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# 18. 合流

『トッド・リックマンの盗品店』

『迷惑かけるのはお互い様』

『文字通り【掘り出し物】販売』



 カラフルな蛍光石の看板が光っている。僕はそれを見上げて目を細めている。そもそも盗品店ってなんだ。公にしていい看板ではなかった。


 店の前には中年のヤギの獣人が座っていて、キセルをふかしている。テリーと同じように、人間ではなく獣よりの獣人だ。


 何が気に食わないのか僕とアンジェラのことを睨みつけて鼻にしわを寄せている。


「どうして睨まれてるんでしょう」僕はこっそりアンジェラに尋ねた。

「知りませんよ。私この店初めて来ましたし」


 彼女もこそこそとそう言った。それが気に食わなかったのか、ヤギの獣人はぼりぼりと体を掻きながら眉間に皺を寄せてさらに僕たちを睨んだ。


 彼がトッド・リックマンなのだろうか、店には他に誰もいないように見えた。


 アンジェラがヤギの獣人に近づいた。


「すみません。トッドさんですか?」

「いらっしゃい。そうだよ」


 渋い声でトッドは言った。彼はキセルを椅子にたたきつけて灰を落とした。よく見ると椅子の下には灰の山ができていた。


「あー、ここにオリビアという人はいますか?」アンジェラは少しおどおどして尋ねた。

「今はいないね。中で待ってな」トッドは店の中を指さした。


 アンジェラと共に店に入る。店には雑多なものがゴロゴロと置いてあった。商品に統一感がないのは盗品店だからだろう。宝石やペンダントといった装飾品から、剣や盾といった武器、スクロール、虫の死骸まで売っている。僕は店の奥に進んでいって、壁に大きなスクロールがかかっているのを見た。


「アンジェラさん、あれ見てください」僕はそれを指さした。それは《マジックボックス》のスクロールだった。パスワードの部分は空欄だった。


「デリク教授のいう通り見たいですね」アンジェラは腕を組んでそう言った。


 巨大なスクロールの前には機械とたくさんの羊皮紙が置いてあった。ここでオリビアは《マジックボックス》のパスワードを検索して、中身が入っているかどうか確認し、入っていれば、盗んでいるのだろう。そうしているうちに、運悪く、彼女は〔魔術王の左脚〕を魔術師から盗んでしまった。


