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# 30. ɹǝɥʇɐɟ

 俺とアムレンはロッドの工房に来ていた。

 ロッドは髪を結んでいたが、以前のように仮面をつけてはいなかった。ゴーグルはつけていたが。


 ロッドはアムレンの話を聞いて、深くため息をついた。アムレンは彼には言わずに今回の作戦を実行に移したようだった。


 ロッドは言った。


「そうか……父さんが……」彼はアムレンの肩に触れて言った。「辛い役目を押しつけてごめん」


 アムレンは首を振った。


「いや、いいんだ。親父がすべて悪かったんだ。それに嫁も。あいつらは結局、欲に溺れていただけだった」


 アムレンは深くため息をついた。

 沈黙が流れる。


 ロッドは突然立ち上がり、作業台の上に乗っていたものに触れた。それは布がかかっていて俺の場所からは何が乗っているのかわからなかった。多分。オートマタだろうと思われた。

 ロッドは詠唱をして、それを起動した。


「あー、あー、おきた!!」


 そんな少女の声がきこえた。

 作業台の上に乗っていたそれは起き上がり、体に布を巻きつけて、地面に降りて言った。


「起きたよ、ご主人様」彼女はロッドにそう言った。


 オートマタは黒く長い髪をしていた。大きな目が印象的だった。


「今度からご主人様はあの人だよ」


 少女のオートマタは振り返って、アムレンをみた。


「おんなじ顔だよ?」

「そうだよ、双子の兄なんだ」アムレンは微笑んでそう言った。


 オートマタはアムレンの目の前まで歩いてきた。その動きは人間そのもので、俺は驚いて言った。


「ほんとにオートマタか?」

「もとのパーツが素晴らしく高性能なので、ほとんど人間と変わらない見た目ですよね。しかも戦闘用で、無詠唱で魔法を使えるんですよ。カラクリは腕や脚にダヴェド文字が現れてそれを発動するってものですね」


 ロッドはそう言って微笑んだ。


「こんにちは!」オートマタの少女は言った。

「名前はなんていうんだ?」アムレンが尋ねると、少女は首を傾げた。


 ロッドが「ああ」と言った。


「まだつけてないんだ。兄さんがつけなよ」


 アムレンはふっと微笑んで、それから言った。


「お前の名前はデイジーだ」


 デイジーは何度か自分の名前を呟いて、それから尋ねた。


「どういう意味?」


 アムレンは言った。


「花の名前だよ。マーガレットとかといっしょだ」

「そっか。お花か。ありがとう! ご主人様!」デイジーは微笑んでアムレンに抱き着いた。


 アムレンは小さく息を吐いて、彼女の背中をなでた。


「ロッド。この子の髪の色を青系にしてくれないか? できれば空色がいい」


 ロッドははっとして、それから、デイジーに近づいて詠唱をした。

 髪が瑠璃色になる。


「このくらいしかできないや」ロッドは言った。

「ああ、わかった。ありがとう」アムレンはデイジーの頭をなでた。

「ご主人様の名前は?」デイジーは体を少し離して尋ねた。

「アムレンだ。アムレン・ワーズワース」





 ◇





 意識が遠のく。


 アムレンはマーガレットの父親!?

 瑠璃色の少女はオートマタだったのか!!


 いろいろなものがわかるにつれて、こんがらがってきた。

 僕の頭ではすべて理解できそうになかった。


 ――相談してくれれば力になってあげられる。でも何も言われなきゃ、何もできないのよ?


