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街に最も近いダンジョン

 マーガレットの他はいつもの、リンダたちのパーティだった。テリーはいなくなっていたが。


「あいつはふてくされたのにゃ。今日もきっと酒場でやけ酒にゃ」


 にゃははとリンダは笑っていた。急造のパーティなんてそんなものか。

 ダンジョンに向かう道中、マリオンはマーガレットに近付くと頭を下げた。


「尊敬しています。あなたのお話はたくさん聞いています」

「ああ、マリオンだったね。君の話も聞いたことがあるよ」

「本当ですか!」


 彼女たちは会話を弾ませていた。


 3キロ先のダンジョンは当然すぐに着いてしまった。実際に歩いてみると街からこの距離でブラッドスパイダーが一階層に現れる深度と聞くだけでぞっとする。


「行くぞ」マーガレットが言って、スティーヴンたちはそれに続いた。


 マーガレットがあらかた倒したからだろうか、一階層に魔物は少なかった。冒険者の死体は確かにあった。リンダたちは見慣れているのかすこしだけ目を閉じて祈りを捧げるとすぐに先へと進んだ。死体に手足はなかった。


 スティーヴンは方位磁石をもって道を記録していく。


 二階層に降りるとさすがに魔物が現れる。が、そのほとんどをマーガレットが倒してしまう。彼女の動きは洗練されていて、無駄がない。目の前の魔物を切り倒したかと思うと後ろに目がついているのだろうか、バックステップで飛び上がり、真後ろにいた魔物の急所を刺す。うわさどおり、舞を踊っているように魔物を倒し、人間とは思えぬ速度で移動する。


「次だ」


 彼女は言って先に進む。


 5階層に着く。

 マーガレットが一人で進むのをやめた階層だ。


「この階層にはキングスパイダーがいて進めなかったんだ」


 彼女がそういうとリンダたちは立ち止まった。


「何か?」スティーヴンが尋ね振り返ると、リンダたちは顔面蒼白にしていた。

「キングスパイダー? あれはギルド総出で倒す種類の魔物じゃないか」


 ヒューはそう言ってマーガレットを見た。


「君たちの腕があれば問題ない。とどめは私が刺す」


 彼女は歩みを止めない。


「キングスパイダーって聞いたことないんですけど、どのくらい危険なんですか?」

 スティーヴンが尋ねると、リンダは頭を抱えた。

「ギルドの建物と同じくらいでかいにゃ。しかも周りに大量のブラッドスパイダーがいるにゃ」


 スティーヴンはぞっとした。

 マーガレットは言い忘れていたというふうに言った。


「ああ、キングスパイダーは二匹いるぞ」


 リンダたちはつぶやいた。


「帰りたい(にゃ)」


 そのとき、何かが目の前から走ってきた。黒い犬の形をしていた。その生き物はマーガレットのそばを通ろうとして、切り裂かれた。真っ二つになったその魔物は痙攣している。


 マーガレットは自分の切り裂いた魔物を見て顔をしかめた。


「〔冒険者殺し〕か。まずいな」


 リンダたちは目を剥いて後ずさった。


 〔冒険者殺し〕。なんの意図があってか知らないが魔物たちをおびき寄せ、自らその先頭を走ることを好む魔物だ。冒険者はダンジョンでその魔物を見かけたら真っ先に逃げろと教わる。その後ろには幾十幾百の魔物が押し寄せてきているから、と。


 地面が揺れる。ダンジョン全体が揺れている。


「来るぞ、大群だ」

 マーガレットは嬉々としてそう言った。


 ブラッドスパイダーが波のように押し寄せてきた。


「ははは、逃げるぞ!」


 マーガレットはなぜか少女のように楽しそうに言う。


 リンダはスティーヴンの襟をつかんだ。

「スティーヴン! 何とかしてくれにゃ!」

「はいはい」


 スティーヴンは雷撃系最強のスクロールを『空間転写』した。すでにどのスクロールが雷撃系かわかっていた。ドロシーのおかげだと苦笑する。


「アクティベイト!」


 地面を雷撃が走っていく。

 ブラッドスパイダーたちは折り重なるように我先にこちらに向かってきていた。密集していた。雷撃は奴らの身体を一瞬で伝わり、死に至らしめた。

 しかし、勢いは止まらない。

 死骸の波が押し寄せてくる。


「スティーヴン!」リンダが声を震わせて叫ぶ。


 次は防御系最強を展開。

「アクティベイト!」

 魔法の盾がパーティを覆う。ぶち当たった死骸は反射されて波の勢いをそぎ落とした。

 盾の形、楕円形に地面が残されて、その周りに大量のブラッドスパイダーの死骸が山となった。


「なんだ、今のは!」


 マーガレットがスティーヴンの両肩をつかみ揺らした。


「痛い痛い!」

「君は無詠唱で魔法を使えるのか!」

「そうですけど! 首がもげます!」

「ああ、すまない」


 マーガレットは言って肩から手を離した。


「しかし、すごいな」


 マーガレットはそう言ってあたりを見回した。


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