# 35. もう一度王都に
守護者たちがやってくる日になった。僕と、マーガレット、ドロシーそれからリンダとテリーが教会で待っていた。テリーは王都に行けるというのでワクワクしていた。
教会の中に子どもたちはいなかった。ドロシーが外に出すように他のシスターに伝えていた。
しばらくして、レンドールがやってきた。白い服を着て、髪を整えていた。あの日のままだった。
教会に入って来た彼に僕は声をかけた。
「レンドールさん話があります。ティンバーグから奪われた〔魔術王の左脚〕についてです」
突然声をかけられて、レンドールはひどく迷惑そうな顔をしていたが、ティンバーグという言葉が出ると、はっとした。彼は僕の服の襟をつかんだ。
「何者ですか? 返答次第ではただでは置きません」
マーガレットがいつの間にか剣を抜いていて、レンドールの首元にぴたりと当てた。
「手をはなせ。また死にたいのか?」
レンドールは僕から手を放すと、そのまま両手を上げて怪訝そうな顔をして、マーガレットを見た。
「また、とは?」
僕は彼に言った。
「すべて話します。まずは、封印を強化してください。使い方はわかっています。月に一度、ブラッドタイガーから取れる魔石かそれと同量の魔石であれば十分、でしたね? あとはアンジェラさんを待ちます」
レンドールはますます訝しんでいたが、マーガレットに切っ先を突き付けられているので、しぶしぶといった様子で封印の強化作業を行った。
アンジェラが来るまでにしばらく時間がかかった。確かどこかの店に行っているのだったか。
「いやあすみません! 遅くなりました! お店にいいものがいろいろありまして……」
しばらくして、アンジェラが教会に入ってきた。彼女は笑顔で、僕たちをみて、レンドールを見て「お取込み中でしたか?」と尋ねた。
「待っていました。アンジェラさん。領主様にはすでに了解をいただいています。王都に向かいましょう」
アンジェラは首を傾げた。僕は続けた。
「ああ、それと、アンジェラさんには僕が『記憶改竄』スキルを持っているのが見えていると思いますが、それについても詳しく話すので、あんまり騒がないでくださいね。ドラゴンの首輪を使うのは禁止です」僕はレンドールに言った。
アンジェラとレンドールはぽかんとしていた。
◇
王都にむかう道中、僕はアンジェラとレンドールにすべてを話した。ロッドの件に差し掛かると二人は反抗した。
「それはありえません。確かにロッドさんはオートマタをいくつか持っていますが、魔術師に加担するなんてそんな……」アンジェラはそう言って運転しながら首を横に振った。
「その、アムレンという人に、ロッドさんが記憶を改竄されてしまったのではないですか?」レンドールの言葉をドロシーが否定した。
「いいえ。それはありえない。アムレンはマーガレットを愛していた。同様にロッドのことも愛しているのよ。それは〈記録〉からわかるもの。アムレンが彼を使うということはありえない。外部の者がロッドの記憶を改竄したとしても、アムレンがそれをもとに戻せる。結局、ロッドが記憶を改竄されているっていう可能性は低いのよ」
レンドールは「ぐっ」と口ごもって、それから言った。
「その未来から来たというのは本当なのでしょうか……いえ、本当なのでしょうね私たちの行動を全部把握していましたし……」
アンジェラが言った。
「スティーヴンさんが〈記録と読み取り〉というスキルを持っていることは確かですよ。私には見えています」
レンドールはしばらくうなだれていたが、小さく頷いて言った。
「わかりました。わかりましたが、気がかりなのはやはり、アムレンが本当に今もロッドさんと手を組んでいるのかというところです。何かそれを証明する方法はありますか?」
ドロシーは少し考えてから首を振った。
「いえ。今はないわ。すべてがわかるのはアムレンに聞いてからよ」
僕は頷いて、思いだして、運転中のアンジェラに近づいた。
「そのリボン後でもらいますよ」
「うえっ! 何でですか! お気に入りなのに!」アンジェラは赤と白のリボンを触った。
「どちらにしろデイジーにとられますよ」僕はそう言った。