【コレクター】との日々2
毎日、スクロールを書かされた。その間ずっと【コレクター】は監視していた。
ある時間になるとスティーヴンはベッドに縛られたまま置き去りにされた。どうやら彼女は外に出るようで服を着替えて現れた。シスターの姿だった。彼女なりの変装だろうか、ぼさぼさだった髪は被り物によって見えない。そばかすだらけの顔が露になっているが耳は隠れている。
「おとなしくまっていてねえ」
そういうと【コレクター】は出て行った。
スティーヴンは口に布を詰められロープで縛られていた。猿ぐつわだ。声が出せない。両手両足も縛られてベッドに固定されていた。口まで手が届かず外すことができないようになっていた。
〈テレポート〉でここに連れてこられてから十数日が経過していた。
この時すでに、スティーヴンは記録していたスクロールをすべて【コレクター】のために写し終えていた。全てのスクロールがどの魔法なのか理解していた。
どうしてまだ解放してくれないのか理解できなかった。
記録にあるスクロールをすべて書き終えた後も、彼女は執拗に〈エリクサー〉など上位の回復系スクロールを転写させた。
売れるからだろうか?
いつまでもここにはいられない。
スティーヴンは記憶の中から、【コレクター】の使った〈テレポート〉の魔法を呼び起こそうとしていた。どのスクロールが〈テレポート〉のスクロールかはわかっていた。その他・無属性の棚にあった。
目の前に『空間転写』でスクロールを出現させる。
スクロールを発動させる方法は二つ。
一つ「アクティベイト」と詠唱する。
一つ「activate」とスクロールの最後に記入する。
スティーヴンは、スクロールの最後を睨む。
「a」
オレンジの文字が現れる。綴りはわかっている。前のギルドでさんざん注意されたから。
「c」
早く刻め、スティーヴンは願う。
「ti」
子供の声が聞こえた気がした。
「va」
次で最後だ。
「te」
オレンジの文字が消える。〈対象の選択〉が発動される。
スティーヴンは自分を選択した。
瞬間、オレンジのスクロールが消え突風が放射状に吹く。
衝撃。
壁のスクロールがざわざわと揺れる。いくつか地面に落ちてきた。
魔法は発動した。
しかし、スティーヴンはベッドの上にいた。何も変わらなかった。
何も起こらない?
どうして?
「なに!」【コレクター】が血相を変えて降りてきた。
あたりを見回して状況を理解すると彼女の口調が変わった。
「どうやったの? スクロールは全部封がしてあるし、貴方、声出せないわよね」
じっと彼女はスティーヴンの目を見る。
「ああ、わかったあ。『空間転写』したスクロールに頭の中で文字を書いたのねえ?」
スティーヴンは絶望した。彼女の洞察力に恐怖した。
記録したスクロールはすべて転写し終えていた。それでも【コレクター】はスティーヴンを帰さなかった。
何の変化か、【コレクター】は一本スクロールを書くと休憩を取らせてくれるようになっていた。しかしそれも休憩といっていいのかわからない。彼女はベッドへスティーヴンを連れていくと、横になるように指示する。彼女も横になってスティーヴンの身体を抱きしめる。
その状態で【コレクター】は自身の過去の話をする。
彼女がドロシーという名前であること。
最高峰の魔法学校に通っていたが、魔力が足りず、スクロールを写すしかなかったこと。
学校ではミランダという女子生徒にいじめられていたこと。
ドロシーはいじめに耐えながら首席で卒業したこと。
それが気に食わなかったのかミランダの圧力によって魔法関連の働き口をすべて潰され、自分でこっそり店を構えるしかなかったこと。
などなど。
話が終わると薬を含まずに口づけをして、彼女は泣いた。
スティーヴンは知っていた。
彼女が『転写』スキルを持っていることを。
スティーヴンは知っていた。
ドロシーは『グーニー』の写本係たちとは違い、〈エリクサー〉を『転写』できるだけの知識があることを。
スティーヴンはただそばに置かれていただけだった。
彼女の言葉を聞く抱き枕として。人形として。
つまり、もう、目は必要なかった。
ドロシーはスクロールを一つ持ってきて、スティーヴンのそばに座った。
「少し痛いけどお、我慢してねえ。あなたのせいよお」
「――――!!!!」
スティーヴンは暴れたがロープがそれを邪魔した。ドロシーはナイフをつかむと、
スティーヴンの両目を潰した。
「――――!!!!」
「アクティベイトお」
両目の痛みが消える、しかし、
世界は暗黒に落ちた。もう何も見えなくなった。
〈対象の選択〉ができない以上、魔法は使えなくなった。
16時にも投稿します。
閉じ込められるのは次で終わり。