その後のギルド『グーニー』1
スティーヴンを解雇したギルド『グーニー』は順調に行くかと思われた。
新しいマップ係のポールは確かに貴族の4男坊で剣術に優れ『転写』スキルを持ち合わせていた。彼はダンジョンに入るなり、道具を使い、ダンジョン内の計測をしていった。
「完成しました」
そう言って持ってきたのは何と一週間後だった。しかもダンジョンの一室しか書けていない。すでに冒険者たちはその先へと行っていた。いくら貴族とはいえ、上司フレデリックは激怒した。
「なんだこのざまは! お前はあの無能より無能なのか!」
「そう言われましても初めてのことですし」
「あの無能は初めての仕事でも一日で終わらせていたぞ! この無能!」
ポールは顔がかっと熱くなるのを感じたが、言い返すことができなかった。もしも相手が平民の出であれば、あるいは、言い返せたかもしれない。しかし、フレデリックは自身より爵位が上の出。下手に文句を言うことはできなかった。
「もういい、別の人間を雇う。お前はマップの転写でもしていろ」
フレデリックはそう言うとスティーヴンが使っていた机を指さした。ポールは汚名を返上するチャンスだと、勢い込んで「はい」と返事をして机に向かった。
ダンジョンマップの原本は美しいくらい均一な線で作られていた。名を見るとスティーヴンと書かれている。きっとこのスティーヴンという高貴な方は相当仕事ができたのだろう、ポールはそう思った。自らがギルドの外に投げ飛ばし、あごを殴りつけたその本人がスティーヴンであることを、ポールは知らなかった。
彼はその原本を広げると机がいっぱいになってしまうことに気づいた。これでは『転写』ができない。ポールはフレデリックに尋ねた。
「すみません。机の大きさが足りないのですが」
「あ? 注文の多い奴だな。これ以上机はないんだよ。それで我慢しろ!」
豚鼻を鳴らしてフレデリックはそう言うと、スクロール係から手渡された紙を見て、ろくに見もせずに返した。
ポールはイライラしながら、机に戻ると原本を折り、半分ずつ『転写』しようとした。
しかし、できなかった。『転写』後、羊皮紙の上に現れた図形は原本とは似ても似つかない奇怪な形をしていた。どうして、スクロールならすぐにできるのに……。
ポールは知らなかった。それはフレデリックもギルドマスター、アレックも知らないことだった。
『転写』スキルとは見たものを転写するスキルではない。脳内にある情報を『転写』するスキルである。つまり画像としてものを正確に記憶できる人間でなければマップの『転写』はできない。スティーヴンができていたのはそのユニークスキル〈記録と読み取り〉があったためだ。
スクロールはその点、文字が書いてあれば発動するので、原本とは異なる書体でも構わなかった。そこに全く気付いていなかった無能、それがフレデリックでありギルドマスター、アレックであった。
ポールは何とかマップ一枚分を『転写』した。それは原本とは似ても似つかないものだった。しかし、面倒になったポールはそのままフレデリックに見せた。
フレデリックは『転写』スキルを過信していた。彼はろくに見もせずマップを受理し、銀貨3枚を差し出した。
「え、銀貨5枚のはずでは?」
「こんなに汚いマップに銀貨5枚も払えるか! さっさと仕事に戻れ。全部で10枚書くんだぞ。残り9枚だ」
ポールの苛立ちは募っていった。