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襲撃の後

 襲撃は防げたが手掛かりを得ることはできなかった。


 ドロシーとスティーヴンは教会の地下でうなだれていた。


 スティーヴンは顔をあげた。

「あの武器は何? 魔法を撃ち消せる武器があるなんて聞いてない」

「ドラゴンの刃。絶滅したドラゴンの身体はスキルも魔法も打ち消す効果があったの。それは死体も変わらない。ドラゴンの素材は貴重で国宝にもなってる。まさか持っている騎士がいるなんて私も思わなかった」


 ドロシーは額に手を当てた。

 スティーヴンの脳裏には死んだ騎士たちの姿がよぎっていた。

 人を殺した。

 その事実が彼を責めた。


「どうしたの?」


 その様子に気づいたドロシーが彼の肩に手を置いて尋ねた。


「人を殺してしまった。罪もない人を……」

「それは仕方がないことじゃない」

「わかってる。わかっているけど」


 彼女はスティーヴンの肩を撫でた。


「スティーヴン。あなたは戦ってくれた。そうじゃなきゃ子供たちも守れなかった。あなたは子供たちを救ってくれた。私は感謝してる」


 スティーヴンはため息をついて頷いた。彼はドロシーの手を取った。


「ありがとう。思えば、ぼくはもう何人も殺してしまっている。救えるはずの命を救えないでいる」

「そんなことない」

「いや、あるんだ。このままだと街の人たちがまた死んでしまう。だから……」


 スティーヴンはベッドの下から何本かスクロールを取り出した。


「何それ?」

「魔法壁のスクロール。渡しておく」

「あなたがいれば、こんなのいらないでしょ?」


 スティーヴンは悲し気に微笑んだ。

 ドロシーはそれを見て、眉間にしわを寄せた。


「なにするつもり?」

「村のそばにあるダンジョンに向かう。あそこで待ち伏せていれば魔術師はやってくる」

「私も行くわ」

「だめだ。ドロシーは村の人を守ってほしい。このスクロールで」

「どうして一人でやろうとするの!」


 ドロシーは首を振ってそう言った。

 スティーヴンはスクロールを見下ろして言った。


「ぼくは街の人たちを守りたいんだ。村の人たちも守りたい。ドロシー、君のことも」

「なんで私のことまで守ろうとするの? 私はあなたのことを幽閉しようとした。スクロールを書かせようとした。現に前のループでは書かせていたんでしょ? どうしてそんな人間を守ろうとするの?」


 スティーヴンは微笑んだ。


「ドロシー、君、ものすごい苦悩を抱えながら生きてきたでしょ?」

「え?」

「街にいる魔術師を警戒しながら、この教会にいる孤児たちを守ろうとしてきた。けが人や病人を救おうとしてきた。そして魔術師について調べて、街を守ろうとしてきた。知ってるんだ、ぼく。ドロシーが弱くて誰かにすがりたい気持ちでいっぱいだってこと」


 最初のループでスティーヴンが幽閉されたとき、ドロシーは彼を抱きしめて泣いていた。情緒が不安定だった。多分、それは、行き場のない苦しみを吐き出す相手として自分を選んだからだとスティーヴンは思っていた。彼女は泣き、吐き出すことで、自分を保っていた。


「ドロシー。君は一人じゃない。ぼくがいるから」


 彼女は顔を背け、スティーヴンの肩に手を伸ばした。まるでそこにいるのを確認するように何度も触り、泣き出した。


 ドロシーは涙で濡らした目をスティーヴンに向けた。


「でも、でもいなくなろうとしてる!」

「未来のことはわからない。僕はまだこの選択をしていない。でも必ず最後には救ってみせる。何度だってやり直してみせるよ」


 ドロシーはスティーヴンに近付き、抱きしめた。彼も彼女の背に腕を回した。


「絶対戻ってきて。死なないで」

「君も死なないで、村の人たちを守ってほしい」


 彼女は頷いた。


 ◇


 ある建物の地下に赤髪の男は現れた。ローブの人物が立っていて彼の到着を待っていた。

 ローブのは言った。


「遅かったですね? スクロールはどうしたのですか?」

「やられたよ。〈アンチマジック〉で魔法を消去された。そんな情報なかったぞ」


 ローブの女性は微笑んだ。


「それは本当ですか? 無詠唱で〈エリクサー〉だけではなく〈アンチマジック〉も使えると?」

「ああ、それに魔法壁も氷属性最強の魔法も使えていた。騎士たちは皆死んだよ」


 赤髪の男はそう言って槍の先端を見た。これがなければ死んでいただろうと思った。

 ローブの女性は何度か頷いて、言った。


「殺すのが惜しくなってきました。どうしましょうか」


 彼女はうろうろとしばらく歩くと立ち止まった。


「彼に記憶されてしまうことが問題だったのです。あれは日記より強力な邪魔者ですね」


 さらに思案すると、彼女は微笑んだ。


「ではいっそ記憶を消しましょう。記憶することができることそれ自体を忘れてしまえばいいのです!」


 そう言ってローブの女性は地下室を進んで言った。

 赤髪の男は彼女についていく。


 薄暗い地下室の廊下には松明たいまつがかかっている。その光にぼんやりと映るのは地下牢。それも特殊な地下牢だ。


 ローブの女性は牢の一つに近付いた。

 途端、耳障りな叫び声とともに、魔族が鉄の扉にぶつかってきた。


「私のコレクションにしてあげますよ。スティーヴン」


 その笑みを見て、赤髪の男は目を細めた。

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