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# 28. xǝldɯoɔ

 はっと目をひらくと、僕はまた、俺の中にいる。

 アムレンがとなりを歩いている。



「コンプレックスの強い弟なんだ」

 アムレンは街を歩きながら言った。





――これは前と同じ場面だ。

 僕はそう思った。






 俺たちはオートマタの修理を待つ傍ら、街の観光をしていた。アムレンの弟は外に出るのを嫌がった。それを受けてのアムレンの発言だった。彼はつづけた。


「オートマタの修理ができるんだから、優秀なんだけどな。それでいいと思っていない。それに多分顔の怪我のせいもあると思うんだ」


 ステラは尋ねた。


「顔の怪我、ですか?」アムレンは頷いた。

「昔、親父との訓練中に事故で顔に怪我をしたんだよ。炎系の魔法をもろに喰らってね。回復系のスクロールなんてほとんどなかったからそのままなんだ。あれを治すには、《エリクサー》くらい強力な魔法じゃないとダメだと思う」

「そうか」俺は続けた。「さすがに《エリクサー》は俺の〈記録〉にないな」

「《エリクサー》ほどじゃなくてもいいんだ。あいつの顔の傷が少しでも良くなるような、そんな薬を手に入れたくてね」アムレンはそうつぶやいて微笑んだ。「ようやく手に入れたよ」


 彼はバッグからガラスの入れ物を取り出した。それは緑色の液体で、ドロッとしていた。おそらく皮膚に塗布して使うのだろう。


「薬屋のばあさん、腕は確かだっていうから、多分、大丈夫だろう」


 アムレンは薬をバッグにしまうと言った。


「どうして昨日渡さなかったんですか?」ステラが尋ねた。アムレンは苦笑いして言った。

「あー、修理の代金として渡したほうがいいと思ったんだ」


 彼は歯切れ悪くそう言った。ステラはにこりと微笑んで言った。


「照れくさいんですね?」


 アムレンは「うっ」と呻いた。


「プレゼントですもんね。照れくさいですよね」ステラは彼を揶揄った。

「うるせえ」アムレンは顔を赤くしてそう言った。







 その夜、工房に戻ると、アムレンの弟が椅子に座って待っていた。彼は相変わらず、ゴーグルのついた仮面をつけていた。彼の前にある大きな作業台の上にはオートマタが乗っていた。


 腕も脚もしっかりと付いた、綺麗なオートマタだった。髪はなくつるんとした頭の下には幼い顔が目を閉じていた。


「おかえり、なんとかなったよ」


 アムレンの弟はそう言った。彼はオートマタの体に手を置いて、少し長めの詠唱をした。


 オートマタが目をひらいた。


 口をパクパクと動かしているが、声が聞こえない。


「ああごめん。君にはまだ声を出す部品をつけていないんだ」


 アムレンの弟の言葉にオートマタは目をパチクリさせて、そして頷いた。

 彼はオートマタの起動を停止すると、アムレンに言った。


「ちゃんと動くようになるまでにはもう少し時間が欲しい」


 アムレンは小さく頷いた。


「そうか、わかった」


 そのとき、ステラがアムレンの背をつついた。


「ほら、あれを渡さないと」ステラは意地悪そうな笑みを浮かべてそう言った。


 アムレンは固まった。しばらくそうしていたが、意を決したのか、彼はバッグから薬を取り出して、弟に手渡した。


「何これ?」弟は尋ねた。

「薬だ。皮膚を治してくれる。その火傷痕だと外に出るとき不便だろ?」


 アムレンは照れくさそうに視線をそらして言った。


「ありがとう。使ってみるよ」彼の弟はそう言って、僕らに顔を見せないように向こうを向いて、仮面を外し、薬を顔に塗布した。


「ん?」薬を塗った彼は不思議そうに首をかしげて、頬を触っていた。彼はあたりを見回して、金属片を見つけると、それに自分の顔を映した。彼の呼吸はふるえていた。


「すごい、すごいよ兄さん」


 アムレンは笑みを浮かべてステラを見て、それから弟に近づいた。


「どうなった?」


 彼の弟は金属片を落とすと、アムレンを制した。


「あ、目の周りだけおかしいままだから見ないで!」アムレンの陰になって俺からは彼の顔が見えない。


 弟の顔を見て、アムレンは驚きの声を上げた。


「目以外は元通りじゃないか! それに目だって、少し痕が残ってるだけだ」


 俺は少し移動して、アムレンの弟の顔を見た。








 俺の中で、僕は、絶句した。

 アムレンの弟は、アムレンそっくりだった。

 そっくりなんてものではない、全く同じ造形の顔が二つ並んでいる。






 ステラが驚いて言った。


「双子だったんですか!?」


 アムレンが涙ぐんだまま言った。


「ああ、そうだ。俺たちは双子だよ。言ってなかったか?」


 ステラも俺も首を振った。

 アムレンは小さく息を吐いて、「良かった」とつぶやいた。

 アムレンの弟は髪を縛っていた布をほどいた。長い黒髪が絹のように光ってゆれた。


「目の周りが気になるから布を巻いておくよ」


 彼はそう言って、目の周りに布を巻いた。





 僕は戦慄した。





 アムレンの弟は両手を広げた。

「ありがとう、兄さん」


 その右手には「XI」の焼き印がされていた。今見て気づいた。それは焼き印ではなく、工房で金属を加工する時につけた深い火傷の痕だった。目の周りと同じく、薬で治らなかったのだろう。


 彼の左手に「I」に見える火傷の痕が同様にあるのに気付いた。


 アムレンは弟と抱擁を交わした。





「治ってよかったよ、ロッド」




 アンジェラの上司、守護者であるロッドは、アムレンの双子の弟だった。


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