ギルド『シャングリラ』
翌朝、紹介状を持ってギルドにむかった。ギルドの名前は『シャングリラ』。きれいな建物で、元のギルドとは全くその外側から違った。スティーヴンは口をあけてその建物を見上げていた。
「君、冒険者になるのかにゃ?」
突然後ろから話しかけられて、スティーヴンは驚いて倒れそうになった。
「おうおう、驚かすつもりはなかったにゃ。ごめんにゃ」
猫の獣人である彼女はそう言って舌を出した。彼女は革の鎧を着て、弓を背負っていた。アーチャーなのだろう。肉球のある手を開いて、振った。
「大丈夫かにゃ?」
「大丈夫、です」
辺境のギルド『グーニー』に獣人の冒険者はいなかったために、スティーヴンは少しだけ驚いた。
「自己紹介を忘れていたにゃ。あたしはリンダにゃ」
「スティーヴンです」
「よろしくにゃ」
彼女が手を差し出したので、スティーヴンはその肉球の手をつかんだ。やわらかい。
「それで、冒険者になるのかにゃ? やめておいた方がいいにゃ。君、痩せすぎにゃ」
リンダは半ば呆れたように言った。
「いえ。冒険者ではなくて、マップ係に……」
「マップ係!」
彼女はそう叫ぶと、スティーヴンの手を取って、勢いよくギルドの中に入っていった。
「新しいマップ係!」リンダはそう叫ぶと受付嬢にスティーヴンを突き出した。
「マップ係になりたい人を連れてきたにゃ!」
受付の女の人は困惑していた。
「あの、いきなりそう言われても……」
「マップ係がいなくて困っているって言っていたにゃ! それにあたしたちも新しいマップが欲しいにゃ」
「いえ、ですからギルドマスターに……」
「あの……」
スティーヴンは口をはさんだ。
「領主様から紹介状をもらっているのですが……」
受付嬢とリンダはぎょっとした顔をした。
「は……拝見します。……この封は本物ですね。少々お待ちください」
彼女は急ぎ足である部屋へと入っていった。
「君、領主様とどういう関係にゃ?」
「娘さんを助けたら仕事を紹介されて……」
そう言うと、リンダはまた目を剥いた。
「じゃあ、あのブラッドタイガーを倒したのは君なのかにゃ!」
その声を聞きつけた冒険者たちがざわざわと寄ってきた。
「おい本当かよ」
「小さいな」
「その体でよく倒せたな」
スティーヴンは首を振った。
「違うんです! たまたまスクロールがあっただけで」
「君が持っていたのかにゃ? ずいぶん金持ちだにゃ」
「いえ、騎士の一人が持っていたのでしょう」
そう言うと、冒険者たちは眉間にしわを寄せた。
「そもそもそんなスクロールこの辺にあったかにゃ?」
「領主様の騎士ならありえないことではないのか?」
「でもそれなら【コレクター】が持ってるはずだが」
スティーヴンはその単語に反応した。
「【コレクター】というのは?」
「変な女にゃ。スクロールを集めるだけ集めて全然使わないのにゃ。眺めてうっとりしているところを見たことがあるけど、あれは変態にゃ」
冒険者たちも肯いている。
と、そこに先ほどの受付嬢がやってきた。
「彼です。ギルドマスター」
ギルドマスターと呼ばれた男は『グーニー』の歯抜けアレックとは違い、まだ現役で冒険者をやっているのではないかと見まがうほど腕の筋肉が隆起していた。女性にウケそうな顔をしていて、頬から目を通り額にかけて傷があり、その片目は布で隠されていた。
「ギルドマスターのラルフだ。紹介状を見せてもらったよ。仕事ぶりを見せてもらおうかスティーヴン」
「はい」