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# 15. 王都ギルド

 リンダたちは王都のギルドにやってきた。


「受付がなっがいにゃ」リンダは感嘆の声を上げた。


 確かに受付台は長かった。一度に十数人は対応できるだろう。入口から受付までが遠い。ソムニウムにある教会の礼拝堂一つ分くらいの距離があった。クエストが張り出された掲示板はランクごとに一枚ずつあり、貼られている数が尋常ではなかった。Sランク向けのクエストも何枚か貼られている。


 ギルドの中なのに屋外みたいに露店がいくつかできていて、冒険者たちが必要なものを買っているようだった。


 リンダたちはしばらく並んで受付で宿を紹介してもらった後、ギルド内の露店を見て回った。ソムニウムから持ってきたものはほとんど使ってしまったし、残りはマーガレットの《マジックボックス》に入ったままになっていた。なんにせよ行動する前に必要なものを買い足さなければならなかった。


 冒険者ギルドの中とあって、ダンジョンに潜るために必要なものや、クエストを行うのに便利なものがずらりと並んでいた。


「スクロールが欲しいわね」ドロシーが言った。


 王都にたどり着くまでの道中、何度か魔物に襲われて、戦闘しなくてはならなかった。スクロールはそのとき消費してしまっていた。


「スクロールは……あっちにゃ」


 リンダは受付近くを指さした。どうやらスクロールは露店ではなくギルドが直接販売しているらしい。リンダたちは受付の端にある販売所に向かった。


 販売所には先客がいた。小さなハーフエルフの女性だった。彼女は広いつばの付いたとんがり帽子をかぶっていて、背伸びをして、ギルドの販売員にむかってスクロールを突き出していた。


「先月と買取金額が違うんだけど!?」ハーフエルフは怒鳴った。

「そのスクロールはギルドにまだ在庫がたくさんあるんですよ……」


 販売員の女性は苦笑いをした。どうやら、ここではスクロールの買取もしているらしい。ハーフエルフの女性は小さく鼻息を漏らすとスクロールをしまって、「じゃあいい」、そう言って振り返り、ドロシーを見上げた。


