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修行

 目を覚ます。


 窓から光が差し込んでいる。

 スティーヴンは体を起こすと、ベッドのそばでエレノアが眠っているのを見つけた。彼女は小さな寝息を立てている。こうしてみるとやはり彼女は美人だ。多くの男性を射止めることができるだろう。


 あんなふうに迫ってこられると閉口してしまうが。


 周囲を見回すと宿ではないことがわかる。調度品が高価そうなものばかりだ。


「エレノアさん?」


 スティーヴンは彼女を起こす。

 エレノアは目を覚ますと安堵のため息をついて彼に抱き付いた。彼女のにおいがする。


「ああ、よかった。もう二度と起きないんじゃないかって心配してたのよ。二日も眠っているんだもの」

「二日!?」


 スティーヴンは驚いて尋ねた。


「そうよ。あなたはあのマーガレットっていう新しく来た冒険者に連れられて私の家に来たの。もうぐったりしてて、顔も真っ青で、びっくりしちゃったわ。でも起きてくれてよかった」


 彼女はぎゅっとスティーヴンを抱きしめる。

 スティーヴンは彼女の背を撫でる。


「すみませんでした。ご心配おかけして」


 彼女は離れると、微笑んだ。


 その日はエレノアの家、すなわち領主の家に泊めてもらい、休養した。


 ◇


 翌日、エレノアも領主もずっといていいと言ってくれたが、スティーヴンは礼を言ってギルドへ向かった。ギルドにつくとマーガレットがすぐに近づいてきた。

 いきなり頭を下げる。


「すまなかった! 私の軽率な行動のせいだ! つくづく思い知らされた。今までずっとひとりでダンジョンに潜っていたようなものだったから、つい皆のことを忘れて行動してしまった。深く反省している」

 マーガレットの後方にいるリンダが肯いている。ギルドマスターも。おそらくこってり絞られたのだろう。


「いえ、あの、これからぼくたちに配慮していただければそれで構いません。それに……」

 マーガレットは顔を上げた。

「なんだ?」

「それに、あの戦闘でぼくも戦えるようにならなければと実感しました」


 魔族のあの詠唱。おそらく対抗できるのは無詠唱の自分だけだろうとスティーヴンは感じていた。大量のスクロールを同時に発動すれば確かに対抗できる。ただそんな数を用意できるとは思えない。

 自分が何とかしなければ、スティーヴンはそう思った。


「ほかのダンジョンはどうなってますか?」


 スティーヴンはが尋ねるとギルドマスターラルフが近づいてきて答えた。


「階層が増えている。魔族が生まれているかもしれない。早いうちに手を打たないとまずい。いま、ギルド総出でひとつずつ潰していく計画を立てている」

「そうですか、わかりました。少し時間をもらってもいいですか? 一週間、いえ5日」


 スティーヴンは思案顔をしていった。ラルフは不思議そうに言う。


「ああ、構わない。こちらにも準備がある。が、何をするつもりだ?」


 スティーヴンは言った。


「少し魔法に慣れます」


 ◇


 魔族との戦闘で彼らの詠唱速度に追い付かなければならないことを知った。

 一度に大量のスクロールを『空間転写』しても追い付かない。魔族が詠唱を始めた瞬間は対処できたがすぐに『空間転写』したスクロールは枯渇した。転写後片っ端から発動させるしかない。


 だから口では追い付かなかった。

 どうしても「activate」の文字列を書き込むしかなかった。

 その作業量は尋常ではない。


 記録からの読み出し。

 『空間転写』

「activate」の書き込み。

 それらをほぼ同時に行わなければならない。


 最優先は〈アンチマジック〉だ。

 スティーヴンは倒れてもいいように宿に戻ると、修行を開始した。


 スクロールの明滅。

 一見すると何も起こっていない。が、スクロールは発動している。

 ドロシーの部屋で〈テレポート〉を失敗したときほど衝撃はないが、いくらかの空気の揺らぎができている。

 鼻から血が垂れる。

 そろそろ限界か。

 そこで、またぶつりと意識が飛ぶ。


 そんなことをスティーヴンは毎日行っていた。ときおりエレノアやリンダが訪れたが、事情を説明すると「無理しないで」と言って帰っていった。


 何度も鼻血を出し、何度も倒れた。


 5日後。


 ギルドに姿を現したスティーヴンは最長1時間連続で〈アンチマジック〉を使えるようになっていた。


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