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# 13. 到着

 スティーヴンと守護者たちが王都にやってきて、魔術師の少女デイジーとの戦闘を繰り広げた日から一日後。


 マーガレットたち三人はテリーが持つ機械の示す方角に進み続け、ついに王都までやってきた。


「でっかいにゃ」リンダは壁を見上げて言った。

「まさかとは思っていたけど本当に王都に連れてこられたのね。懐かしいわ」ドロシーはリンダと同じく壁を見上げて呟いた。

「来たことがあるのかにゃ?」リンダはドロシーに尋ねた。

「来たことがあるもなにも、私はここの魔法学校を卒業しているもの」リンダは目をむいた。

「超優秀だにゃ」


 ドロシーは得意げに笑った。


「ここが、王都」マーガレットは呟いた。ブラムウェルの言葉が脳裏をよぎる。


 ――王都に行ってエレインという女を探せ。王立図書館で働いているはずだ。


 マーガレットは下唇を噛んだ。彼女はある記憶を思いだしていた。それは昨日見た夢。




 母と祖父がいた。彼らはマーガレットを見下ろしていた。

 いつのことか思い出せない。

 母がマーガレットの肩をつかんだ。

「いい、マーガレット。あなたは******なのだからしっかり訓練なさい」

 幼いマーガレットは笑顔で頷いた。母と祖父は満足げに笑っていた。




 マーガレットは目を強くつぶって、頭を振った。

 ――私は……

 このままではスティーヴンに合わせる顔がないと思った。




 ◇




 テリーが馬車を止める小屋を指さした。彼の持つ機械のダイヤルの数値はかなり小さくなっていた。

 リンダたちは馬車小屋に併設されている馬小屋に馬を預け、管理人に言って、馬車小屋に入っていった。


 テリーは機械を高く持ち上げて、それからあたりを見回した。


「######」


 彼は一台の馬車の元へ走って行った。

 マーガレットはその馬車を見て唖然とした。


「なんだこれは」


 その馬車はテリーのいう通り、改造されたものだった。見たことのない機械が組み込まれていてどう動くのか全くわからない。

 テリーが荷台に乗り込むと、管理人の男が怒鳴った。


「こら! 触っていいとはいっていないぞ!」


 テリーは管理人の言葉を無視して荷台を探り、探知機を手に持って出てきた。


「スティーヴンは!?」


 リンダが尋ねたが、テリーは首を横に振った。


「ここまでか……」マーガレットはうつむいた。


 リンダは管理人に尋ねた。


「この変な馬車の持ち主を知らないかにゃ? あたしの大切な人が誘拐されたのにゃ!」


 管理人は怒っていたがそれを聞くと、事情があると察したのだろう、思いだそうと頭をひねっていた。


「ああ、ポニーテールの女と白い服の男だったな。それに確かもう一人連れていたような気がする」

「そのもう一人がスティーヴンにゃ! その二人について何か知らないかにゃ?」リンダは管理人に尋ねた。

「いやあ、毎日たくさんの客がくるからなあ。ひとりひとり情報を持っているわけじゃない。ただ、その馬車を作ったところなら知ってるよ。俺、そう言う馬車大好きだからさ」

「どこにゃ!?」

「アンヌヴンっていう王都の地下にある街さ。その馬車はアンヌヴンの馬車工場で作られたものだ。前に一度見たことがあって、客に尋ねたことがあるんだ。間違いないよ。店の名前は『ティモシー・ハウエルの車輪』だったかな?」


