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# 32. 白と黒1

「もう一つ話しておかなければならないことがあるんです」


 僕はマーガレットを見て言った。彼女は涙を拭きながら言った。


「なんだ?」

「アムレンはあなたの父親です。そして僕の父親の仲間でもあります」


 彼女は涙の乾ききっていない目で僕を見た。


「……どういうことだ? では、どうしてアムレンは私の家族を殺した? てっきり、彼は魔術師に敵対していて、それでおじいさまとお母様を殺したのだとばかり……。それに君の父親が関係している?」


 僕はマーガレットに手を伸ばした。


「詳しい話はドロシーとしましょう。彼女ならきっと、僕たちには考えもつかないような答えに導いてくれるはずです。今日の夜、教会に行きましょう」


 マーガレットは僕の手を取った。


「ああ、わかった」




 ◇




 夜。僕とマーガレットは教会の前にいた。昨日と同じように屋根裏から灯りがこぼれていた。

 ドロシーが僕たちに気づくと、屋根裏の灯りが揺れて消え、しばらくして、教会の扉がひらいた。

 ドロシーはシスター姿のままだった。彼女は言った。


「待ってたわ。入って、まだわからない部分もあるけど、一応考えを整理したつもり」


 僕たちはドロシーに従って屋根裏に向かった。何枚かの羊皮紙がテーブルの上に置いてあった。インクはまだ乾ききっていなかった。僕は文字が読めないからはっきりとはわからないが、もしかしたらそれは思考の跡なのかもしれない。僕たちが来る直前まで考えていたのだろう。


 僕とマーガレットは椅子に座ってドロシーと向かい合った。


「マーガレットはどこまで聞いたの?」ドロシーが尋ねた。僕はマーガレットに伝えたのは僕が未来から戻ってきたこと、それからアムレンとワーズワースの家系についてだと言った。


 ドロシーは頷いた。


「じゃあ、確認も含めて、私が理解している範囲で、スティーヴンがたどってきた経緯について話すわね」


 ドロシーは第一ループ、第二ループそれぞれについて話した。


「何か間違っているところはある?」


 僕は首を横に振った。


「マーガレットは……ああ……混乱しているだろうけど、何が起こったか――というより何が起こるのかだけど――わかった?」


 マーガレットは目を強くつぶった。


「ああ。一番ショックな部分はスティーヴンに話してもらったからな。大体はわかったよ」


 マーガレットは目をひらくと僕をみた。

 ドロシーが言った。


「そう。なら、話を進めるわね」ドロシーはテーブルから羊皮紙を持ってきて、膝の上にのせた。彼女はそれを見ながら話はじめた。


「まず、今後の目標として、私たちがしなければならないのは『〔魔術王の左脚〕が魔術師陣営の手に渡らないようにすること』と定める。この陣営という言葉は勢力とかチームとかに読み替えてもらって構わない。要するに魔術師と、それに味方する人たちのことを言うわ。これはいい?」


 僕は頷いて、それから尋ねた。


「その味方する人たちっていうのは、記憶を改竄されている人ってこと?」


 ドロシーは首を横に振った。


「ここでは、記憶の改竄のあるなしに関わらず、味方する人って意味。話を聞いてれば意味がわかるから」


 僕は頷いた。ドロシーは続ける。


「でね、じゃあ誰が魔術師陣営なのかって話になるんだけど、ソムニウムのメンバー、つまり私たちは全員白なのよ。魔術師陣営じゃない。過去に魔術師と対抗しているしそれに記憶を改竄されている心配もない」


 マーガレットが言った。


「私は〔魔術王〕の血族だ。それは……」


 そこで、ドロシーが制した。


「ええ。それはわかってる。でもあなたは魔術師に加担していないでしょ? 生まれがそうってだけ。魔術師ってのは、要するに、〔魔術王〕を信仰している勢力のことなのよ。伝説から持ってくれば原義はそうなるわ。あなた〔魔術王〕を信仰しているの?」


 マーガレットは首を横に振った。


「まさか」

「じゃあ違うわね」


 マーガレットはほっと息をついて、僕を見た。彼女が笑みを浮かべたので、僕も返した。

 ドロシーは羊皮紙を入れ替えた。


「話を戻すわ。王都のメンバーの誰が魔術師陣営なのか考えないといけない。ただ、数日後にここにやってくるアンジェラとレンドールはおそらく白ね」


 僕の中にはアンジェラが裏切ったのではないかという考えがあった。第二ループで彼女に渡した後見ていないからだ。僕は尋ねた。


「どうしてそう言えるの?」

「アンジェラは『記憶改竄』スキルを見るたびに報告しているでしょ? 魔術師陣営だとは考えられないわね」


 僕は苦笑いした。確かにそうだった。それどころかアンジェラは自分が守護者であることもぽろっと話してしまうし、〔魔術王の左脚〕を探していることも口に出そうとしていたのだった。


「レンドールはティンバーグから〔魔術王の左脚〕を奪ったっていう話を聞いて激昂してる。魔術師なら不自然な反応ね」


 僕は頷いた。確かにそのとおりだと思った。

 ドロシーはシスター服の頭巾を外して、髪をほどき、首を振った。


「ここまではいいのよ。問題はロッドとアムレンね。とくにアムレンが……難しい」


 ドロシーは息を吐いた。


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