# 29. ʇǝɹɐƃɹɐɯ
僕はマーガレットとの会話を思いだしていた。
――アムレンは、魔術師ですよね!?
――違う、守護者だ。誤解している。
どちらが正しいのかこれをもってわからなくなってしまった。
アムレンはロッドの兄だ。そしてロッドは守護者だ。
ロッドはスキル『記憶改竄』を持っていない。これはアンジェラのスキルからわかる。
そして同様に、アンジェラのスキルからアムレンがスキル『記憶改竄』を持っていることがわかっている。
二人はどこかのタイミングで仲たがいをするのか?
二人は違う道を歩くのかもしれない。
アムレンは魔術師として、ロッドは守護者としての道を歩む。
そのきっかけになる事件があるはずだ。
僕はまた、俺に潜っていった。
◇
目をひらくと酒場だった。アムレンが向かいにいる。ステラの姿は見えなかった。
アムレンはひどく酔っていた。それもかなり悪酔いしていた。
「お前は行かなくてもいい」俺はアムレンに声をかけた。が、彼は首を横に振った。
「いや、俺がやらなければダメだ」彼は両手で顔を覆った。「信じていた俺がわるい」
俺は首を横に振った。
「親なら誰だって信じるだろ。それにもう何世代も魔術師と決別して、隠れて暮らしてきたんだ。こうなるなんて思いもつかない」
アムレンはため息をついて首を振り、両手をテーブルに載せた。
「うすうす、感づいてはいたんだ。多分ロッドも気付いていただろう。親父は魔術師に戻りたがっているって。多分それは、俺が、〔魔術王〕の力を受け継いでいるからだ。親父は、俺の力をひどく喜んでいたよ。表には出さなかったがな。俺は娘から離れて過ごしてきた。魔術師たちに感づかれないようにするためだ。なのに、クソ親父……」
アムレンは両手を握りしめた。
「裏切りは、許されない。親父が生きていれば、この先、不幸になるのは目に見えている。俺がやらなければダメなんだ」
彼は紫色の目で俺を見た。
俺は小さく頷いた。
◇
僕の意識が飛んで、また引き戻される。
◇
夜だった。そこは辺境の街で、俺がいるのは城だった。
俺とアムレンは一人の男の前に立っている。男は剣を構えてこちらを睨む。
「アムレン。どうしてこんなことを」
アムレンは兜のしたからくぐもった声で言った。
「あんたが、俺たちを裏切ったからだよ、親父」
アムレンの父はふっと笑った。
「お前の力は本物だ。〔魔術王〕様の力を引き継いだ、真の血族だ。お前の力があれば、魔術師の中で地位を築くことができる。こんな辺境の貴族ではなく、もっと強力な力を手にできる!!」
彼の目は濁っていた。心もきっと濁っている。
アムレンは言った。
「欲に溺れたな。俺がどんな思いで娘から離れて過ごしているかわからないのか? 俺は魔術師に目をつけられている。奴らは俺が〔魔術王〕の力を持っていると知っている。魔術師たちは俺の力を求めている。おそらく、一緒にいれば娘にも危険が迫るだろう。そう言っただろ?」
アムレンの父は不敵な笑みを浮かべて言った。
「そう思っているのはお前だけだ。お前の妻も、私の言葉に同意してくれたよ。お前の娘はもっと強力で、確固たる地位を手に入れる。あの子は〔魔術王〕になるんだよ」
アムレンは舌打ちした。もうこれ以上議論の余地はないように思えた。
「離れていてくれ。こんな場面は見せたくない」
アムレンがいうので、俺は転移した。
城の最も高い場所につく。
街には火の手が上がっている。城の中にいた人間は皆外へと逃げていったようだ。
俺はテラスに出て、庭を見下ろした。
アムレンが父親を剣で突き刺した。おそらくそう長くはないだろう。
そこに母と娘が逃げていく。おそらくアムレンの妻と娘だろう。二人は空色の髪をしていた。アムレンは二人の姿を見た。
妻が立ち止まり、娘の肩をつかむ。
アムレンが兜を外した。彼の妻がその顔を見てはっとする。すべてに気づいたのだろう。
アムレンの後ろに倒れている人物を見て、娘は目を見開いて叫んだ。
「お爺様!」
城から上がる火の手であたりは照らされていた。石造りの地面はアムレンの父の血で濡れていた。彼は声に反応して、力を振り絞って顔をあげた。
「逃げろ! マーガレット!」アムレンの父は血を噴きながら叫んだ。
アムレンが、剣を振り上げた。
「やめて!!」マーガレットは叫んだが、剣は無情にも振り下ろされ、アムレンの父の首が飛んだ。
マーガレットは叫び、母の腕の中で暴れた。
アムレンは剣を振って血を飛ばすと、マーガレットを睨んだ。
アムレンの妻が、マーガレットの腕をつかんで走りだした。が、アムレンの速度から逃れることはできない。彼は一瞬で妻の前に現れて、逃げ場をなくした。
アムレンの妻はマーガレットを突き飛ばした。
「逃げなさい!」
アムレンに妻が何かを言った。その瞬間、城で大きな爆発があった。
アムレンが動く。
胸を貫く。彼の妻は血を吐いた。
マーガレットはアムレンを睨む。
彼女は祖父の倒れていた場所まで走り、祖父の手から剣をとった。マーガレットはアムレンと向き合った。
アムレンの妻が倒れる。
マーガレットはうなり声をあげて、駆け出した。その瞬間、体が加速して、アムレンに迫った。
彼は少しだけ驚いていたが、剣を軽く振っただけでマーガレットをいなした。マーガレットは地面に突っ伏した。
アムレンはマーガレットの手を蹴って剣を飛ばすと、彼女の首をつかんで持ち上げた。
マーガレットは腕に爪を立ててもがいた。鎧に引っかかった爪がはがれる。
アムレンはマーガレットをいとおし気に見つめると、言った。
「俺の名はアムレン。生きて俺を探しに来い。次に会うときは敵か味方かわからないが」
アムレンは父親の首を刎ね、妻を殺した。俺はその現場に《テレポート》してきた。
彼は娘を抱き上げた。娘は意識を失っていた。
そこにステラが《テレポート》してきた。彼女は状況を確認すると小さく息を吐きだした。
「終わりましたか?」
「ああ、すべて完了した」アムレンは娘をステラに預けた。彼は娘の頭をなでた。
「行ってくれ。これ以上は一緒にいるのは辛すぎる」アムレンは顔を背けた。
「わかりました」ステラはそう言うと、スクロールを取り出して、《テレポート》した。
アムレンは崩れるように膝をついて、
咆哮した。