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深化

 ギルドマスター、ラルフが写本係の部屋から出てきたスティーヴンを見て手を振っていた。


「ちょっとこっちにこい」


 彼がそう言った瞬間、冒険者たちがこちらを見る。彼ら群衆は道をあける。スティーヴンは恐る恐るその間を通っていった。


 受付に近付くにつれて、話題になっている人物が見えてきた。空色の髪を肩のあたりで切りそろえた女性。銀色に光るプレートアーマーの胸当ては胸に沿って湾曲している。必要最低限の場所だけが守られている。


 スティーヴンは彼女のことを知っていた。名前は何だったか。その戦闘は人の所業ではないと聞く。極限まで速さを追求した戦い方をする、と。だから、彼女の装備はいつも必要最小限。


 ギルド『グーニー』の看板。Sランク冒険者。


 なぜこんな場所にいるんだろう。


 スティーヴンが近づくと彼女は振り返った。

「そうだ。君だよ、スティーヴン」


 彼女はそう言うと距離を詰めてきた。背が高い。スティーヴンより頭一つ分高い。彼が小さいことを差し引いても女性の中では大きい方だ。


 彼女はスティーヴンの手を取ると言った。


「私はマーガレット・ワーズワース。ギルド『グーニー』から君を追いかけてきたんだ。他のギルドも回ってようやく君を見つけたよ」

 そうだ、そんな名前だった。噂でしか聞いたことがなかったから、忘れていた。記録しておかないと。

「そ、そうですか。わざわざどうも。えーっと、何のために?」

「君が必要なんだ!」


 彼女はそう言うとさらに顔を近付けた。空色の髪がスティーヴンの頬をくすぐった。

 スティーヴンは首を傾げた。


「君のマップは素晴らしい。ダンジョンの中で〈テレポート〉を使っても道に迷わないくらいに」

「ちょっと待ってほしい」ラルフが口をはさんだ。

「スティーヴンはうちの優秀なマップ係だ。そう簡単に連れていかれては困る」


 マーガレットはギルドマスターの方を向くと言った。


「私はこのギルドに所属しよう。それにある問題があって早急に彼を連れていかなければならない」

「ある問題?」ラルフは尋ねた。

「ダンジョンが増えている」

「ああ、それは報告を受けているが、まだ初期のダンジョンだろう? 洞穴程度のはずだ」

「違う」


 マーガレットは言うとスクロールを取り出した。彼女は取り巻いている冒険者たちに言う。

「〈マジックボックス〉を発動させる。下がれ。スクロールはすべて封をするように」


 そう言った後「アクティベイト」と唱え、〈マジックボックス〉を出現させた。彼女は中からブラッドスパイダーの死体を取り出した。


「これはこの街に最も近いダンジョンで見つけた魔物だ。一階層でな」

「最も近いというと10キロ先の?」冒険者のひとりが尋ねた。

「3キロだ」


 マーガレットの言葉に冒険者の間にどよめきが起きる。


「確かに最も近いダンジョンは3キロ先だが、ブラッドスパイダーが出るほど規模は大きくない!」


 ラルフは主張したが、マーガレットは首を振る。


「少なくとも5階層までダンジョンは進んでいる。それ以上潜っていないからその先はわからない。理由は不明だが、同じ現象がほかのダンジョンでも起きている」


 スティーヴンはその話を聞いて、このギルドに来て初めて計測に行ったダンジョンを思い出した。一階層にキングタイガーがいた。それは事実だ。キングタイガーがどれほど深いダンジョンに生息するのかはわからないが、少なくとも3階層まででは、魔物の進化はブラッドタイガーどまりだというのは知っていた。

 あのダンジョンはマップの原本を見る限り3階層のはずだった。


 ここ最近森の中にいる魔物が強力になっているのはそのせいだったのか。エレノアを襲った魔物がブラッドタイガーというそこにいるはずのない魔物だったのにも合点がいく。


 マーガレットはスティーヴンの手を取った。

「お願いだ。危険なのはわかっている。だが私が助けてやる。マップの作製をしてくれ。このままでは冒険者に多くの死者が出る。現に出ているんだ。私が潜ったダンジョンでは一階層にたくさんの死体があった」


 スティーヴンはラルフを見た。彼は一瞬目を閉じたが、頷いた。


「わかった。他の冒険者のためでもある。彼女の言う通りだ。行ってくれ。マーガレットと言ったな。スティーヴンを頼む」

「任された」


 マーガレットは凛とした表情で答えた。


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[一言] いつか詰みセーブしそうだね
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