、やめ」
「待て新入り!そいつは殺すな!」
その時だった。道路側からシベリアンハスキーの獣人のようなワカの男が現れ、クレイジーに叫んだ。
「え?」
「お前、キノコ女がいってた新入りだろ?体が武器庫のワカの」
「うん。まあだいたい合ってるけど。お宅もメボロの?」
砲身を少女の頭から外し、クレイジーは答えた。本当はヒューマノイドだが説明するのも面倒だったので、男の言う通り武器庫のワカという事にしておいた。
「その通り。メボロさんの一番部下のジョニーだ。よろしくな後輩」
「うんよろしく。で、なんでジョニーは私がコイツを殺るのを止めたワケ?」
「俺は人一倍鼻が利くんだけどよ。そいつから漂ってんだ」
「まさか」
「あの裏切者の匂いがな!」
ジョニーとクレイジーは少女(どうやらベタリートに雑用として拾われたようだ)に居場所を教えるよう尋問した。意外にも少女がすぐに口を割ったため、暴力は伴われなかったようだ。
アジトの情報を掴んだ二人は散らばっていた犀子や他のメボロの部下達を集めた。そして午後6時丁度、武装した一行は裏切者の本拠地に乗り込むのだった。
〈とある廃倉庫〉
「久しぶりだなベタリート」
そこには写真そっくりの、サングラスにピンク色の舌をだらりと伸ばした男が、大勢の部下の奥で座っていた。その数はメボロの部下達の3倍以上であった。
「おおジョニー、久しぶりだなァ。聞いてくれ。俺今度エチゼン組の若頭補佐になるんだ!悪いね先に出世しちゃって」
緊張感のない顔でベタリートが挑発する。
「冗談も大概にしろベタリート!ファミリーに後ろ足で砂をかけやがって!」
ジョニーが真っ先に、牙をむき出しにしてとびかかった。ベタリートはダガーでそれを受け止める。廃工場に響く牙とダガーの音。開戦の合図だ。
「くたばれゴミ共!」
ベタリートの部下たちが武器を掲げて襲いかかる!
「お前らは周りのザコたのむ!」
ジョニーが叫ぶ。
「だってさ、爺さん。私が裏切者を殺して手柄にしたかったのに」
右腕を変形させながらクレイジーが言う。
「まあ今回はいいじゃろ。裏切者の捜索に貢献したのはジョニー君じゃしの」
そう言いながら犀子は白衣のポケットから拳銃型スタンガンを取り出す。老兵犀子が長年愛用している武器である。
「へぇー。爺さんも戦えるんだ」
「まあ人並にはのう」
犀子は不敵な笑みを浮かべた。
つづく