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# 17. 王立図書館

「ここが王立図書館だよ!」デイジーは元気にそう言った。そこは城からかなり離れた場所にあって、城に向かっていても意味がなかったなとマーガレットは思った。


 彼女はデイジーを連れて図書館に入った。


 受付の男性が笑顔で言った。


「一人銀貨二枚です」マーガレットはとくに値段を気にせず銀貨四枚を支払った。

「ほら行くぞ、デイジー」


 マーガレットがいうと、デイジーはパッと笑みを浮かべた。


「私も入っていいの!?」彼女は大声を出した。受付の男性が顔をしかめた。

「館内ではお静かに願います」


 マーガレットは小声でデイジーに言った。


「いいよ。ほら、おいで」

「やったあ、初めて中に入るんだあ」デイジーは嬉しそうにマーガレットの手を握った。マーガレットは微笑んで図書館の中に入っていった。


 図書館は広かった。インクのにおいがあたりに漂っている。大きな机がいくつもあって、たくさんの人が本を読み何かを書き写している。


「うわあ、すごい」デイジーはちいさく感嘆の声を上げた。

「ああ、すごいな」マーガレットも呟いた。これほど背の高い本棚を見たことがなかったし、これだけの量の本を一度に見たこともなかった。


「あっちの方見てきていい?」デイジーはマーガレットの手を離して言った。

「ああ、迷惑にならないように気をつけな」

「うん!」デイジーはきょろきょろとしながら歩いていった。前を見なくて大丈夫だろうか。


 マーガレットは自分の用事を思いだして、職員を探した。




「すまない、エレインという職員をさがしているのだが」マーガレットは本をカートにのせて運んでいる職員に声をかけた。

 彼は「エレインさんですか?」と言って奥にあるカウンターを指さした。


「エレインさんならあそこのカウンターで事務作業をしていますよ」


 そこには確かに一人の女性がいた。年齢はわからない。眼鏡と長い白髪のせいで年を取って見えるが、おそらくそこまで年齢はいっていない。


 マーガレットは職員に礼を言って、カウンターに近づいた。


「エレイン、であっているか?」マーガレットは白髪の女性に尋ねた。彼女は羊皮紙に何かを書いていたが、ペンを置き、顔を上げてマーガレットを見た。

「ええ。私がエレインです。何かご用事でも?」エレインは笑顔で尋ねた。

「アムレンという男について知りたいんだ。何か知らないか?」


 アムレンという名前を聞くと、エレインは眉間に皺を寄せた。


「失礼ですが、あなたは?」エレインは眼鏡の奥から紫色の目を光らせて言った。

「マーガレットという。マーガレット・ワーズワースだ。ブラムウェル・ワーズワースから話を聞いてここに来た」


 エレインは小さくため息をついた。彼女は眼鏡を外すと目頭を押さえた。


「そう、マーガレット。わかりました。少し奥で話しましょうか」エレインは他の職員に仕事を引き継いだ後、マーガレットを連れて部屋の奥にある机に向かった。

「どうぞ、座ってください」マーガレットはエレインの向かいに座った。


 特段別の部屋に移ったわけではなかったために、ときどき、デイジーの姿が見えた。デイジーは天井近くまである本棚を見上げ、ふらふらと歩いていた。


「アムレンについてでしたね」エレインは言った。眼鏡を外すとかなり若く見えた。もしかしたら自分と同じくらいの歳ではないかとマーガレットは思った。


「ああ。ただ、その前にひとつ確認したい。あなたは何者だ?」エレインは少し驚いて、それから呆れたような顔をした。


「ブラムウェルは何も言わなかったんですね。私はブラムウェルの妹です。彼が私を紹介したのは、多分、ここに勤めている私が記録に詳しいと知っていたからでしょう」

「妹がいたのか、そうか……」マーガレットは小さく頷いた。

「少々お待ちを」


 そう言ってエレインは本棚に備え付けてある梯子を上って一冊の本を取り出した。重そうなその本を抱えて、エレインは戻って来ると、どさりと机に置いた。埃が舞う。