「あれ!? ドロシー先輩?」


 リンダが首をかしげてドロシーを見た。


「ドロシー、この子知ってるのかにゃ?」リンダの言葉にハーフエルフの女性は怒った。

「私は大人! この子って言うな!」


 彼女はとんがり帽子をぐっと上げてリンダたちに顔を見せた。そのときドロシーが思いだしたようで、はっとして言った。


「オリビア!?」

「そうです! お久しぶりです、先輩!」オリビアはにっこりと笑った。


 ドロシーはリンダたちにオリビアを紹介した。彼女は魔法学校でドロシーの後輩だった子で、術式の成績が良くて、よく図書室で話をしていた仲だった。


「で、オリビア、退学になった後どこに行ってたの?」ドロシーは目を細めて尋ねた。


 オリビアは「あはは」と苦笑いして、とんがり帽子のつばに触れた。


「あんまり大声では言えないんですけど、実はあれからアンヌヴンで働いてまして」


 ドロシーは目を見開いて、ばっとリンダを見た。リンダはオリビアに言った。


「アンヌヴンに行く方法わかるのかにゃ!?」


 リンダとドロシーがあまりにも必死なので、オリビアはビビっていた。


「え、ええ、もちろんわかりますけど、……あんなとこに何の用ですか?」


 ドロシーは言った。


「捜してる人がいるのよ」




 ◇




 リンダたちはオリビアについていくことにした。


「何か他に用事があったんじゃないの?」ドロシーはオリビアに尋ねたが、彼女は首を振った。

「いえ、元々スクロールを売ったら地下に戻るつもりでしたから」


 オリビアは、それから、自分の仕事についてドロシーに話した。


「盗人だにゃ」リンダは呟いた。

「違いますよ! 持ち主が死んで埋もれてしまった《マジックボックス》の中身を回収してるだけです」

「でもそれが原因で退学になったんでしょ?」ドロシーはオリビアを睨んだ。

「まあ、そうですけど」オリビアは苦笑した。「でもいいじゃないですか。デリク・ルーヴァン教授から盗んだんですよ。あの厭味ったらしい男ですよ」

「うーん」ドロシーは少しだけ笑ってうなった。「でも盗んじゃダメじゃない?」

「ええ? 先輩なら理解してくれると思ったのになあ」オリビアは唇を尖らせた。




 オリビアは裏通りには入らなかった。彼女が訪れたのは、ただのパン屋だった。パン屋の店主は細身の男性でオリビアを見るとにっこりと笑った。


「やあ、今日は客を連れてきたのかい」男は腕まくりをした。右腕には五芒星のタトゥーが入っていた。

「うん。昔の知り合いとその知り合い」オリビアは振り返ると、リンダたちに言った。

「そのパンおいしいんで、一人ひとつずつ買ってください。銀貨一枚と銅貨二枚です」

「#####」


 テリーが鼻に皺を寄せた。リンダはテリーの肩を小突いた。リンダたちは言われた代金を払った。テリーは鼻に皺を寄せたまま払った。


「まいど」各々がパンを受け取ったのを確認すると、オリビアは店員にネックレスを見せた。五芒星のネックレスを見ると男は頷いて、店の奥を指さした。


 オリビアに続いて店の奥へと進んでいく。彼女はテリーを見ると言った。


「その人がなんて言ってるかわかりませんが、何を言いたいのかはわかりました。『パンの値段高すぎる』ですよね」

「もっと汚い言葉だったにゃ」リンダが言った。テリーはまだ鼻に皺を寄せていた。

「パンを買うのは建前ですよ。銀貨一枚が通行料です。それにそのパンがおいしいのは本当ですよ」


 リンダはパンに噛り付いた。


「ほんとにゃ。うんまいにゃ」テリーもバクバクと食べている。


 オリビアは「ああ」と思いだしたように言った。


「急いで食べるのはいいんですけど、吐かないでくださいね?」


 テリーは首を傾げた。




 ◇




 エレベーターから出てきたリンダたちは顔色を真っ青にして、地面にしゃがみ込んだ。


「もうこんな乗り物乗りたくないにゃ」リンダはうううとうなった。


 テリーは元気だった。


 エレベーター降下中、柵を乗り越えんばかりに身を乗り出してアンヌヴンの光景を見ていた。オリビアに「頭がなくなりますよ」と言われてしぶしぶ箱の中に戻っていた。


 彼は今にも走り出しそうだった。まるでお祭りにはしゃぐ子どもみたいだった。


 ドロシーは口を押さえて立ち上がり、一瞬ふらついた。


「ここに手掛かりがあるのね」

「何としても見つけ出すにゃ」リンダも立ち上がって言った。


 オリビアは心配そうに二人を見てから尋ねた。


「何か捜す当てはあるんですか?」


 リンダは頭に手を当てて、なんとか思いだそうとしていた。


「ああ……何だったかにゃ。『なんとかの車輪』にゃ、ええと」

「ティモシー・ハウエルよ」ドロシーが深呼吸をして言った。

「そうにゃ『ティモシー・ハウエルの車輪』って店にゃ」


 オリビアは「ああ」とつぶやいてから言った。


「その店なら七-三地区ですね。こっちです」オリビアが歩き出すとテリーが急かすようにさらに前を歩いた。


 テリーは目をキラキラさせてあたりを見ていた。アンヌヴンにはリンダの見たことがないものが多くあった。金属製のよくわからない装置が大半だった。ソムニウムにもそういう店がないわけではなかったがここまで用途がわからないものは初めて見た。


 あまりにもテリーがあっちにフラフラこっちにフラフラするので、リンダが彼のバッグをつかんだ。


「スティーヴンが見つかったらいくらでも見ればいいにゃ!」


 テリーは不満そうな顔をしていた。




「ここが『ティモシー・ハウエルの車輪』です」オリビアが言うと、店の奥から人影が現れた。リンダはその姿を見て「ひっ」と声を上げた。大きな機械を背負った、機械人形だった。


 テリーはオートマタをまじまじと見ていた。


 と、店から牛の頭をした男が出てきた。


「ティモシー、こんにちは」オリビアが彼を見上げて言った。

「ああ、オリビアか。今日も顔が見えないな」


 ティモシーはそう言って笑った。背が低いオリビアがつばの広いとんがり帽子をかぶっているものだから、背の高い彼からは本当に見えないのだろう。オリビアはティモシーの足を蹴った。


「うるさい」そんなキックなどどこ吹く風で、ティモシーは言った。

「そう言えばさっきお前を捜していた客がいたな」

「だれ?」オリビアは眉間に皺を寄せて言った。おそらくティモシーには見えていないだろうが。

「アンジェラってポニーテールの女だ。それともう一人細い男を連れていたな」


 それを聞いたドロシーが言った。


「アンジェラ! 教会に来た女もそんな名前でポニーテールだった!」

「その人たち今どこにいるの?」オリビアがティモシーに尋ねた。

「お前の働いてる店だ」

「私の? なんでだろ……?」オリビアは首を傾げた。

「とにかく急ぐにゃ。ありがとうにゃ」リンダはそう言うとオリビアの背を押した。


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