表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/124

# 40. 終わり

「どうしてお前は、〔魔術王の左脚〕なんか装着するんだ? どうして俺と敵対しようとしているんだ? どうして俺を裏切ろうとしているんだ?」アムレンの突き出す剣の切っ先は震えていた。それはアムレン自身の震えだった。


 ロッドは首にある剣をものともせずに言った。


「父さんがどう言って僕を育てたか知ってる?」


 アムレンは眉間にしわを寄せた。ロッドはそれで十分だというように続けた。


「兄さんは知らないだろうね。そりゃそうだ。父さんはこう言ったんだよ。『お前はアムレンと同じ顔をしているのにどうしてそんなに無能なんだ』って」


 アムレンははっとした。

「そんな……」


「あれはひどい親だった。僕の顔を焼いたのだって事故じゃない。わざとなんだよ。でも僕は父さんを愛していた。父さんに好かれたかった。その為には力が欲しかった」


 ロッドは目に巻いた布を外した。火傷後の残る目元が現れた。


「兄さん。僕は兄さんみたいに〔魔術王〕の力を受け継ぎたかった。それが父さんに好かれる方法だと思った。羨みは嫉妬に変わった。僕は兄さんを妬んでいたんだよ」


 ロッドはドロシーの手にある〔魔術王の左脚〕を見た。


「僕が〔魔術王〕の力を手に入れる方法はひとつしかない。それは〔魔術王〕の体の一部を装着することだ。僕はついに手に入れた。後は兄さんの手から受け取って装着するだけだった」


 彼は笑った。


「僕にとって装着は同時に明確な裏切りなんだよ。僕は兄さんを超えるために〔魔術王の左脚〕を装着するんだから」

「ロッド……」アムレンはつぶやいた。そこには同情と罪悪感の色が浮かんでいた。

「すまない。気付いてやれなくて……」


 ロッドは首を横に振った。


「いいんだ兄さん。もう全部終わってしまったことだ。兄さんの信頼も失ってしまった。僕には〔魔術王〕の力が手に入らない」





 ロッドはアムレンに微笑んだ。

「じゃあね。兄さん」




 ロッドはアムレンの突き出していた剣に、自らの首を突き刺した。



「やめろお!!」



 アムレンは叫んだが、すでに剣は喉を深く切り裂いていた。ロッドは倒れた。アムレンは血を浴びて放心していた。


 僕にはロッドを救う手立てがあった。《エリクサー》を使えばいい。しかし、どこまで過去に戻っても、ロッドを改心させる方法はないように思えた。彼のその嫉妬や、考え方の根底には幼いころからの教育が沁み込んでいた。この数年で、どうこうなる問題ではない。


 ロッドはアムレンに手を伸ばしたが、その手は届くことなく、地面に落ちた。

 ロッドは絶命した。




 ◇




 アムレンはしばらくロッドの頭に手を置いていた。彼は静かに涙を流して、ロッドを見ている。


 デイジーが心配そうにアムレンのそばでそれを見ていた。マーガレットが彼に近づいた。デイジーが彼女を見上げた。マーガレットはデイジーの頭をなでてから言った。


「父さん」


 アムレンははっとして顔を上げた。


「そうか。そのことも知っているんだな。……家族がお前だけになってしまったよ。いや。マーガレットとデイジーの二人だな」


 デイジーがにっこり笑って言った。


「わたしも家族!」デイジーは笑顔のままマーガレットを見上げた。

「話したいことがたくさんあるんだ」マーガレットはそう言った。アムレンは頷いた。

「ああ、そうだな。なんでも聞こう。そしてなんでも話すよ。ロッドと同じ不幸を繰り返さないために」


 アムレンは言って立ち上がると、ロッドの死体を《マジックボックス》に入れるようにデイジーに言った。


「ふさわしい場所に埋めるよ」アムレンはマーガレットに言った。




 オリビアが壊れたオートマタの部品を片っ端から集めて《マジックボックス》に収納している。


「うひょー、宝の山だ」とか言っている。

「ロッドの《マジックボックス》から移動したオートマタですけど、外に出さないでくださいよ」


 僕がそう言うとオリビアは怪訝な顔をした。


「なんでよ」

「暴れるからです」オリビアは納得して、鼻にしわを寄せた。

「売れないじゃん」


 僕はドロシーを連れて歩いていきアムレンに近づいた。


「アムレンさん」

「ああ、スティーヴン。……すまなかったな、俺の弟のせいで何度か死んだだろ」


 アムレンはそう言った。


「ええ。まあ。あの、これなんですけど」僕はドロシーの持つ〔魔術王の左脚〕を指さした。

「なんだ?」

「難解なパスワードをかけた《マジックボックス》に入れれば封印と同じように誰の手にも渡らずに済むのじゃないかしら」ドロシーがそう言った。


 アムレンは首を横に振った。


「それが、ダメなんだ。もし、他の〔魔術王〕の一部が奪われたとき、それを装着したものは――〔魔術王〕の子孫だが――《マジックボックス》の中だろうと、どこからでも封印されていない他の〔魔術王〕の一部を呼び出すことができる。発見されてしまうんだよ」

「じゃあ、全部マジックボックスに封印すれば……」僕がそう言うとアムレンはまた首を振った。

「〔魔術王〕の一部は規格外で、力が強力だ。二つ以上マジックボックスに入っていると《マジックボックス》というシステムが崩れる」




「じゃあ、どうしようかしら」ドロシーはつぶやいた。

「俺が封印しなおす。元々そのつもりだったからな。といってもロッドがいなくなった以上、何か別の方法を考える必要があるが……。それまでは厳重に保管しよう」



 ドロシーは僕とマーガレットを順にみて、それから彼に〔魔術王の左脚〕を手渡した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