# 23. ɐʇɐɯoʇnɐ
視界が開ける。
僕はまた、俺の体に引き戻されたようだ。
俺は工房のようなところにいる。例によって、アムレンとステラが一緒だった。
工房にはたくさんの工具と、魔石と、オートマタが置いてあった。
アムレンが工房の奥に向かって叫んだ。
「おーい! いるか!?」
工房の奥から返事があった。出てきたのは目の部分がゴーグルになった仮面をつけた男で、痩せていた。髪を後ろで束ねていた。
「ああ、兄さんか。どうしたの?」ゴーグルの男はアムレンにそう言った。
俺はアムレンの弟を見た。彼の首元は皮膚が変色してひきつっていた。おそらく顔もそうなのだろう。彼はグローブをはめていて、工具を持っていた。グローブは真っ黒になっていた。
「ある場所でこんなものを見つけてな。直せるか聞きたくて」
アムレンは俺に目配せした。俺は《マジックボックス》からそれを取り出した。
それはオートマタで、かなり精巧だったが、腕や脚が取れて起動停止していた。
アムレンの弟は俺からそのオートマタを受け取ると、はしゃぐように言った。
「すごい! オートマタ時代の最高傑作だ! こんな精巧な表皮は見たことがない」
彼はオートマタの腕を持ち上げてそう言った。アムレンは満足そうだった。彼は弟に言った。
「直せそうか?」
弟は頷いた。
「なんとかやってみるよ」
◇
その夜、俺たちパーティとアムレンの弟で、夕食をとった。夕食はオートマタが作っていた。アムレンの弟の生活はオートマタによって成り立っていた。彼は修理したそれらを使って、疑似的に冒険者として活動していた。冒険者ギルドは便宜を謀って彼を「テイマー」として登録していた。オートマタを魔物とみなしてのことだった。
アムレンの弟は夕食の席でオートマタがいかに優秀か、どれだけ助かっているかを語った。
「僕は兄さんみたいに優秀じゃなかったから、この道を選んだんだ」彼はうつむいてそう言った。
「お前にはあっているだろ」アムレンはパンをかじってそう言った。「この前も新しい機能追加してたじゃないか。ええと、なんだ……」
「起動停止した数秒後にすぐに起動できるやつ?」
「そうそれだ」アムレンは頷いた。
「あれが何の役に立つのさ」
アムレンの弟は苦笑して続けた。
「僕は兄さんみたいになりたかったんだよ。兄さんみたいに戦えるようになりたかった。空を駆けまわるように壁を蹴って、高速で敵を襲撃する、そんな強力な存在になりたかった。僕は……兄さんみたいに……」
彼はそのあと何かをつぶやいたがそれは音にならなかった。口だけが動いて言葉を作った。彼の隣に座っているアムレンには見えなかっただろうが、俺にははっきりとみえた。
――僕は……兄さんみたいに……力が欲しかった。
◇
「コンプレックスの強い弟なんだ」
アムレンは街を歩きながら言った。翌日のことだった。俺たちはオートマタの修理を待つ傍ら、街の観光をしていた。アムレンの弟は外に出るのを嫌がった。それを受けてのアムレンの発言だった。彼はつづけた。
「オートマタの修理ができるんだから、優秀なんだけどな。それでいいと思っていない。それに多分顔の怪我のせいもあると思うんだ」
ステラは尋ねた。
「顔の怪我、ですか?」アムレンは頷いた。
「昔、親父との訓練中に事故で顔に怪我をしたんだよ。炎系の魔法をもろに喰らってね。回復系のスクロールなんてほとんどなかったからそのままなんだ。あれを治すには、《エリクサー》くらい強力な魔法じゃないとダメだと思う」
「そうか」俺は続けた。「さすがに《エリクサー》は俺の〈記録〉にないな」
「《エリクサー》ほどじゃなくてもいいんだ。あいつの顔の傷が少しでも良くなるような、そんな薬を手に入れたくてね」アムレンはそうつぶやいて微笑んだ。
◇
突然、意識が混濁する。
僕はまた選択の場に戻される。
落下する。
そのとき、突然、男の人の声が聞こえた。
――戻れ。スティーヴン
――ユニークスキル〈記録と読み取り(セーブアンドロード)〉を再起動します。
――強制的に最後にセーブした場所へ戻ります。
――――――――――――――――――――――――IIIX
目を開く。
最後に〈記録〉したのはいつだろうと思いだす。
そこはダンジョンのような場所で、僕は片手に距離計を持っている。アンジェラが前を歩いている。
そうか、僕は無意識にこの場所を〈記録〉していたのか。
ここは守護者たちの根城に向かう隠し通路。衛生的ではない王都の一区画から降りて、アンジェラに従って歩いて来たところ。
時間的には、いつだ?
僕は思いだす。
瑠璃色の少女との戦闘が終わって、レンドールが死に、僕がアンジェラに、ソムニウムに守護者を送るように交渉した後だ。
僕が立ち止まると、アンジェラは不思議そうに振り返った。
「どうしました?」
「〔魔術王の左脚〕がある場所がわかりました。今から取りに行きましょう」
彼女はますます怪訝な顔をした。
「え? それってどういう……?」
「僕は未来から戻ってきたんですよ。スキルを使って」
アンジェラはまだ半信半疑な様子だった。が、僕はとにかく早く〔魔術王の左脚〕を回収してしまいたかった。時間が経てばたつほど、オリビアを攫って行ったあの男、アムレンに奪われる可能性が高くなる。今日の内に回収する。明日にはリンダたちが到着するから、合流して、一緒に帰ればいい。
そして、守護者がソムニウムに派遣された後、僕は街を離れる。
それですべて解決するはずだ。
僕は言った。
「僕一人でも回収してきます。アンジェラさんは待っていてください」
僕は振り返って歩き出した。
「ちょっと! ま、待ってくださいよ!!」
アンジェラは僕の後を追いかけてきた。