ロード
さらに数日が経過した。ドロシーはスティーヴンに食事を与え、身体を拭き、トイレへと連れて行った。それ以外の時間はどこかに行っている。夜になると抱きしめ、自分の過去を語って泣いた。
彼女について知らないことはなくなった、とスティーヴンは思っていた。
ある日、頭上で大きな音がした。
子供の悲鳴が聞こえた。
子供の悲鳴?
しばらくすると大勢が階段を駆け下りてくる音がした。ドロシーではない女性の声がした。
「シスタードロシー!その人は!?」
「今は良いから、子供たちを逃がして!」
「しかし、あなたは?」
「私はここに残って少しでも食い止める! いいから行って!」
子供たち?
食い止めるってなんだ?
スティーヴンはうごめいたがロープが腕に食いこんだだけだった。
子供の泣きわめく声が遠ざかる。おそらく扉を閉めたのだろう。どこかに隠し通路でもあったのか?
「子供たちは逃がせた。よかった」
ドロシーがそう言うのが聞こえた。
「……畜生あの**!」最後が聞こえない。
ドロシーはがさがさとスクロールを取り出したようだった。
ベッドがきしむ。彼女がそばに座る感触があった。
「アクティベイト!」
低い男の声が聞こえた。
ドロシーはスティーヴンに抱き付いて、つぶやいた。
「もうおしまい。ごめんね、私のせいで」
彼女が頭をなでる感触。口づけ。
「ごめんね」
その声は涙で震えていた。
彼女はそう言って、スティーヴンの答えを待たずに行動した。
ぶちぶちとスクロールの封を切る音がする。
何をしている!
やめろ!
「――――!!!」
「ごめんね」
彼女は最後にそう言って、唱えた。
「アクティベイト!!!!!」
全身が焼ける。
熱い!
熱い!
ドロシーの悲鳴が響く。
何かが上から降ってくる。
意識が遠のく。
スティーヴンは、死んだ。
――――――――――――――――――――(了)
声がする。
――ユニークスキル〈記録と読み取り〉を発動します。
――最後にセーブした場所へ戻ります。
――よろしいですか?
スティーヴンは答えた。
――受諾しました。
――……生きたければドロシーについてもっとよく知りなさい。
視界が開ける。洞窟の中から出てくるところだった。
「ふう。今日はらくちんだったにゃ」リンダはそう言うと、スティーヴンに絡みついた。
「仕事早く終わらすにゃ。酒場で待ってるにゃ」
スティーヴンは立ち止まった。リンダは眉間にしわを寄せた。
「どうしたにゃ?」
振り返るとそこは最後に来たダンジョンだった。初心者用ダンジョン。マップの更新に来た場所だ。
ずいぶん前に。
「あ……あ?」
久しぶりに声を出した気がする。スティーヴンは喉に手を当てて、しばらく声を出していた。声が出る。ものが見える。目をぎゅっとつむり、開く。
「大丈夫か?」
ヒューが尋ねた。すでに彼の顔は治っている。
マリオンもテリーも不思議そうな顔でスティーヴンを見ていた。
どうなってる?
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