「この本に書かれていたはずです。ああ、ありました。ここですね」


 エレインは本の一部を指さした。確かにそこにはアムレンの記述があった。


「白い騎士アムレン。王立騎士団、元団長?」

「ええ、そうです。そして王立騎士団団長は表向きには守護者の一員になっています。ただこれが本当かどうかはわかりません」


 エレインはページをめくって、王立騎士団と守護者に関するページをひらいた。


「伝説にはこうあります。『〔勇者〕の一人は、王となり、国を統治した』。この国は〔勇者〕の末裔によって統治されています。真実は定かではありませんが、伝説を信じるのであれば、そうです。元々、王によって作られた騎士団は、すべて守護者で構成されていたようです。それが月日が経って、団長のみが守護者という肩書を持つ形になったようですね」


 エレインは本の記述を指さしながらそう言った。


「では、王立騎士団か、もしくは守護者を調べれば、アムレンが見つかるのか?」


 マーガレットが尋ねると、エレインは表情を曇らせた。


「いえ……わかりません。というのも、どちらも調べることができない組織だからです」

「なぜだ?」


 エレインは本をめくって、団長の記録が書いてあるページを見せた。そのページには歴代の団長と、任期が書かれていた。アムレンのあと、二人の団長が書かれていたが、そこから先が空欄になっていた。任期の日付は数年前を最後にして止まっている。


「王立騎士団は表舞台から姿を消しました。今、王都を守っているのは王立騎士団の下位組織である王都騎士団です」

「どうして消えてしまったんだ?」尋ねたが、エレインは首を振った。

「一般には王都騎士団に変わっただけだと言われています。確かに、王立騎士団は元々あまり表に出ない組織でした。国王を守るためだけの少数精鋭の部隊になっていたのも事実です。しかし、全く存在自体が消えてしまう理由がないのですよ。そこがわかりません」


「では、守護者は?」

「彼らはもともと表舞台に立っていません。今までどこに拠点を置いていたのかすら記録に残っていません」

「そうか」マーガレットはうなだれた。

「お力になれず、すみません」エレインは本をとじると申し訳なさそうに言った。

「いや、いいんだ。突然すまなかった」


 マーガレットが言うと、エレインは本を持ち上げて一礼した。


「あ、すまない、もう一つだけ」マーガレットはエレインを呼び止めた。

「はい。なんでしょう?」


 マーガレットはワーズワースというファミリーネームについて尋ねた。

 エレインは首を横に振った。


「私はそれほど多くを知りません」ブラムウェルと同じ答えだった。

「そうか」マーガレットは礼を言った。

 エレインは本を棚にしまうと、カウンターに戻っていった。マーガレットはしばらく椅子に座っていた。




 気が付くと向かいにデイジーが座っていた。


「ああ、すまない」マーガレットは言った。

「お話終わった?」デイジーはニコニコと笑って言った。

「ああ、終わったよ。図書館は楽しかったか?」


 デイジーは手を広げて言った。


「すんごく楽しかった」


 マーガレットは微笑んだ。


「そうか。それは良かった」


 マーガレットは立ち上がり、デイジーに手を差し伸べた。


「私の用事は終わった。外に出ようか」

「うん」デイジーは立ち上がるとマーガレットの手を取った。


 デイジーは言った。


「ねえ、お姉ちゃん」

「なんだ?」




「私、アムレンって人知ってるよ?」




 マーガレットは立ち止まった。


「え?」

「お姉ちゃんが探してる人かわからないけど、でも、そう言う名前の人なら知ってる。元々団長だったって言ってたし」


 マーガレットはしゃがみ込んでデイジーの肩をつかんだ。


「その人はどこにいる!?」

「会いたいの?」デイジーは尋ねた。マーガレットは頷いた。

「じゃあ、連れて行ってあげる」


 デイジーはそう言って、マーガレットの手を引いた。

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