# 25. 解決?
エレベーターに乗り込むと、僕は〔魔術王の左脚〕をアンジェラに手渡した。
「魔術師の手に渡らないように、封印してください。それと、ソムニウムに守護者を送ってくださいね」
アンジェラは僕からおずおずと布の塊を受け取って、それから僕を上目づかいで見た。
「あの、……疑っていてすみませんでした」
僕は苦笑した。
「いいんですよ。僕も何も言いませんでしたし。疑われるのも当然です」
僕は安堵のため息をついた。これで大丈夫だ。後は明日、リンダたちと合流すればいい。彼女たちがどこに現れるかわからないから、また、『トッド・リックマンの盗品店』の前で待っていよう。
ああ、そうだ。その前に『ティモシー・ハウエルの車輪』に行かなければならないんだった。リンダたちはそこを経由して僕を見つけるはずだ。
前のループと同じようにやれば同じような結果が得られるだろう。
地上に出るともうすっかり夜で、人通りも少なかった。
「それじゃあ、あとはよろしくお願いします」
僕はアンジェラにそう言って、宿を探すことにした。宿はすんなりと見つかって、僕はぐっすりと眠った。すべてが順調に思えた。
◇
翌日。
僕は『トッド・リックマンの盗品店』の前でリンダたちを待っていた。トッドは相変わらずキセルをふかして、店の前を通る人を睨みつけていた。商売人としてはひどい癖だった。
だいぶ待って、リンダたちの声が聞こえてきた。
オリビアと見られるハーフエルフの小さな女性の後ろから、リンダとドロシー、それにテリーがついてきていた。
「スティーヴン!!」リンダとドロシーが駆けてきて、僕に抱き着いた。
「心配したにゃ! 『なんだかかんだかの車輪』とか回ってようやく見つけたにゃ!!」
「良かったあ! ティモシーよティモシー、リンダ」二人はそう言って微笑んでいた。
オリビアは僕を見ると「げっ」と顔を歪めた。
「ドロボー」オリビアはつぶやいた。
「それはあなたでしょう」僕が言うと彼女は頬をふくらました。
「あいつらから逃げてきたのかにゃ?」リンダは僕に尋ねた。
「まあそんなところです。もう帰れますよ。お騒がせしました」
「まったくにゃ。あいつらのせいで大変だったにゃ」リンダが安心したようにそう言った。
僕たちは地上に戻るためにエレベーターに向かう。ドロシーはオリビアに手を振った。
僕には違和感があった。
何かがおかしい。それが何かわからない。
全部順調なはずだった。後はマーガレットを捜して、それで、全員で帰ればいい。
僕たちは地上に出た。
「マーガレットさんを探しましょう」僕が言うと、ドロシーが眉間にしわを寄せた。
「どうしてマーガレットが来ているって知ってるの?」
僕は目をそらした。できることなら伝えずに済みたい。危険は迫っていないすべて順調だと彼女たちには思っていて欲しかった。
「あの人なら一緒に来ると思ったんです」
僕はそう言った。
「ふうん」ドロシーは、多分納得していない。がリンダが口をひらいて、彼女は黙った。
「あいつのせいで大変だったにゃ!」
リンダは王都まで来るのにどれだけ大変だったかを語った。その間、テリーは機械を見て、マーガレットの方角を教えてくれた。
僕たちは以前のループで死んだ通りを歩いていた。大丈夫大丈夫。僕は心の中で繰り返した。
オートマタは、降ってこなかった。
僕が空を見上げているので、ドロシーは不思議がって言った。
「ねえ、やっぱり変よ、スティーヴン」
「そうかな」僕はため息をついて言った。
マーガレットは、ふらふらと通りの向こうにある広場を歩いていた。そこは瑠璃色の少女と戦闘をしたあの広場とは別の場所だった。マーガレットは茫然自失としていた。まるで、ソムニウムから攫われたばかりの僕のようだった。
僕は彼女に声をかけた。
「マーガレットさん? 大丈夫ですか?」
マーガレットは僕を見て、「ああ、スティーヴンか」と言った後、はっとして、僕の両肩をつかんだ。
「スティーヴン! 探したぞ!」
「え、ええ。ありがとうございます」僕は言って苦笑いした。
「もうとっくにあたしたちが見つけてたにゃ」リンダが目を細めて言った。
「お、そうか。それは良かった」マーガレットは言った。「これからどうするんだ?」
「ソムニウムに戻ります。お騒がせしました」僕が言うと、マーガレットは一瞬びくっとして、それから言った。
「そうか、……わかった」
どこかいつもと違うように見えた。彼女は気分が沈んでいるのか、声に覇気がなかった。いつもの根拠のない自信みたいなものが彼女から失われてしまったようなそんな気がした。
微妙な変化に気付いたのだろうか、リンダは怪訝な顔をしたが何も言わなかった。
僕たちは王都を出ると馬に乗って、《テレポート》ができる場所まで移動し、ソムニウムに転移した。
◇
アンジェラの手を離れた〔魔術王の左脚〕が、王都のとある場所でとある人物に手渡された。
その人物はため息をついて、〔魔術王の左脚〕を眺め、地面に置くと
装着した。