 ドロシーの言葉が胸に突き刺さった。

 彼女たちを巻き込んでしまうかもしれない。

 けれど、話さなければもっとひどい結果になる。

 それは身に染みてわかっていた。


「相談する。弱音も吐く。みんなを頼るよ」


 僕はつぶやいた。


 そのとき、また、僕は落ちていって、俺の中で目を覚ました。




 ◇




 時間は、いつだろうわからない。

 俺は家にいる。暖かい日差しが窓から降り注ぐ。

 なんだか懐かしさを感じる場所だった。

 俺はそわそわとして、つま先を鳴らしている。

 そのとき、赤ん坊の泣き声が聞こえた。

 俺ははっとして立ち上がり、ドアに貼り付いた。

 しばらくするとドアがひらいて、産婆がにっこりとほほ笑んだ。


「元気な男の子ですよ」


 ベッドに駆け寄って、生まれたばかりの赤ん坊を見て、それから、産後の疲れで深く息をしている女性にキスをした。


「元気に生まれてくれたわよ、あなた」


 俺は妻に言った。


「ああ、良かった。頑張ったよ。ありがとう」


 妻は微笑んだ。

 俺は赤ん坊の小さな手に指を伸ばした。赤ん坊は俺の人差し指をぎゅっと握りしめた。

 俺が驚いた顔をすると、妻は「あはは」と笑った。


「名前、決まった?」妻は俺に言った。

「ああ、もうずいぶん前から決めてある」




 俺は赤ん坊を見つめて言った。




「スティーヴン」









 僕は驚いて部屋の様子を思いだした。

 そこは懐かしさを感じる場所だった。

 見慣れた場所だった。


 僕は叫んだ。


「父さん!!」


 僕の意識は遠のいて、

 選択の場に戻された。





 ◇





 真っ暗な世界に僕はいる。ここは選択の場だ。

 声がする。


 ――スティーヴン


 それは、俺の声、つまり、僕の父さんの声だった。

「父さん! あれは、父さんの〈記録〉のスロットなの!?」

 僕は尋ねたが、父さんは答えなかった。


 ――時間がないから手短に話す。〔魔術王〕の一部の攻撃で死ぬと〈記録と読み取り〉は正常に機能しなくなる。お前はもう二度死んでいる。次は、正常に回復できるか保証できない。


 僕は焦った。僕には聞きたいことがあった。


「父さんは〔魔術王〕の一部のせいで死んだの?」


 ――違うが近い。そのせいで俺はここに取り残されてしまった。


 父さんはつづけた。


 ――戻れ、スティーヴン。このループからはまだ逃れられる。


 雑音が入る。


 ――ユニークスキル〈記録と読み取り(セーブアンドロード)〉を再起動します。


 ――仲間を頼るんだぞ。

 父さんの声が消えた。


 ――強制的に最後にセーブした場所へ戻ります。

 ――スロットの読み込みに失敗しました。

 ――ひとつ前のスロットを読み込みます。




 ――――――――――――――――――――――――IIIX








「……スティーヴン。スティーヴン!」


 はっとして顔をあげる。上司のグレッグがそばに立っていた。彼は髭を触り、ため息を吐く。


「今日はもう終わりだ」


 僕はあたりを見回した。ここは、『シャングリラ』の写本室。僕はマップを作成している。

 すべてが始まる前だ。


「どうした?」グレッグが僕に尋ねた。

「あ……ああ、すみません」


 時計を見るとすでに二十二時を回っていた。スクロール係はすでに帰宅したようだった。僕は強く目をつぶった。かなり疲れている。


 僕は作成したマップをまとめた。すでにインクは乾いていた。マップを片付けているとグレッグは言った。


「スティーヴン、君は働きすぎだ。最近特にひどくなっている」

「たしかに、そうかもしれません」僕はマップをしまうと自分の肩をもんだ。筋肉が張って硬くなっている。

「金が足りないのか?」僕は苦笑いをして首を振った。

「いえ、そういうわけでは……」

「じゃあ何か悩みでも?」グレッグは近くの椅子を持ってきて座った。

「いえ、大丈夫です。悩みがあれば話します」僕は微笑んで言った。


 グレッグは一瞬はっとして、それから怪訝な顔をした。彼は椅子の背もたれに体を預け、手のひらを伸ばし指の関節を鳴らした。


「無理に話してくれなくてもいい。ただ、悩みがあるならいつでも聞こう。それはおそらくギルドマスターも、リンダもそうだ。君の周りの人間は誰もが君の悩みを聞いてくれる」そう言ってグレッグは一度言葉を切って、続けた。「そう言おうと思ったが、どうやらそれはわかっているようだな」


 僕は頷いてから言った。


「失敗して身に沁みました」


 グレッグは笑みを浮かべた。


「そうか。倒れても立ち上がればいい。若者なんだから」彼は立ち上がり、蛍光石のランプを持ち上げた。


 僕は以前の彼の言葉を思いだして笑った。


「なにかおかしいことを言ったかな?」グレッグの言葉に僕は首を横に振った。


 彼は首をかしげて言った。


「鍵を閉めよう。忘れ物はないかな?」

「はい」僕はグレッグについていき、写本係の部屋を出た。




 ギルドを出た僕は教会の前にやって来た。屋根裏部屋から明かりが漏れている。ドロシーはまだ起きている。


 ドロシーが窓から顔を出して僕を見つけた。屋根裏から明かりが消えて、コトコトと歩く音がして、鍵が開き、教会のドアが開いた。


「遅かったわね」ドロシーはランプを揺らして言った。

「うん。ここまでたどり着くのにずいぶんかかったよ」

「なにそれ」ドロシーは笑って、僕を招き入れた。

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