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# 23. ɐʇɐɯoʇnɐ

 視界が開ける。

 僕はまた、の体に引き戻されたようだ。






 俺は工房のようなところにいる。例によって、アムレンとステラが一緒だった。

 工房にはたくさんの工具と、魔石と、オートマタが置いてあった。

 アムレンが工房の奥に向かって叫んだ。


「おーい! いるか!?」


 工房の奥から返事があった。出てきたのは目の部分がゴーグルになった仮面をつけた男で、痩せていた。髪を後ろで束ねていた。


「ああ、兄さんか。どうしたの?」ゴーグルの男はアムレンにそう言った。


 俺はアムレンの弟を見た。彼の首元は皮膚が変色してひきつっていた。おそらく顔もそうなのだろう。彼はグローブをはめていて、工具を持っていた。グローブは真っ黒になっていた。


「ある場所でこんなものを見つけてな。直せるか聞きたくて」


 アムレンは俺に目配せした。俺は《マジックボックス》からそれを取り出した。

 それはオートマタで、かなり精巧だったが、腕や脚が取れて起動停止していた。

 アムレンの弟は俺からそのオートマタを受け取ると、はしゃぐように言った。


「すごい! オートマタ時代の最高傑作だ! こんな精巧な表皮は見たことがない」


 彼はオートマタの腕を持ち上げてそう言った。アムレンは満足そうだった。彼は弟に言った。


「直せそうか?」


 弟は頷いた。


「なんとかやってみるよ」







 その夜、俺たちパーティとアムレンの弟で、夕食をとった。夕食はオートマタが作っていた。アムレンの弟の生活はオートマタによって成り立っていた。彼は修理したそれらを使って、疑似的に冒険者として活動していた。冒険者ギルドは便宜を謀って彼を「テイマー」として登録していた。オートマタを魔物とみなしてのことだった。


 アムレンの弟は夕食の席でオートマタがいかに優秀か、どれだけ助かっているかを語った。


「僕は兄さんみたいに優秀じゃなかったから、この道を選んだんだ」彼はうつむいてそう言った。

「お前にはあっているだろ」アムレンはパンをかじってそう言った。「この前も新しい機能追加してたじゃないか。ええと、なんだ……」

「起動停止した数秒後にすぐに起動できるやつ?」

「そうそれだ」アムレンは頷いた。

「あれが何の役に立つのさ」


 アムレンの弟は苦笑して続けた。


「僕は兄さんみたいになりたかったんだよ。兄さんみたいに戦えるようになりたかった。空を駆けまわるように壁を蹴って、高速で敵を襲撃する、そんな強力な存在になりたかった。僕は……兄さんみたいに……」


 彼はそのあと何かをつぶやいたがそれは音にならなかった。口だけが動いて言葉を作った。彼の隣に座っているアムレンには見えなかっただろうが、俺にははっきりとみえた。




――僕は……兄さんみたいに……力が欲しかった。









「コンプレックスの強い弟なんだ」


 アムレンは街を歩きながら言った。翌日のことだった。俺たちはオートマタの修理を待つ傍ら、街の観光をしていた。アムレンの弟は外に出るのを嫌がった。それを受けてのアムレンの発言だった。彼はつづけた。


「オートマタの修理ができるんだから、優秀なんだけどな。それでいいと思っていない。それに多分顔の怪我のせいもあると思うんだ」


 ステラは尋ねた。


「顔の怪我、ですか?」アムレンは頷いた。

「昔、親父との訓練中に事故で顔に怪我をしたんだよ。炎系の魔法をもろに喰らってね。回復系のスクロールなんてほとんどなかったからそのままなんだ。あれを治すには、《エリクサー》くらい強力な魔法じゃないとダメだと思う」

「そうか」俺は続けた。「さすがに《エリクサー》は俺の〈記録〉にないな」

「《エリクサー》ほどじゃなくてもいいんだ。あいつの顔の傷が少しでも良くなるような、そんな薬を手に入れたくてね」アムレンはそうつぶやいて微笑んだ。






 ◇





 突然、意識が混濁する。

 僕はまた選択の場に戻される。

 落下する。

 そのとき、突然、男の人の声が聞こえた。

――戻れ。スティーヴン


――ユニークスキル〈記録と読み取り(セーブアンドロード)〉を再起動します。

――強制的に最後にセーブした場所へ戻ります。


――――――――――――――――――――――――IIIX


 目を開く。


 最後に〈記録〉したのはいつだろうと思いだす。

 そこはダンジョンのような場所で、僕は片手に距離計を持っている。アンジェラが前を歩いている。

 そうか、僕は無意識にこの場所を〈記録〉していたのか。


 ここは守護者たちの根城に向かう隠し通路。衛生的ではない王都の一区画から降りて、アンジェラに従って歩いて来たところ。


 時間的には、いつだ?


 僕は思いだす。

 瑠璃色の少女との戦闘が終わって、レンドールが死に、僕がアンジェラに、ソムニウムに守護者を送るように交渉した後だ。





 僕が立ち止まると、アンジェラは不思議そうに振り返った。


「どうしました?」

「〔魔術王の左脚〕がある場所がわかりました。今から取りに行きましょう」


 彼女はますます怪訝な顔をした。


「え? それってどういう……?」

「僕は未来から戻ってきたんですよ。スキルを使って」


 アンジェラはまだ半信半疑な様子だった。が、僕はとにかく早く〔魔術王の左脚〕を回収してしまいたかった。時間が経てばたつほど、オリビアを攫って行ったあの男、アムレンに奪われる可能性が高くなる。今日の内に回収する。明日にはリンダたちが到着するから、合流して、一緒に帰ればいい。


 そして、守護者がソムニウムに派遣された後、僕は街を離れる。

 それですべて解決するはずだ。


 僕は言った。


「僕一人でも回収してきます。アンジェラさんは待っていてください」


 僕は振り返って歩き出した。


「ちょっと! ま、待ってくださいよ!!」



 アンジェラは僕の後を追いかけてきた。


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