表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

73/124

# 22. spooʍ

 何が起きているのか理解できなかった。僕は別の誰かの体の中で意識だけ存在していた。僕は生きているのだろうか。ここはまだあの選択の場なのではないかと思った。これはただのイメージで、すべて終われば選択の場に戻れるのではないかと思った。


 しかし、もどったところで何ができるわけでもないのは分かっていた。


 状況を整理したかった。


 髭の生えたは水を汲むと《マジックボックス》に革袋をしまった。湖の向こうには女性がいた。彼女の体は透き通って見えた。は立ち上がると、彼女に頭を下げた。女性は小さく頷き返した。は来た道を戻りパーティとみられる人びとと合流した。女性と男性が一人ずつ。男は向こうを見ていて顔が見えない。


 女性の一人は長い杖を持っていて、先には丸い魔石のようなものがついていた。街にいるときのドロシーのような恰好をしている。ローブ姿で、いろいろな薬草が入っていそうなカバンを持っている。大きな眼鏡をかけている。彼女が言った。


「湖の水は手に入りましたか?」

「ああ。後は戻るだけだ」


 は頷いてそう言った。


「じゃあ村に戻ろう」


 男が振り返って言った。彼の顔を見て、僕は唖然とした。


 その男はまぎれもない、オリビアを連れ去ったあの男だった。短く刈り上げた黒髪、紫色の目。真っ白なプレートアーマーを着ていた。かなり若く見えた。これが過去の出来事だからだろう。


 これは彼の記憶か?

 〔魔術王の左腕〕の力を受けることで僕に彼の記憶が流れ込んできたのか?


 わからない。わからない。

 僕は今魔術師の一人になって、彼の行動を見ているのかもしれない。


 僕の思考が渦を巻き、混濁していこうとも、状況は進む。たちは共に歩き出した。

 

「クエストが終わったら、俺はすぐに村を出て家に戻る」プレートアーマーの男は言った。

「娘さんはかわいいですか?」ローブ姿の女性が言った。彼女はにっこりと微笑んでいた。

「ああ」男は照れくさそうにそう言った。

「お前らしくないな、アムレン」がそう言って笑った。


 オリビアを連れ去った男はアムレンというのか。僕は彼の名前を憶えておこうと思った。


「お前も時期にそうなる」アムレンはに言った。

「俺が? 信じられないな」はそう言った。




 森の中を進む。どうして《テレポート》を使わないのだろうと思ったが、もしかしたら、王都と同じように、《テレポート》を使えない場所なのかもしれないかった。


 突然、悲鳴が聞こえた。


「俺が、先に」アムレンはそう言って、消えるような速度で駆け出して、悲鳴の方へと向かった。


 俺たちも彼に続いた。


「迷いの森に、その名の通り迷い込んだのか?」俺は呟いた。

「そうかもしれません。でも村の人は近づかないはずですが……」


 女性はそう言って思案顔をした。

 俺たちはアムレンに追いついた。悲鳴の主は白猫の獣人で、まだ幼かった。彼女は恐怖からか頭を抱えるようにしてうずくまっていた。母親と見られる女性は怪我をして倒れていた。アムレンはすでに魔物と戦闘を行っていた。といっても、その魔物は危険ではあるがそれほど厄介な相手ではない。アムレンは剣をふって、魔物の首を切り落とした。




 俺は母親の治療をした。スクロールを『空間転写』して、発動する。母親の傷が癒えていく。わずかに傷跡が残っていた。

「ありがとうございます」母親はほっとした顔をしていった。

「ううう、こわかったああ」少女は母親に抱き着いた。母親は彼女の頭をなでた。




 そのとき、突然、茂みの中から蛇の魔物が現れて、首をもたげた。奴は牙をむいて、少女を睨んだ。

 少女がまた悲鳴を上げる。俺は彼女に背を向けて、魔物と相対する。

 スクロールを『空間転写』する。


「アクティベイト」


 地面から岩の槍が出現して、蛇の体を突き刺した。


「ここは魔物が多いな」俺は言って振り返った。

「〔勇者〕様?」白猫の少女は俺にそう言った。

「どうして俺じゃなくてこいつなんだ?」アムレンが不服そうに言うとパーティの女性が笑った。

「笑うな、ステラ」アムレンが女性をムッとした顔で見た。


 俺も笑って、それから言った。


「違うよ。俺はただの冒険者だ」そう言って、俺は少女の頭をなでた。

「村から来たんですか?」ステラは母親に尋ねた。母親は頷いた。

「ええ。いつもなら追い払える魔物なのですが、不意をつかれてしまって」


 母親は腰にナイフをつけていた。魔物よけの薬草も一緒にベルトに挟まれていた。

 どうやら、薬草を取りに森に入ったらしい。


「今度から冒険者をつけるといいですよ」ステラは言った。

「はい。すみません」母親はひどく反省したようでそう言った。


 俺は少女を肩車した。白猫の少女はキャッキャと笑った。


「名前はなんていうんですか?」ステラは少女に尋ねた。


 少女は言った。


「リンダ」





――リンダさん?

 僕ははっとした。確かに母親はリンダにとても良く似ていた。腰につけているナイフも、リンダがつけているものと同じだった。


 それに気付いた瞬間、目の前が真っ暗になった。

 ぐるぐると回転して、落ちていく感覚。

 の体から僕は引きはがされる。


 選択の場に戻れるのではないかと思った。

 が、そうはうまく行かなかった。

 僕は落下して、どこかにたどり着いた。


――――――――――――――――――――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