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# 11. 魔法学校

 僕はアンジェラとともにとある店を訪れていた。そこはさびれた雑貨屋で中古品が所狭しと並んでいた。


「ここで買ったんですか?」僕が尋ねるとアンジェラは頷いた。

「そうです。けっこう掘り出し物があったりして、好きなんですよ、この店」




 アンジェラと話し合った結果、あのリボンの出所を探るのが一番〔魔術王の左脚〕に近いのではないかという結論に至った。

 それで、僕たちはアンジェラがリボンを買った店に来ていたのだった。




 アンジェラは店主に尋ねた。


「すみません。以前私がここで買ったリボンってどこから仕入れたんですか?」


 店主は恰幅のいいおっさんで、常連のアンジェラの顔を見るとにっこりと笑った。


「リボンって言うと、あの赤と白の?」

「そう! それです、それ!」おっさんはでっぷりと突き出た腹をなでながら小さく頷いた。

「仕入れてからすぐに売れたので憶えていますよ。あれは、オリビアがもってきたものですよ」

「オリビアっていうのは?」アンジェラが店主に近づいて尋ねた。店主は少し体をのけぞらせて言った。

「よく店に商品を売ってくれるハーフエルフの女の子ですよ」


 アンジェラは僕を見てにっこりと笑った。彼女はさらに店主に尋ねた。


「その子がどこにいるか知っていますか?」

「え? ああ、どうでしたかねえ」店主はしばらく考え込んでいたが、ふと思いだしたように言った。

「そうだ、あの子は魔法学校に通っていました。王都の中心近くにあるあの魔法学校ですよ」

「じゃあ、そこに行ってみます!」


 アンジェラは店を軽快に出て行った。僕が彼女の後を追おうとすると後ろから店主の呟く声が聞こえた。


「あれ、もう卒業したんだっけっか?」


 僕は、本当に大丈夫かなあと不安になった。




 ◇




「オリビア、ですか?」王都の魔法学校に来た僕たちは学校職員の働く部屋に来ていた。門番にここに来るように言われたのだ。


 部屋はギルドの受付カウンターに似た長い台で仕切られていて、僕たち客人は、台を挟んで職員と話をする形になっていた。


 僕たちの対応をしている職員は長い髭を生やした男性で、痩せていた。彼はカウンターの上に置いた生徒の記録を見る手を止めて顔をあげると困った顔をして頭をかいた。


「いやあ、オリビアという生徒はいっぱいいますからねえ」


 アンジェラは言った。


「ハーフエルフの女の子です。知りませんか?」


 髭の男性はさらに考え込んだ。


「ハーフエルフも魔法学校にはいっぱいいますからねえ」


 彼はそう言って苦笑いした。すでに生徒の記録が書かれた本を閉じて、完全にあきらめていた。探す気はないらしい。


「なんとか探せませんか?」アンジェラは懇願したが髭の男性は小さく首を振った。

「そこをなんとか!」彼女は男性に詰め寄った。ポニーテールが大きく揺れた。僕はアンジェラの肩に手を置いた。

「どうにもなりませんよ。それに卒業生かもしれませんし」

「そうなるとさらに難しくなりますね」髭の男性は小さくため息をついて、「さあ帰ってくれ」という顔をした。


 アンジェラは、ううう、とうなってカウンターにかじりつくように額をつけた。


 そのとき、後ろからローブをきた男性が現れた。彼は僕たちを見ると目を細めた。髭の職員に用事があるようだった。額がかなり後退している中年のその男は僕たちの後ろに立って、腕を組み、せわしなくつま先で地面を鳴らしている。


「アンジェラさん行きますよ」


 僕は彼女の腕を取ってカウンターから離した。するとすぐに、僕たちと入れ替わるようにローブの男性はカウンターに近づき、早口で髭の男に用事を伝えた。


「そこのローブの人、ハーフエルフのオリビアという女の子を知りませんか?」アンジェラはあろうことか、せっかちそうなそのローブの男性に話を聞こうとした。


 ローブの男性は早口でまくしたてるのをやめると、こちらを振り返りぎろりと僕たちを見た。


「いえ、なんでもないんです。すみません」僕はそう言って、アンジェラを連れて、部屋を出て行こうとした。



「待て」ローブの男性が低い声で言った。「ハーフエルフのオリビアがどうしたって?」


 アンジェラはにっこりと微笑むと彼に言った。


「その子があるものを盗んだんです。私たちは彼女を捜しています。何か知っていますか?」


 額が後退した男はその広い額を真っ赤にして僕たちに近づき、言った。


「知っているかだと? ああ、知っているとも。私もあの娘に多くのものを盗まれたからな!!」


 彼は口角泡を飛ばしてそう言った。僕は顔をしかめた。アンジェラは気にせず尋ねた。


「そ……そうでしたか。あの、彼女が今どこにいるか知っていますか?」


 中年の男性は鼻息荒く、肩を大きく動かしていて、今にも僕たちに飛び掛かってくるのではないかと思った。闘牛みたいだった。


 彼は大きく息を吐くといった。


「いや、知らない。知らないが見つけたら必ず捕まえてブラッドスパイダーの餌にすると決めている」


 相当恨んでいるようだ。そんなに大事なものを盗まれたのか。


「それはいいんですけど、彼女について詳しく教えてくれませんか?」


 それはいいんですけどって! 僕は唖然としてアンジェラを見た。

 ローブの男性は気にした様子もなく言った。


「来てくれ。私の研究室で話そう」僕はアンジェラを見た。彼女は満面の笑みを浮かべていた。


 僕は自分の額に手を当てて目をつぶった。

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