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決戦2

 時間はさかのぼって前日。

 ドロシーの記憶をもとに戻した直後。


 彼女はふらふらとギルドを出て行こうとした。


「明日このギルドに来てほしい。必ず」


 スティーヴンはドロシーの後ろ姿に声をかけた。

 ドロシーは振り返らず出て行った。


 スティーヴンはラルフに言った。


「クエストを発注します。報酬は〈エリクサー〉です。何人でも構いません。できるだけ多く」

「何をするつもりだ?」

「明日、この街を破壊しようとしている張本人を倒します。彼女は魔族を飼っています」


 街を破壊されたとき、何度死を繰り返しても、あの〈アンチマジック〉を持つ魔物が現れた。どこにいてもどう工夫しても奴は現れ、スティーヴンの邪魔をした。

 人為的だった。

 それに、スティーヴンは記憶を消されている間、見せられていた。エヴァのコレクション――魔族たちを。

 総合的に考えれば誰でも気づく。エヴァが魔族を飼っていること。そして、街を破壊するために街のどこかにそれをどこかに隠していること。


「向かう場所は領主の城です。できるだけ多く人数を集めてくれると助かります」

 場所を聞いてラルフは面食らったようだが、何も聞かず、彼は頷いた。

「わかった。だが一つ確認したい。本当に街は破壊されるのか?」

「ええ、理由は……」


 スティーヴンはダンジョンが成長していること、それが魔術師による人為的であることを説明した。明日、マーガレットが話すはずのことをすべて話した。

 そのあと、ラルフの額に手を置いた。

「何をする?」

「記憶を戻します」


 スティーヴンはラルフの記憶を戻し、領主の妻が魔術師であることを説明した。


「クエストを発注しよう」


 彼は驚きの表情を顔に張り付けたまま言った。


「魔術師を殺せば街の皆の記憶が戻ります。魔術師は僕が殺します」


 エヴァを殺せば記憶が戻る。それは未来のドロシーで証明された。騎士たちも元に戻るだろう。

 彼らを救うにはこの方法しかない。

 スティーヴンはラルフに言った。


「クエスト、よろしくお願いします」

 ◇


 その夜、酒場でエレノアに言った。


「明日、ギルドと魔術師の戦闘が街であります」


 ◇


 魔族と冒険者たちとの戦闘が始まった。


 スティーヴンは〈アンチマジック〉を使う魔族を指さしてマーガレットに言った。


「あの魔族を最初に殺してください。あいつは〈アンチマジック〉を使えます。最初に殺さないと、ぼくの魔法が消されてしまう」

「分かった!」


 マーガレットは駆けていく。指をしゃぶっている魔族はマーガレットを見ると、口から手を放した。

 目がぎょろりと大きくなる。


『**アクティベイト』

『**アクティベイト』

『**アクティベイト』

『**アクティベイト』

『**アクティベイト』


 地面に光の円ができる。


 スティーヴンは五枚の〈アンチマジック〉を『空間転写』して、奴の魔法を消した。

 奴は首を傾げた。


 マーガレットが剣を構える。


 スティーヴンは別の魔族を見た。

『**アクティベイト』

『**アクティベイト』

『**アクティベイト』

『**アクティベイト』


 奴らは同時に魔法を使う。スティーヴンは体をひねるようにして周囲を見る。

 〈対象の選択〉。

 スクロールの発動。

 魔族の魔法が消える。


「魔法はぼくが消します! 魔族の素早さにだけ注意して戦ってください!」


 マーガレットが〈アンチマジック〉の魔族に接近する。

 奴は身体強化魔法を使った。

 腕に光の円ができる。


 スティーヴンはそれを消す。


 マーガレットの斬撃が魔族の腕を切り落とす。

 魔族は悲鳴を上げた。

 あろうことか、奴は逃げ出した。もともと弱い種族なのか、逃げ足がはやい。


「待て!」


 マーガレットが魔族を追う。


 スティーヴンは彼女から目をそらす。他の魔族を見る。

 体を回転させて周囲を探す。魔法の出現ポイントを見極める。

 ケガをした冒険者たちを見る。


 〈アンチマジック〉と〈エリクサー〉を大量展開する。


 冒険者たちは魔族の速度に悪戦苦闘している。奴らの速度は身体強化魔法のそれではなく、筋肉によって生み出されている。

 スティーヴンは奴らに氷か雷撃系の魔法をかけようとしたが、冒険者たちが巻き込まれそうで使うことができない。


「スティーヴン!」


 リンダの声が聞こえた。


 そちらを見ようとした瞬間、赤髪の男が視界に入った。

 奴はドラゴンの刃を構えている。

 スティーヴンは体をひねったが、脇腹を切り裂かれた。


 血が飛び散る。


「スティーヴン。お前を殺さなきゃならねえ。それが雇い主の願いだからな」


 スティーヴンは脇腹を抑えてうずくまる。

 赤髪の男は短剣を構えた。


「やめろおおおおお!!!」


 マーガレットが、頭上から飛んできた。彼女は赤髪の男の攻撃を剣で受けた。


 頭上から魔族の死体が降ってきた。〈アンチマジック〉の魔族だった。


「お前か! 厄介なんだよ」


 マーガレットと赤髪の男が剣を交える。


 スティーヴンは脇腹に〈エリクサー〉を使う。痛みが一瞬で引く。

 彼は立ち上がると、急いで戦況を見た。魔族の数は2体にまで減っている。


 マーガレットと赤髪の男は飛び上がり、壁を駆ける。彼女たちは魔族にちかいのではないかとスティーヴンは思う。速度は互いに一歩も引かない。いつの間にか、赤髪の男は長剣に持ち替えていた。斬撃も互角だった。


 最後の魔族が、リンダの手によって倒された。

 冒険者たちは勝鬨をあげた。が、マーガレットはまだ戦っている。天井を蹴り、メインホールを縦横無尽に駆けている。


「エヴァは?」


 ドロシーが叫んだ。スティーヴンは周囲を見た。


「いない。逃げたな」

「どうするんだ、スティーヴン」


 ラルフが近づいてきて言った。


「どこにいるのかは見当がついています。そこに転移します」


 そのとき、城から騎士が何人か出てきた。スティーヴンは顔をしかめた。


「逃げて下さい。エヴァを倒して騎士たちの記憶を戻します」

「わかった。気を付けろよ」

「ありがとうございます」


 ラルフは冒険者を連れて、城から出た。

「ドロシー。君もついていくんだ」


 彼女は頷いたが、しばらくスティーヴンを見つめていた。


「なに?」

「記憶を取り戻してくれてありがとう」


 彼女はそう言うとリンダたちを追った。


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