# 39. 戦闘
オートマタは口をひらき、しゃがみ込んで、それから、突撃してきた。僕は魔法壁を張った。が、そのオートマタが右手を伸ばすと、魔法壁が消えた。
「《アンチマジック》!?」
僕は慌てて、ドロシーを背に隠した。
影ができる。
マーガレットが剣を抜いて、オートマタの突撃を止めた。
オートマタはマーガレットの剣にぶつかるとバックステップで距離を取った。
ロッドはもう一体のオートマタに言った。
「他のも呼び出しなさい。5体くらいで十分です」
そのオートマタは同じく無詠唱で魔法を発動しようとした。僕は《アンチマジック》で応戦する。魔法が消えると、マーガレットに突撃したオートマタが反応した。奴は、また、マーガレットに突撃した。人間とは異なる捨て身の攻撃で、体に傷を負うことをいとわない分、踏み込みも威力もまるで違うように見えた。
マーガレットが後退する。僕は彼女にぶつかる。マーガレットとオートマタの体でロッドの姿が見えない。
それはつまり、ロッドの近くにいるオートマタの魔法が見えず、《アンチマジック》が使えないことを意味する。
僕はドロシーを背に隠したまま、ロッドが見える位置に動こうとした。が、マーガレットと戦闘するオートマタが、僕の目的がわかるように、マーガレットを動かして、僕の視界を狭めた。
リンダが叫んだ。
「スティーヴン! なんか機械がぞろぞろ出てきたにゃ!!」
マーガレットが一体目のオートマタを破壊する。僕の視界が開ける。
五体のオートマタが一斉にこちらに向かっていた。
僕は魔法壁を多重展開する。五体のオートマタが一斉に《アンチマジック》を発動する。
魔法壁が片っ端から割られていく。
最後の一枚が割れて、オートマタが突撃してくる――。
視界の端に何かが映る。
瑠璃色のそれは、オートマタたちに横から突撃して、隊列を崩した。
「デイジー!?」
マーガレットが叫んだ。
アムレンがその後ろから追撃する。
オートマタたちの胸あたりがスパンと斬られる。
オートマタはよたよたと歩いてたがいにぶつかり、倒れた。
ロッドを見ると、すでに新しいオートマタを準備していた。その数、十体。おそらくもっと隠し持っているだろう。
僕はドロシーをリンダの近くまで下げると前線に戻った。
「キリがない」マーガレットはつぶやいた。
「どうして、王都で《テレポート》が使えるんですか?」僕はアムレンに尋ねた。
「あれは《テレポート》じゃない。《マジックボックス》だ。ロッドはオートマタを一瞬だけ起動停止させる機能を作った。起動停止したオートマタはいわば仮死状態だ。《マジックボックス》に入れられるんだよ」
僕は思いだす。
――この前も新しい機能追加してたじゃないか。ええと、なんだ……
――起動停止した数秒後にすぐに起動できるやつ?
確かにそんなことを言っていた。
デイジーの転移もすべて《マジックボックス》だったのか……。
そこで、僕は気付いた。
「オリビアさん!! オートマタの《マジックボックス》のパスワードを読み取ってください!!」
リンダの後ろに隠れていたオリビアが言った。
「なんで読み取れること知ってんの!?」
「いいから早く!!」僕は十体のオートマタを食い止めるべく魔法壁を大量展開しながら叫んだ。
「もうとっくに読み取ってる!! 私の能力舐めるんじゃない!!」
オートマタを外に出してはいけない。外に出した瞬間、起動してしまうだろう。仮死状態にならない限り、オートマタは《マジックボックス》に入らない。
じゃあどうすればいいか。
デリクが言っていたではないか。
――あの女はこの技術を利用して《マジックボックス》同士をつなげる論文を書いた。二つの別々のパスワードからなる《マジックボックス》を用意して、一方からもう一方に物を移動する。一度も外に出さずにな。何につかえるかは知らん。だが研究とはそういうものだ。
オリビアはその方法を知っている。一度も物を外に出さずに、《マジックボックス》の間でやり取りする方法を知っている!!
「じゃあいつものように『盗んで』ください!! 論文に書いたように、《マジックボックス》の外にオートマタを出さずに!!」
「なんでそんなことまで知ってるのよ!! それに羊皮紙もペンもインクもない!!」
オリビアがそう叫ぶので、僕は自分の《マジックボックス》からそれらを出して、オリビアに投げつけた。
「早くしてください!!」
「わかってる!! 急かさないで!! 羊皮紙もう一枚頂戴!!」
僕は追加で彼女に投げ渡した。オリビアは、リンダの後ろで、スクロールを書き始めた。初めは『転写』を使って《マジックボックス》を二枚書いて、そのあと二つのスクロールをつなげるように何かを書いていた。
その間にもオートマタたちの攻撃は続く。リンダやテリーも応戦して数が減っていく。
その時一体のオートマタが、僕たちの上を飛び越えた。
取りこぼした!
奴がリンダとオリビア、そして〔魔術王の左脚〕を持つドロシーの方へと駆けて行く。
マーガレットが振り返る。
彼女は走り、オートマタに追いついた!
その胴を後ろから斬り裂く。オートマタは前のめりにたおれた。
「お、おお、助かったにゃ、マーガレット」
リンダは身を小さくしたまま言った。
「ああ、引き続き後衛頼む」
マーガレットはつづけた。
「……頼りにしている」
リンダはその言葉に一瞬動揺したが、すぐにニッと笑って言った。
「任せろにゃ!」
マーガレットが前線にもどったとき、オリビアが叫んだ。
「できた! アクティベイト!!」
僕はちらと振り返る。オリビアの眼前が少し揺らいでいるのが見える。どんな魔法なのか僕は知らない。うまくいってくれるといいが。
オートマタに魔法を邪魔されないよう、奴らをはじき返し、突き刺す。
「終わり!! さすが私!!」
オリビアが自画自賛している。
オートマタは残り三体。一体はロッドの近くで《マジックボックス》を発動しては首をかしげている。
マーガレットとアムレンが一体ずつ破壊する。
体を斬り落とされたオートマタたちがゆっくりと倒れた。
アムレンはロッドに漸近して、最後のオートマタを切り倒すと、ロッドの首元に剣を突き付けた。
「どうしてなんだ、ロッド」アムレンは息を切らして言った。