 リンダはマーガレットたちを見て笑みを浮かべると、さらに管理人に尋ねた。


「アンヌヴンはどうやって行くにゃ?」


 管理人は頭を掻いた。


「それが、俺も知らないんだ。アンヌヴンへの行き方は一部の人間しか知らないんだよ。それに無法地帯で危ないから行くのはおすすめしない」

「そうかにゃ……。情報ありがとにゃ。馬をよろしく頼むにゃ」


 そう言ったリンダに続いてマーガレットたちは馬車小屋から出た。




 王都の門にむかいながらリンダはドロシーに尋ねた。


「アンヌヴンってどこにあるか知ってるかにゃ?」


 ドロシーは首を振った。


「いえ、知らないわ。名前は聞いたことがあるけれど……」

「んー……。どうしたらいいにゃ……」リンダはうんうんとうなっていた。


 彼女たちは門へと続く列に並んだ。一日にどのくらいの人が出入りするのかリンダには見当もつかなかった。いくらかのお金を払ってリンダたちは門をくぐった。


 リンダは人の多さに圧倒された。人数もさることながらその人種の多さにも驚いた。話している言葉もまちまちで、何を言っているのか全く分からない。


「すごいにゃ。人がいっぱいにゃ」リンダは呟いた。ドロシーが笑った。

「ここはまだ人が少ない方よ」


 リンダはそれを聞いてさらにぎょっとした。


「これからどうするの?」ドロシーに尋ねられたリンダは少し思案してから言った。

「ま……まずはギルドに向かうにゃ。宿を紹介してもらって、荷物をおいてから考えるにゃ」

「何も案がないのね?」ドロシーがつぶやいた。リンダは唇を突き出してうなった。




 ギルドは冒険者に宿を紹介している。それは冒険者という職業柄、根無し草である彼らにとって宿は必須だからである。ランクに応じて、宿泊費の優遇などを受けられるようになっている。


 ランクとはすなわちギルドへの貢献度で、それは人々ないし領への貢献度と直結している。領主は年ごとにギルドへいくらか予算を割くことでその貢献への対価としている。名目上は。


 よいギルドであれば、領主に割り振られた予算を冒険者に還元する。宿であったり、食事であったりその形は様々。悪いギルドであれば、まあ、言うまでもない。




「王都のギルドだからきっといろいろ優遇してくれるはずにゃ。あたしAランクだしにゃ」


 リンダはそう言って笑った。

 彼女たちは人に道を聞きながらギルドに向かっていた。

 リンダはマーガレットがいつになくそわそわしているのが気になった。


「マーガレット、どうかしたかにゃ?」リンダは彼女に尋ねた。


 マーガレットは「ぐっ」と言葉を詰まらせて、しばらく下唇を噛んでいたが、決心したように言った。


「私はここから別行動をとる」


「はあ!?」リンダは口をあんぐり開けた。「どういう意味にゃ!」

「スティーヴンが心配なのは私も同じだ。ただ……何というか……ああ……このままでは私はスティーヴンに会うことができない!」マーガレットは苦し気にそう言った。


 リンダはしばらく彼女を見ていたが、小さくため息をついてから言った。


「勝手に行けばいいにゃ。お前は一人で行動していたほうが性に合ってるにゃ」


 マーガレットは「うっ」と言ってうつむいた。


「何もそこまで言うことないじゃない」ドロシーが言ったが、リンダは半ば呆れたように小さく首を横に振って続けた。

「マーガレット。お前はまわりのことなんて全然見えてないのにゃ。スティーヴンが連れ去られたときだって、テリーを連れて行けばあの場で助けられたかもしれないのにゃ。それを、あたしの話も聞かず一人で突っ走って、結局捕まえられなかったのにゃ」


 マーガレットはショックを受けたようにはっとした後、言った。


「それは……すまなかった」

「テリーあの機械、貸してくれにゃ。スティーヴンを追うために使ったやつにゃ。発信機の方にゃ」リンダはテリーから発信機を受け取ると、そのままマーガレットに手渡した。

「持ってろにゃ。機械のほうはテリーしか見方がわからにゃいから、こっちからお前を探すにゃ」

「わかった」マーガレットは発信機を受け取るとカバンに入れた。

「#######」テリーがリンダに言った。

「ゴブリンの魔石くらいの大きさでいいから魔石を発信機に入れておけって言ってるにゃ」


 マーガレットは無言で頷いた。


「三日経っても捜しに来なかったら、あたしたちは死んだと考えていいにゃ」リンダはそう言うとマーガレットに背を向けて歩き出した。


 テリーとドロシーは躊躇して、マーガレットをちらちらとみていたが、しばらくしてリンダを追った。

 リンダは歩きながらマーガレットを振り返った。



 そのときにはすでに、彼女の姿はなかった。


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