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# 5. スキル鑑定

 数日後。


 ドロシーが教会で日課の礼拝と、子供たちへの教育をしていると、ある男性が建物に入ってきた。髪を撫でつけ真っ白な服を着ていて、見るからに神経質そうだった。腰には細い剣をぶら下げていた。


 彼は子供たちを見ると目を細めた。教会の中を見回してから、仕方ないというように首を振って、子供たちのほうへと歩いてきた。


「そこをどいてください」彼は威圧的に子供たちにそう言った。

「ちょっと!」ドロシーは注意して、男に近づいた。


 子供たちはドロシーの後ろに隠れた。


「何か?」白い服の男は持っていたバッグから何かを取り出しながら言った。

「何かじゃないわよ。子供たちに何するつもり?」

「何もしません」


 彼はそう言うとバッグから取り出した機械を地面に取り付けた。男はその場にひざまずいて何かをつぶやき始めた。祈っているようにも呪文を唱えているようにも聞こえた。


 ドロシーは他のシスターに子供たちを教会の外に連れ出すよう指示した。子供たちは心配そうな顔をしていたが、すぐに街のあそび場の方へかけていった。


 ドロシーは教会の中に戻った。白い服の男はまだひざまずいて何かをつぶやいていた。


 ドロシーははっとして尋ねた。


「あなた、もしかして魔術師?」


 その言葉を聞くと男はびくっと体を動かして、立ち上がり、ドロシーを睨んだ。


「私が、魔術師だと言いましたか?」


 男は両手を握りしめて震えていた。顔を真っ赤にして、怒りを何とか抑えているようだった。彼はドロシーに背を向けるとひざまずいて、また何かをつぶやき始めた。


 ドロシーは恐ろしくなって、教会を飛び出すとギルドへと走っていった。


 ◇


「スティーヴン! スティーヴンを呼んで!」


 いつものようにマップを写していると部屋の外からドロシーの声が聞こえた。僕は道具を置いて、駆け足で部屋を出た。ドロシーは僕の姿を認めるとすぐに駆け寄ってきて、僕の両肩をつかんだ。僕は尋ねた。


「どうしたの?」

「なんか、なんか教会に変な人が来て、変な装置を置いてずっと何かつぶやいてるの! もしかしたら、ま、魔術師かもしれない!」


 僕は目を見開いて、ドロシーの手をつかみ、彼女とともに教会のそばに転移した。




 教会の扉は開け放たれていた。ドロシーは僕に隠れるようにして後ろから教会の中をのぞいた。


「ほらあそこ。白い服を着た男の人がいるでしょ? まだやってる。怖いのよ」


 確かに彼女の言う通りで、男の人がひざまずいて何かつぶやいている。僕は恐る恐る教会に入って、男に近づいた。


 そのとき、彼は最後の一説を言い終えたようで、すっと立ち上がり、服を叩いて汚れを払うと僕たちを振り返った。


「そこの女、私のことを魔術師と言いましたね?」彼は目を細めてそう言った。


 ドロシーはびくっとして、僕に体をほとんど隠すようにして言った。


「だって、怪しいんだもの。いきなりやってきて、子供たち追い払って急におかしなこと始めるから」


 白い服の男は肩についた自分の髪を手で払うと言った。


「これは封印です。月に一度、この機械に魔石を入れてください。ブラッドタイガーから取れる魔石かそれと同量の魔石であれば十分です。それで封印は保たれます」


 僕ははっとして尋ねた。


「〔魔術王の右腕〕の封印ですか?」


 その言葉に男は反応した。


「詳しいですね。そうです。あの事件の関係者ですか?」

 彼は僕を睨むとポケットから何かを取り出した。




 そのとき、教会に女性が入ってきた。


「いやあすみません! 遅くなりました! お店にいいものがいろいろありまして……」


 その女性はポニーテールを赤と白のリボンで結んでいた。彼女は僕たちの姿を見ると、笑みを浮かべたまま固まった。ドロシーは「ひっ」と声を出して、謎の二人から距離をとる位置に移動した。


「遅いですよ、アンジェラ。もう終わりました」白い服の男は取り出した何かをポケットにしまった。

「あれ! そうでしたか、すみません。……お話し中でしたか?」

「いえ、問題ありません」


 白い服の男はそう言うと、僕とドロシーのそばを通って、アンジェラと呼ばれた女性のそばに歩いていった。ドロシーは僕を盾のようにして移動した。


「そうですかあ」


 アンジェラがそう言って、二人は教会を出て行こうとする。

 僕は尋ねた。


「あなたたちは、守護者ですか?」


 アンジェラが振り返って言った。


「そうですよ」彼女はにこにこと笑っている。白い服の男はため息をついた。

「『他人に守護者だと伝えない』と注意したじゃないですか」


 男にそう言われて、アンジェラは頭を掻いた。


「領主様にお話があるのでは?」二人は僕を見た。男が言った。

「そうですが、どうしてそれを?」

「事件について詳しく話してほしいと領主様にお願いされました。僕はあの事件に深く関わっていたので」


 僕はまたエヴァの姿を思い出した。ドロシーが僕の背中をさする。


「では一緒に来てください。お話をお聞かせください」白い服の男が言った。


 僕が彼らについていこうとすると、ドロシーが僕の服の裾を引っ張った。


「大丈夫?」彼女は不安そうだった。

「大丈夫だよ」僕はドロシーの手を取って小さく握ってから離した。

 僕は守護者二人を領主の城に案内した。




 ◇




 アンジェラは先を歩くスティーヴンの姿をじっと見ていた。彼女はあるスキルを持っていた。そのスキルのおかげで今まで失敗しても許されてきたところがある。


 彼女の持つスキルは『スキル鑑定』、すなわち、見たもののスキルを知ることができるというスキルだった。これは魔術師相手に強力な武器になった。いくら身を隠していようとも『記憶改ざん』スキルを持っていれば、その人物は魔術師である可能性が高いからだった



 アンジェラはスティーヴンのスキルを鑑定した。


『記録と読み取り(セーブアンドロード)』


『空間転写』


 そして


『記憶改ざん』


 アンジェラは隣を歩く白い服の上司にこっそりと鑑定結果を伝えた。白い服を着た男はまた目を細くして、スティーヴンを睨んだ。


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