# 27. DARKNESS
街に転移すると人々がどよめいていた。ギルドから冒険者たちが出てきて、煙の方を見ていた。
その方角には、教会があるはずだった。
「ドロシー……」
僕は呟いて、すぐに、教会へと転移した。
教会は、崩れていた。鼓動が速くなる。
ドロシーは?
「スティーヴン!!」ドロシーが叫んだ。彼女は外に出ていて、子どもたちも一緒だった。
「無事だったのか」僕はため息をついた。
「ええ。他のシスターも大丈夫。屋根が壊される音がして、不審に思って外に出たのよ。そしたらみるみる内に破壊されて」
「どうしてこんなことに」僕が言うとドロシーが指さした。
その人物は宙に浮かんでいて、僕たちを見下ろしていた。ローブを来て、深くフードをかぶっていた。
マーガレットが遅れてやってきて、その人物を見上げた。
「アムレン」彼女はそう言った。
彼のローブがはためく。僕は目を見開いた。
そこには〔魔術王の左脚〕があった。
「どうして?」
どうして彼が〔魔術王の左脚〕を持っている?
あれは守護者たちに渡したはずだ。
いや、違う。
厳密には僕はアンジェラに渡した。
彼女が裏切ったのか?
かすかに感じていたほころびが徐々に大きくなっていくのを感じた。
僕が狼狽している内にローブの男はゆっくりと降りてきて、教会の瓦礫の上に降り立った。彼は腕を振った。すると、〔魔術王の左脚〕が光を帯びて、ダヴェド文字がらせん状に現れた。
魔法が発動する。
瓦礫が一瞬浮遊して、即座に塵と化して消えた。
教会は更地になってしまった。
ローブの男は守護者、レンドールの置いた封印装置のそばによると、左脚でそれを踏み砕いた。
あっけなく装置は砕けた。
僕ははっとして叫んだ。
「封印されている〔右腕〕を奪おうとしてる!」
ドロシーは言った。
「でもあれは、封印されているのよ? エヴァだって十年に一度のあの日にしか解除できなかったのに?」
僕は言いよどんでから言った。
「わからない。わからないけど、〔魔術王〕の一部が持っている力は規格外なんだ」
僕はうつむいた。すべては順調にいっているように見えた。
それは僕がそう思っていただけだった。
僕が勝手にそう思って、誰にも相談せず、勝手に行動して、勝手に終わらせただけだった。
事実、どうだ?
僕はローブの男を見た。
彼が何をしようとしているか知った冒険者たちが、彼に攻撃を仕掛けている。が、その攻撃は無意味だ。矢も、剣も、彼の作った魔法壁によって跳ね返されてしまう。魔法もすべて、光の輪の段階で消されてしまう。
そして、彼の魔法は《アンチマジック》で消すことができない。
マーガレットは混乱していた。
「アムレンは守護者だ……。どうしてあれをつけている? どうして教会を破壊している?」
ローブの男は左脚を少し上げて、装着した〔魔術王の左脚〕で、封印場所を思いきり踏んだ。
地面に大きな亀裂が入る。
僕たちは後ずさる。
放射状に伸びていた亀裂が、時空がゆがんだように、ひねられ、渦を巻いたような模様に変わる。
亀裂が一点に収縮する。
〔魔術王の左脚〕の直下に真っ黒な球体が出現して、地面を、穿った。
ローブの男はふらりとよろける。
穿たれた地面から、封印されていたはずの〔魔術王の右腕〕が飛び出して、宙に浮かんだ。
ローブの男はそれを手にした。
僕はそれをただ見ていた。そうすることしかできなかった。
恐怖していたわけではない。僕は僕の過ちと、そこから来る罪悪感に苛まれていた。
僕は今まですべて勝手に、それでいいと思って、誰にも言わずにやってしまった。
その結果がこれだ。
僕は間違えた。多くのことを間違えた。
それは僕のせいだった。
ローブの男は満足したように〔魔術王の右腕〕を見る。
彼は顔を上げて、こちらを見た。
彼は何かに気が付いた。
ローブの男の顔がゆがむ。そこに現れたのはかすかな怒りの表情だった。
〔魔術王の左脚〕が赤く光る。
光の輪がいくつも出現する。
そして、僕を殺したあの真っ黒な槍が出現した。
槍の周りには陽炎のように光を屈折する透明な紫色の帯があって、ふわりと漂っていたかと思うと瞬時に槍にまとわりついた。
「逃げろ!!」マーガレットが叫んだ。
《テレポート》を使えば……。いや、だめだ。近くにいる人が多すぎる。
《アンチマジック》は大量展開して発動できたが、それは一度に大量に発動していたわけではなく、発動し、消えた部分に新しいスクロールを転写して、また発動するというサイクルを繰り返していたからだ。
《テレポート》を僕が発動する以上、真っ先に術式の対象となるのは僕だ。他人だけを転移させるのは不可能だ。一度に数百というスクロールを同時に発動しない限り全員を救うことはできない。
あの槍は地面に刺さった後も近くにいる人間を殺す。
僕はそこで思いだした。あの槍は地面に刺さっていた。
物理的に反射できるのではないか?
僕は魔法壁を多重展開した。
槍が飛ぶ。
その槍は僕の方に飛んでくるとばかり思っていた。
彼が敵対ししているのは僕だとばかり思っていた。
でも違った。
その矛先は、マーガレットに向かっていた。
アムレンはマーガレットの家族を殺した。おそらくその生き残りである彼女を殺そうとしている。僕はそう思った。
とっさに、僕は魔法壁を彼女の前にさらに追加した。
真っ黒な槍が魔法壁に衝突する。
槍は、反射されなかった。衝突した瞬間、紫色の帯が緩んで、そして、もう一度黒い槍にまとわりついた。槍が回転する。
魔法壁が、破壊される。
僕はマーガレットを突き飛ばした。マーガレットが驚いて僕を見ている。
すべては僕の過ちだと、そう思った瞬間、
槍が僕の頭をつぶした。
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声がする。
ただ、その声は、壊れていた。
――繝ヲ繝九?繧ッ繧ケ繧ュ繝ォ縲医そ繝シ繝悶い繝ウ繝峨Ο繝シ繝峨?峨r逋コ蜍輔@縺セ縺吶?
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僕は「NO」と言った。
――蜿苓ォセ縺励∪縺励◆縲
――繧ケ繝ュ繝?ヨ縺ョ驕ク謚槭↓遘サ繧翫∪縺吶?
目の前にスロットが表示される。ただ、何かがおかしかった。僕はスロットのひとつを選択した。それは壊れていた。どのスロットも、ザザザという雑音と真っ暗なイメージしか浮かばない。
すべてのスロットが、同じように雑音と暗闇に包まれていた。
僕は頭を抱えた。