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# 6. レンドール

 領主の城につくとまた、応接間に通された。領主が守護者たちに話をして、そのあと僕が事件について詳細に語った。


 白い服の男はレンドールという名前だった。彼は姿勢を正して、無表情で僕の話を聞いていた。アンジェラはニコニコとしながら僕の話を聞いていたが、エヴァのスキルを〈セーブアンドロード〉で奪ったという話をすると、少し、表情が陰った。


 僕はそれが気になった。


 話がすべて終わると、レンドールが言った。


「わかりました。封印は強化しておきましたので、月に一度魔石を入れるのを怠らなければ安全でしょう。私たちも、時々ですが、この街の様子を見に来ます」


 彼はそういって領主と握手をした。わずかばかりの笑みを浮かべて。




 レンドールは城を出ると僕に言った。


「あなたにはもう少しお話を聞きたい。街を出るまでの間ですが同行していただけませんか? 歩きながらお話を聞きたいのですが?」

「ええ、かまいませんよ」


 僕が言った時、アンジェラが少し慌てた様子で言った。


「あのお」

「なんですかアンジェラ?」


 レンドールは首を傾げた。その声には少しだけ威圧するような色が含まれていた。アンジェラは「うっ」と言って黙ってしまったが何か言いたげだった。


「では行きましょう」


 彼はまだ何か言おうとしているアンジェラを無視して歩き始めた。彼女はなんだか申し訳なさそうな顔をして僕をみていた。




 街を出るまでレンドールはいくつか僕に質問をした。それはなんだか中身のない質問に思えて僕はいぶかった。


 街の外に出ると彼は黙ってしばらく歩き続けた。


「あの……僕は仕事があるのでそろそろ……」

「ああ、そうですね」


 男は振り返って言った。街から少し離れた場所だった。下り坂になっていて、街の門からこちらは見えないようになっていた。


 レンドールはそれを確認するように街の方を見て、それから言った。


「うまく隠れていましたね」


「はい?」僕は何のことかわからずに尋ねた。

「驚きましたよ。まさか功労者として街に溶け込んでいるなんて。恐ろしい」


 レンドールは僕を睨むと、突然、ポケットから何かを取り出して僕の首に取り付けた。それは細い首輪で僕の首を捉えるとガチャリと鍵がかかった。


 急なことで全く反応できず、僕は慌てた。首輪はしっかりと僕の肌に張り付くようにして、首に巻かれていた。


「なんですかこれ!」

「あなたには魔術師の容疑がかかっています。というより、もうほとんど魔術師で確定ですね」レンドールはそう言うと不敵に笑みを浮かべた。


 僕は逃げようとして《テレポート》を使った。が、その魔法は発動しなかった。それどころか、『空間転写』すら発動しない。僕は目をむいて、それから首輪に触れた。


 これは……もしかして……。


 レンドールは僕に近づくと言った。


「それはドラゴンの素材でできた首輪です。得意のスキルも、魔法も使えませんよ」

「外してください! どうしてこんなことを!」


 僕は男から距離を取ろうとしたが、彼は僕の腕を強くつかんだ。


「簡単なことです。アンジェラはどんなスキルを持っているか見抜くことができるスキルを持っているのですよ。あなたは『記憶改ざん』を持っている。それは疑いようのない事実です」


 レンドールはさらに僕の腕を強くつかんだ。僕は痛みに顔をゆがめた。


「それは説明したでしょう! 僕はスキルを魔術師から奪ったんです!」レンドールはあざ笑った。


「あなたの話には矛盾点がある。百歩譲って、死ぬと過去に戻れるスキルをあなたが持っているとしましょう。しかしそれを踏まえてもあなたの話はおかしい。なぜ未来で得たスキルを過去でも使えるのですか? おかしくありませんか?」


「それは……」僕は黙り込んだ。僕にはそれを説明できない。わからないからだ。


 僕が言い返せないのをいいことにレンドールは言った。


「あなたが嘘をつき、街の人々の記憶を改ざんしてのうのうと暮らしていると考えたほうがつじつまが合うのですよ。そうではありませんか? あなたの言うエヴァとやらは本当は存在せず、実はあなたが誰かになり替わって街で暮らしているのではありませんか? 魔術師は退治したと嘘をついて」


