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戦闘の終わり2

 数日後、領主夫妻の二度目の結婚式が行われた。エヴァに切られ、裂けた服で出席はできなかったので断ろうとしたが、一番の客だということで服を用意された。


「ずいぶん高価な服を着てるわね」


 シスター姿のドロシーが半分笑ってそう言った。


「うるさいよ、ドロシー」


 首元が窮屈で、何度も襟を引っ張ってしまう。こんな服など着たことがなかったから、領主の城にいる執事にほとんど任せっきりで着替える始末だった。


 領主夫妻の結婚式は盛大に行われた。城はまだ破壊されたままだったために、外での行事となった。


 近くの領主や貴族たちが参列する中、冒険者たちの姿も見えた。このような場に冒険者が何人もいるというのは奇妙な光景だったが、領主の希望だ、仕方ない。


「スティーヴン、見たことない料理があるにゃ!」


 リンダたちはわいわい騒ぎながら食事をしていた。貴族たちはその姿を呆れた表情で見ていたが、領主夫妻が幸せそうな顔をしているのでそのあとは気にしなかった。


「あの……」


 エレノアがスティーヴンたちに近付いてきた。彼女はもじもじと両の手を絡めている。スティーヴンの顔を見ると顔を真っ赤にして俯いてしまう。


「あの……お母さんを助けてくれて、街を救ってくれてありがとうございます」


静かにそう言う彼女にあの面影はない。本当に記憶を書き換えられていたのだなと思う。


「ぼくは街を守るために必死だっただけですよ。ぼくにとって大切なこの場所を守りたかったんです」


スティーヴンがそう言うと、エレノアは小さくうなずいた。


「私にとっても大切な場所です」


 そう言って彼女は黙ってしまった。俯いたままさらに顔を真っ赤にして、耳までその色は浸食していた。

 彼女は言った。


「あの、あんなことしてすいませんでした」

「あんなことって」

「ベッドで……」

「ああ……」


 今度はスティーヴンが顔を赤くする番だった。

 沈黙。

 ドロシーが目を細めてこちらを見ている。

 気まずい。


「あの、本当にすいませんでした!」


 彼女は沈黙に耐えられなかったのか、そう言うとすたすたと歩いて行ってしまった。


「なにしたのスティーヴン? ベッド? いやらしい」

「人のこと言えないだろ、ドロシー」


 そう言うと、ドロシーは目をひん剥いた。


「私は何もしてないわよ!」

「ああ、そうだ。この世界線ではまだなにもされていないんだった」


 スティーヴンは口をつぐんだ。

 ドロシーは口をあけて呆然とした。


「え、なに? もしかしてあなたが言ってた他の未来では私何かしたの?」


 スティーヴンは黙っていた。


「答えなさいよ!」

「絶対答えない!」


 ぎゃあぎゃあと騒いでいるところに領主夫妻がやってきた。


「仲がいいね二人とも」


 領主の言葉にスティーヴンたちは顔を赤くした。

ドロシーが言った。


「ご結婚おめでとうございます」

「ああ、ありがとう。君たちのおかげだよ。特に、スティーヴン。君には感謝してもしきれない。妻を救ってくれてありがとう」


 二人は頭を深々と下げた。

 

「いえ、そんな。頭をあげてください」


 二人は頭をあげると微笑んだ。


「お礼に何かをしたいのだが、どうだろう、できることならなんでもしよう。……なんだか初めて会ったときみたいだね」


 そう言うと領主は笑った。

 スティーヴンはしばらく思案した後、言った。


「そうですね。ではお願いがあるのですが……」



 領主夫妻の結婚式から一か月がたった。スティーヴンは領主にお願いしていたその建物を見に来た。

 建物からドロシーが出てきた。


「スティーヴン、いらっしゃい」

「うん」


 スティーヴンは建物を見上げた。

 教会だった。村にあったものより立派だ。中に入るとベッドではなく長椅子が並んでいた。


「部屋が多いから、ここは礼拝堂としてちゃんとつかえるのよ」


 ドロシーはそう言って振り返った。

 スティーヴンは尋ねる。


「地下室はあるの?」

「ええ、もちろん。日記はちゃんとつけているわ。あなたの活躍も書いたつもり」


 彼女は笑った。

教会の奥へすすみ、地下に降りる。蛍光石のランプがぶら下がっていて、壁の棚に大量に置いてある羊皮紙を照らしている。部屋の中央にはベッドが置いてあって、ああ、そのままだとスティーヴンは思った。


 ドロシーは壁に体を預けた姿勢で尋ねた。

 

「ねえ、本当に領主様へのお願いは教会の再建でよかったの?」

「うん。教会だってもとはこの街の一部だから。全部元通りにしたかったんだ」

「そう。うん、そうね。ここもエヴァの被害に遭った場所だったわね」


 スティーヴンは頷いた。


「結局〔魔術王の右腕〕がどこにあるのかはわからず仕舞いだ。他の魔術師が同じように探しに来るかもしれない」


 ドロシーは思案顔をして、それから言った。


「今は今の平和を過ごせばいいわ。次魔術師が来るのは千年後かもしれないし」


 スティーヴン小さく何度か頷いた。


「そうだね」


 彼らは教会の外に出た。街は人であふれていた。


「これから先はシスターとして生きていくの? スキルショップはどうするの?」

「あれはお金がなくてやっていた商売だから。いまはちゃんと教会にお金が入ってくるから大丈夫。シスターとして生きていくわ」

「そっか。よかった」

「ええ。あなたのおかげ」


 ドロシーは笑って言った。



 とある場所。暗くじめついた地下室に数人の魔術師が集っていた。彼らは皆ローブ姿で、仮面をかぶっていた。のっぺりとした仮面で、デザインはほとんどされていない。唯一、頬の部分にどこかの家の紋章が彫られていた。

 ひとりの男が魔術師たちの前に跪き、言った。


「エヴァは〔魔術王の右腕〕を手に入れることに失敗したようです」


 魔術師たちはざわついた。こうなることは誰も予期していなかった。

 最も年老いた男が一歩前に出た。彼が動くと皆が静まり返った。老人は長としてその場に君臨していた。

 彼は口を開いた。


「強力な魔術師があの街にいたとでも?」


 跪いている男はピクリとも身体を動かさず言った。


「いえ、Sランク冒険者はいましたが、彼女は魔術師ではなくただの剣士です」

「ではなぜ?」

「わかりません」


 老人はふむ、と仮面の下にあるあごをさすった。真っ白な長いひげがざらざらと鳴った。


「調べる必要がありそうだが、今は手が足りん。王都でのことが先だ」


 老人はそう言うと立ち並ぶ魔術師の一人に声をかけた。


「王都の状況はどうなっている?」

「順調です。王女は(じき)に死に至るでしょう」

「くれぐれも目立たぬように」

「承知の上です」


 深々と頭を下げて、その魔術師は下がった。


 老人は言った。


「我々は1000年耐え忍んできた。幾多の苦難があった。いまそれを晴らす時だ」

 

 魔術師たちは頷く。


「魔術王様の復活のために!」

 

「復活のために!!」


 彼らは〈テレポート〉した。


 後には誰も残らなかった。


次の話で第一章完結です。今日中に上げます。

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