解雇
その日、ギルドは大騒ぎだった。どうやら新しいダンジョンが発見されたらしい。ダンジョンは資金の宝庫だ。新しい魔物、新しい鉱石、新しい素材が待っている。
スティーヴンは新しいダンジョンが見つかるたびにそこに連れていかれ、マップの作製までやらされていた。初めて作成したのは3年目のことだった。マップ作製のために必要な道具を渡され、魔物が現れる危険な道を歩かされた。作成したマップの原本はいつもの10倍の値段で買ってもらえた。それが何度かあった。
今日は稼ぎ時だ。スティーヴンは浮足立ってギルド・写本係のドアを開けた。
そこには見慣れぬ男が立っていた。ずんぐりとした巨漢で、筋肉質な腕が見えていた。
「ああ来たのか、無能」
フレデリックはそう言うとスティーヴンの前に立った。
「紹介しよう。新しいマップ係のポール君だ。立派な貴族の出で、マップ係を志願するという実に素晴らしい人格の持ち主だよ」
フレデリックはにやにやと笑いながらそう言った。他の貴族たちも嘲笑っている。
「彼は剣の腕も優秀でね、ダンジョンには一人で入れるそうだ。マップの作製も冒険者を連れていかなくても彼一人で行えるそうだよ。どこかの無能とは大違いだね」
室内は笑いで満たされた。スティーヴンは背筋が凍るのを感じていた。
新しいマップ係?
じゃあ、
「じゃあ、ぼくは、ぼくはどうなるんですか?」
「わかるだろう。無能な君はクビだよ。ああ、餞別だ、借金は全部チャラにしてやろう。魔法契約は完了した」
彼は5年前に書いた羊皮紙を出すとサインをした。羊皮紙はボロボロになって消えた。
「じゃあ、出て行くんだ。無能」
「ちょっと待ってください。そんなのあんまりだ!」
スティーヴンは叫んだが、新しいマップ係、ポールが彼を担ぎ上げた。笑い声がさらに大きくなった。担がれ、運ばれている間、恥辱より絶望が大きく、スティーヴンは暴れた。冒険者たちはその姿を見て大笑いしていた。
ギルドの外までつれだされ、道端に投げ捨てられた。細い腕を石造りの地面にぶつけ血が出た。ポールはその長身でスティーヴンを見下ろすと嘲笑し、ギルドの扉を閉めた。
使うだけ使われ、訓練をさせてもらう時間も奪われ、ただ、用がなくなったからと捨てられた。スティーヴンは腕をおさえて立ち上がると、ギルドの中に入っていった。
ポールが振り返った。
「まだ足りないか、骨と皮だけの平民風情が」
ポールはそう言うと、こぶしを握り締めた。
「ギルドマスターと話をさせろ!」
「彼も君を解雇することに賛成していたよ。ああ、大いに賛成していたさ。いつまでもマップしか書けないお荷物を雇うのも面倒だと言っていたな」
スティーヴンはさらに絶望の底に落ちていった。
「さあ、早く出て行け」
その言葉は耳に届かなかった。
スティーヴンはその場に立ち尽くした。
ポールは無視されたと感じたのだろう、怒り、そのこぶしでスティーヴンのあごを殴った。
スティーヴンの意識は真っ暗な闇の中に放り出された。