「違います!」僕は言ったがその言葉は空虚だった。説得力を持たない空の言葉は、軽い音を立てて転がった。


 僕が領主の城で説明したことは事実だ。だがそれを事実だと知りえるのは僕しかいない。


 守護者たちの立場に立てばわかる。彼らが確信を持って事実だと言えるのは、僕が『記憶改ざん』スキルを持っているということだけ。そして、その事実は僕を黒く見せるのに十分だ。


 エヴァの生活は嘘で塗り固められていた。嘘でできた居城にいるのは彼女じゃなくてもいい。その役は僕でもできる。


 僕が何を言おうと誰に守られようと、「僕が魔術師ではない」と証明することは不可能だった。




 それを知った僕は、茫然とした。




 レンドールはバッグから紐を取り出すと僕を後ろ手で縛った。僕はされるがままになっていた。


 誰にも助けを求められない、ということがショックだったんじゃない。


 ただ、僕が街から少しでも疑われたら最後、僕は僕を証明する手段がないという事実に愕然とした。僕の生活はあまりにも脆弱だった。


 何が「僕がいないとだめなんだ」だ。疑いの種が芽吹いたら、街を恐怖させ、疑心暗鬼に陥らせるのは僕自身だ。


 僕はレンドールに猿ぐつわをはめられた。アンジェラがおろおろとしているのが目の端に見える。赤と白のリボンがゆれる。


「行きましょう」


 レンドールが僕の背を押した。僕は従って歩き始めた。




 ◇




 車に向かう途中、アンジェラが言った。


「何も魔術師だと決めつける必要はないんじゃないですか? 彼の話もスキルとのつじつまがあっていますし」


 レンドールは立ち止まるとスティーヴンから手を離しアンジェラに詰め寄った。


「いいですか、この男は『記憶改ざん』を持っているのですよ。あなたがそう言ったのです。危険な存在は消しておくべきです」


 アンジェラは黙った。彼女は自分が言ったことが発端になっていると自覚していた。それだけにそれ以上何も言うことができなかった。


 レンドールは続けた。


「この男は尋問して洗いざらい吐かせます」


 アンジェラははっとしてレンドールを見たが、彼は目をそらしてスティーヴンの腕をつかみ歩き出した。


「もしも魔術師ではなかったら? 〔魔術王の右腕〕を魔術師から守った功労者を痛めつけるのですか?」


 レンドールは振り返った。


「多くを救うためです。多少の犠牲はつきものですよ」


 彼はそう冷たく言い放った。




 ◇





 馬車を改造したアンジェラの車を、テリーが興味深そうに見ている。彼は背負っていた大きなバッグを置いて、狐耳をピコピコと動かして尻尾を振る。車の下に潜り込んで構造を調べては感嘆の声をあげている。


 テリーは車の下からはい出てくると運転席に近づいた。


「触らないでください!」


 その声にびくっとして、テリーは振り返った。赤と白のリボンでポニーテールにした女が立っていた。彼女の後ろから白い服をきた男が一人の男を連行して歩いてくる。それは猿ぐつわをされたスティーヴンだった。


 テリーはぎょっとしてバッグから手をはなした。


 白い服の男は馬車を改造した車の荷台までスティーヴンを歩かせると、背中を押し、無理やり乗せた。


「見世物じゃないですよ」


 神経質そうな白い服の男はそう言って助手席に乗り込んだ。運転席にはすでに赤と白のリボンの女が乗っている。テリーはバッグを引きずりながら荷台の後ろに移動した。荷台に乗せられたスティーヴンはうなだれている。


 彼の首には真っ黒なリングがつけられている。彼はぼうっと宙を見ている。


 そうこうしているうちに車が動き出した。


 テリーは、はっとして、急いでバッグから魔石で動く機械を取り出すと、荷台に投げ入れた。車はスピードを上げ、走り去る。あとには砂埃が残った。


 テリーはまたバッグから機械を取り出す。その機械には方位磁石のようなものがついていて車が走り去ったほうを指している。ダイヤルがぐるぐると回って数値を示す。車が離れていくと数値は徐々に上がっていく。


 彼はバッグを背負うと、機械を両手に持って、ギルドへと走り出した。

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