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#3. 〔白の書〕と〔黒の書〕

 馬車はゴロゴロと音を立てて領主の城に入っていく。全部は入り切らないのではないかと思った。


 馬車のうち二台は食料が入っていたが残りは人が入っていた。王子を守るための騎士がほとんどで、残りの一台にはメイドや使用人など王子の世話係が、もう一台には研究者らしき人々が乗っていた。研究者たちは王都の魔法学校にいたデリクに風貌がにていた。どうして彼らが必要なのかとんと検討がつかない。この街にそんなに珍しいものでもあるんだろうか。


 僕たちは大広間に通された。そこにはすでに机が準備されていて、王子は導かれるまま位の高い席に座らされた。座った後も緊張しているのか、王子は椅子の肘掛けをせわしなく触っていた。ローレンスが彼の隣に座り、向かいに領主が座った。僕たちは下座に座る。


 話はローレンスが主導した。


「〔魔術王の左脚〕が魔術師たちの手に渡らなくて本当に良かった。防いでくれた報酬として白金貨五枚を贈ろう」


 リンダたちがざわついた。大金だ。その反応は正しい。僕は計算していた。白金貨一枚が金貨一〇〇枚換算だから、


「〔魔術王の左脚〕一〇本分か……。あ……」知らぬ間に口に出していた。これじゃあアンジェラに文句を言えない。


 ローレンスは青ざめていた。


「まさか……誰かに売ったんじゃあるまいな?」彼の声は震えていた。

「違います。買ったんです。違うループでの話ですよ」


 ローレンスはホッとため息を吐いた。それから彼は追加の報酬目録を読み上げた。どれも貴重品で現物支給。メイドの一人が《マジックボックス》から次々に取り出して、大広間の一角は報酬で埋まった。なんとなく武器が多い印象だった。


「それはアール様の趣味です」ローレンスが言うとアールは「うっ」と顔を赤らめてうつむいた。

「……報酬に関しては以上だ」


 報酬はたくさんあったが僕には価値のわからないものばかりだった。きっと役に立つのだろうが、宝の持ち腐れだ。必要な人にでも渡すことにしよう。


「ここからが本題なんだが、スティーヴン、現状ユニークスキルはどの程度使えるのかな?」


 この人たちはどこまで知っているのか? というかレンドールがどこまで話したのか僕にはわからなかった。僕は少しうつむいて言った。


「ほとんど使えません。他の人より少し記憶力がいいという程度で、図柄を全て詳細に思い出すということはできません」


 ローレンスは頷いて、続けた。


「領主へも連絡したが、私達は君のユニークスキルを治す方法を知っている」ローレンスは近くのメイドに指示を出した。彼女は騎士に守られて、一つの箱を持ってきた。厳重に鍵がされている金属の箱だった。ローレンスは内ポケットから鍵を取り出すと、箱に差し込んで回した。ごとんと鈍い音がして箱が開く。彼は中から二つの書物をとりだした。


 白い書物と黒い書物。光に照らされて鈍くきらめく二つの書物は凸凹とした表紙で波打っている用に見えた。もしかしたら蛇かなにか、鱗のある生物の革で装丁されているのかもしれない。


「〔白の書〕と〔黒の書〕だ。王家の宝物庫から持ってきたものだ。魔術師が本格的に動き出したと聞いて、以前より解読にあたっていたものだ。〔黒の書〕には歴史が刻まれている。それは〔勇者〕の一人が国王になる以前からの歴史。そしてもう一つ、重要な〔白の書〕。これに君のユニークスキルを直す方法が書いてある」


 ローレンスは〔白の書〕に手をおいたまま言った。 


「私達には君のスキルを直す準備がある。〔白の書〕の解読は進んでいるし、取り戻すために必要なものもわかっている」

 僕はリンダやマーガレットと顔を合わせた。彼らは微笑んで僕を見ていた。

「ただし条件がある」ローレンスは頬を掻いてそう言った。


 ……僕は顔を曇らせた。


「何でしょう?」


 ローレンスは今までソワソワとして黙ったままだったアールを見た。彼はアールに何かを言わせたいらしい。アールはローレンスの視線を感じて「ああ」とか「うう」とか言ってうつむいて両手を揉んでいたが、意を決して言った。


「……もし、ユニークスキルを取り戻したら……僕の従者になってほしい」




 僕は眉間にシワを寄せて領主を見た。領主は分が悪そうな顔をして僕から目をそらした。やっぱり裏があった!! 人なんて信じられないんだ! なんて、飼い主に叩かれた犬みたいに、心の隅っこで蹲った。

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