# 19. 孤独
デイジーに連れられて、マーガレットは王都を歩く。デイジーは手を握りしめて放さない。瑠璃色の髪を揺らして、リボンを揺らして歩いている。
マーガレットはアムレンのことを考えていた。
王立騎士団、元団長。
そして守護者という肩書を持っていたという。
デイジーはアムレンとどういう関係なんだろう。マーガレットは気になって尋ねた。
「ご主人様なの」デイジーはそう言った。
「ご主人様? 君はメイドか何かなのか?」そう言ってからマーガレットは口をつぐんだ。もしかしたらデイジーには辛い過去があるのではないか。ご主人様というからには奴隷なのではないかと思った。
デイジーは笑顔で言った。
「メイドじゃないよ。私は代わりなの」
「代わり?」
「そう」彼女はそれ以上何も言わなかった。
マーガレットはそれ以上何も聞かなかった。
◇
そこは城から少し離れた場所だった。デイジーを見つけたあの場所ほど荒んではいなかったが寂れていた。デイジーはとある建物の前で立ち止まった。
「ここだよ!」
マーガレットは緊張した。覚悟はできていた。
デイジーが扉を開けた。
そこには一人の男と、ハーフエルフの女の子がいた。女の子は気を失って倒れていた。男はローブ姿で、椅子に深く座り込んでぐったりとしていた。
「ご主人様ー。その人だれー?」デイジーは男に近づいて、ハーフエルフの女の子を指さした。男は地面を見たまま言った。
「【墓荒らし】だよ。見つけたんだ」彼は顔を上げた。
マーガレットはその顔をじっと見た。間違いない。あの頃より歳を取っているが、彼だ。
アムレンだ。
「誰か連れてきたのか? デイジー?」
「うん。お客さんだよ」
彼は初め、興味がなさそうにこちらを見ていた。徐々にその目がひらかれる。
彼は言った。
「マーガレットか?」
マーガレットは剣に手をかけた。彼は母親を殺した男だ。おじいさまを殺した男だ。それは確かだった。だが、まだ、殺すわけにはいかなかった。
彼に聞きたいことが山ほどあった。
マーガレットは言った。
「そうだ、アムレン。捜しに来たぞ。あの日言われたように」
アムレンは、笑った。
「大きくなったな、マーガレット」
マーガレットは剣を抜いた。デイジーが身構える。
アムレンは座ったままため息をついて言った。
「時間は残酷だ」
「アムレン。お前に聞きたいことがある。私は私について知らなければならない」
マーガレットはそこで言いよどんだ。これを尋ねれば答えが返ってくる。知りたくない真実がわかる。
彼女は悩んでいた。王都にたどり着く寸前に見たあの夢が彼女の心に深く突き刺さっていた。
スティーヴンに合わせる顔がないと思った。
――母と祖父がいた。彼らはマーガレットを見下ろしていた。
――いつのことか思い出せない。
――母がマーガレットの肩をつかんだ。
――「いい、マーガレット。あなたは――
マーガレットはアムレンに尋ねた。
「ワーズワース家は魔術師の家系なのか? 私は、魔術師なのか? だから、守護者であるお前は、私の家族を殺したのか!?」
――「いい、マーガレット。あなたは立派な魔術師なのだからしっかり訓練なさい」
マーガレットは涙を流した。身を割くような心の痛み。
答えないでくれ。
答えてくれ。
マーガレットはボロボロと堰を切ったように泣いた。
デイジーは身構えるのをやめて、不思議そうにマーガレットを見た。彼女はアムレンの服を引っ張って、どうしてマーガレットが泣いているのか尋ねた。
アムレンは、デイジーの頭をなでた。
彼は静かに、マーガレットに言った。
「ワーズワース家は、〔魔術王〕の血族だ。魔術師よりもっとずっと、面倒な存在だよ」
マーガレットはひゅっと息を吸い込んだ。〔魔術王〕だろうが、魔術師だろうが、同じだった。想像していたことが、今はっきりと事実になって、マーガレットを襲った。
彼女は崩れ落ちるように膝をついた。
――私はスティーヴンの敵だ。
彼が憎み、倒した魔術師が信仰している存在の血を引いている。
二度とスティーヴンに会うことはできないだろうと、マーガレットは思った。
そしてそれは、同時に、街に戻れないことを意味していた。
彼女はうなだれた。
また孤独に戻るのか?
あの頃のように、スティーヴンのマップに出会う前、『グーニー』よりもっと前に戻るのか?
突然、マーガレットは不安になった。それは今まで体感したことのない感情だった。
胸の奥底にある大事な部分を無理やりくりぬかれたような痛みに呻いた。
「私は、独りだ……」
マーガレットは呟いて、両手で顔を覆った。
◇
彼女は放心状態でそのすべてを見ていた。
何が起きたのか、理解するには、あまりにも多くのことが起きた。
マーガレットはその波に飲み込まれ、
死に至った。