 店の中を探したが、〔魔術王の左脚〕はなかった。僕はトッドに尋ねた。


「すみません。真っ黒な鎧の左脚のようなものを仕入れませんでしたか? 赤白の大きなリボンと一緒に出てきたはずです」


 トッドは僕を見て、それから首を横に振った。


「いや、知らないね。俺が見てないってことはオリビアが持っているか、もしくはあいつに売られたか」

「それは困ります!」アンジェラが言った。トッドは小さく首を振った。

「そう言われてもね。どちらにせよ、俺は見ていないよ」


 僕はアンジェラと顔を見合わせた。


 その時だった。


「戻ってきたな」トッドが呟いた。僕は彼がキセルで指し示す方を見た。


 そして、ぎょっとした。


「なんで……なんでここに?」


 オリビアと見られるハーフエルフの小さな女性の後ろから、リンダとドロシー、それにテリーがついてきていた。


「スティーヴン!!」リンダとドロシーが駆けてきて、僕に抱き着いた。


「心配したにゃ! 『なんだかかんだかの車輪』とか回ってようやく見つけたにゃ!!」

「良かったあ! ティモシーよティモシー、リンダ」二人はそう言って微笑んでいたが、アンジェラを見ると目をむいて、僕を引き離した。


「なんでお前がいるにゃ! あっち行けにゃ!」リンダはフーッと毛を逆立たせて威嚇した。


 ドロシーは僕とリンダに隠れてアンジェラを睨んでいる。


「戻りましたー、ってあれ? どうかしたんですか?」オリビアはとんがり帽子のつばに触れて不思議そうに尋ねた。


 アンジェラは困惑気味に頭を掻いて、テリーを見つけて理解したように「ああ」と呟いた。


「そこの人に、あなたを連れ去るところを見られていたんですよねえ」


 アンジェラはテリーを見てから僕に言った。確かにあの改造馬車に乗せられたときテリーを見た気がする。茫然自失で何も考えられなかったあのときだ。


「そうにゃ! テリーが発信機を車に投げ入れたから、ここまでこれたのにゃ!」リンダは僕を抱きしめたまま言った。

「どうしてスティーヴンを誘拐なんかしたの?」ドロシーは僕とリンダの後ろから尋ねた。


 アンジェラは言った。


「これには深いわけがあるんですよ。でもそれ後でいいですかあ?」アンジェラはそう言って、オリビアを見た。


「ダメにゃ!」リンダが叫んだが、アンジェラは聞く耳を持たず、オリビアに近づいた。オリビアは警戒して身構えた。


「何よ! あんた!」

「オリビアさん。あなた、《マジックボックス》からものを盗む【墓荒らし】ですね?」


 【墓荒らし】という言葉に、オリビアは反応した。


「【墓荒らし】!? 聞き捨てならない! 私は【トレジャー・ハンター】! それも一流のね! 総当たりでパスワードを探し出すだけじゃない。《マジックボックス》が発動された瞬間を見れば、術式からその人のパスワードを盗みとれるんだから! 訂正して!」

「どっちもおなじだ」トッドがキセルをふかしてそう言った。

「トッドさんまでひどいじゃないですかあ!」


 アンジェラはニコニコと笑顔で言った。


「それはどうでもいいんですけど、あの、黒い鎧の左脚みたいなものを最近手に入れませんでしたか?」


 オリビアは「はあ!?」とキレた。


「どうでもよくない! 確かに最近そういうものを手に入れたけそれが何? あんたには渡さないから!」オリビアは小さな胸を張った。


 ドロシーが呟いた。


「それって、まさか……」


 僕はリンダの腕から逃れて、ドロシーに言った。


「ティンバーグで奪われた〔魔術王の左脚〕だよ」

「え!?」ドロシーは口を押さえた。

「そのオリビアって人が、魔術師のマジックボックスから盗んだんだ」僕はドロシーとリンダにそう言った。


 アンジェラは子どもに言い聞かせるように言った。


「それはあなたが持っていていいものではないんですよ。危険なものなんです」

「そんなのはどれでも同じ」オリビアは言った。「わかりきったこと」


 ドロシーがオリビアに近づいて言った。


「オリビア。それは本当に危険なの。この人じゃなくてもいい。私たちでもいいから渡したほうがいいわ」


 オリビアはドロシーを見て、アンジェラをみて、そして笑った。


「先輩、この人とグルなんですね? そうなんでしょ!」


 ドロシーは呆れたようにため息をついた。


「そうじゃないわ。私は……」

「『あなたのためを思って』なんて言わないでくださいよ」オリビアは目を赤くしてドロシーを睨んだ。ドロシーは首を小さく振ってうつむいた。


 一人の男が通りを歩いている。ローブを来たおっさんだ。彼は僕たちを見ている。これだけ騒いでいれば気にもなるだろう。


 彼は通り過ぎる。


 そう思った。


「お前が【墓荒らし】か」その男は突然、オリビアを抱き上げると肩に担いだ。

「な! ちょっと! 何すんのよあんた!」オリビアは暴れた。

「ああ、うるせえうるせえ。人のもの盗みやがって」そのおっさんは沈むようにしゃがみ込むと、飛んだ。


 僕にはそう見えた。


 《フライ》という魔法より速く、一瞬でかなり高い位置まで到達した。


「きゃあああああああああああああああああああ!!」オリビアの悲鳴が響く。ローブの男はオリビアを担いだまま、アンヌヴンに立つ塔を蹴って移動した。


 その動きは、赤髪の男に似ていた。


 僕は《フライ》を使い、彼を追いかけようとしたが、すでに遅い。

 彼は、エレベーターのある方角に駆けて行った。


「〔魔術王の左脚〕が!」アンジェラは叫んだ。


 着地すると僕は言った。


「追いましょう!」

 僕たちは駆け出した。




 ◇




 オリビアを捕らえたおっさんはエレベーターに乗って地上へと向かっていた。オリビアはその速度に耐え切れず、気を失っていた。おっさんは息を切らしながらエレベーターの壁にもたれかかった。


「さすがに辛いな」


 彼は、ポケットからペンとインク瓶、それから羊皮紙の破片を取り出すと地面で何かを書き出した。息を吹きかけて、インクを乾かすと、ベルトに挟んでいたスクロールを取り出して、紐を解いた。


「アクティベイト」


 おっさんはスクロールを発動させた。それは《マジックボックス》だった。


 彼は何かをかいた羊皮紙を《マジックボックス》に入れると、すぐに閉じ、ポケットから何か機械を取り出した。それは手のひらに収まるサイズで、スイッチがひとつついていた。


 おっさんは機械のスイッチを入れた。

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