【コレクター】
「ヒューという冒険者はどこお!」女がギルドに入るや否や叫んだ。ちょうどそのころリンダたちはギルドにおり、当然ヒューもそこに居合わせた。
「俺だが、おまえ【コレクター】だな?」
彼はそう言うと、【コレクター】の前へと出て行った。彼女は背伸びをするとヒューの顔面を両手でべたべたと触り始めた。
「おい! 死にたいのか?」マリオンが剣呑な表情で剣を抜いた。
「ああ、そんなつもりはなかったんだあ。ただ〈エリクサー〉が使われたと聞いていてもたってもいられなくなってきたんだあ」
彼女はそう言うと首をぶんぶん振ってあたりを見回した。
「で! 〈エリクサー〉を持っているのは誰!」
「誰も持ってない。この顔はスクロールで治したものじゃない」
ヒューは言った。
「じゃあその詠唱をした人物を連れてきてえ。おねがいだからああ」彼女はヒューにすがるようにして言った。
「あのお」スティーヴンが言うとリンダが制止した。
「ばか、関わらない方がいいにゃ」
「なに!」地獄耳なのだろうか、自分でさんざん騒いでいたくせに、【コレクター】はスティーヴンの声を聞きつけて走ってきた。
「〈エリクサー〉のスクロールがどうかしたんですか?」
「ああ、もう、わかってないい。〈エリクサー〉はものっすごく貴重でどこにも出回ってないのよお。王族が持っているという話を聞いたことがあるけどほんとだかどうだかあ。一つ白金貨5枚(金貨100枚)はするわあ」
「白金貨5枚!」
スティーヴンは目を見開いた。白金貨5枚もあれば一生遊んで暮らせるじゃないか。
「そうよお、で、あなたはあ? 〈エリクサー〉について何か知っているのかしらあ?」
「〈エリクサー〉かどうかは知りませんけど彼の顔を治したのはぼくです」
「ほんとにい!」
ぼんやりとしていた彼女の目が爛々と輝いた。
「関わらない方がいいにゃ!」
リンダが後ろで忠告を繰り返している。
【コレクター】はずいと顔を近付けた。ぼさぼさの髪で隠れていた顔がようやく見える。耳が見える。とがっている。
「エルフ?」
どおりで美しいわけだ。
「そうよお。私はエルフ。今はそんなことどうでもいいのよお。ねえ、〈エリクサー〉のスクロールを作ってくれない? 代金はいくらでも払うわあ。あなたなら体で払ってあげてもいいわあ」
にこにことそんなことを言う彼女。
「だめにゃ! 先客がいるにゃ」
リンダは自分のことを言っているのだろうがそのさらに先客がいることを彼女は知らない。そう思うとスティーヴンはどうしようか悩み、げんなりした。
「じゃあ見せてくれるだけでいいからあ、ねえお願いい」
「だめにゃ!」
リンダがそう言うと、【コレクター】は頬を膨らませていった。
「けちい」
【コレクター】はとぼとぼとギルドの入口へと向かったがばっと振り返っていった。
「いいわあ。明日また来るからあ」
「来なくていいにゃ!」
リンダはスティーヴンを抱きしめるようにしてそう言った。【コレクター】はふふふと笑ってギルドを後にした。
「行きましたね」
「スティーヴン! あいつに関わっちゃだめにゃ! ほしいもののためなら何でもする女にゃ!」
「わかり、ました」
スティーヴンは目の前をものすごい勢いで風が通り抜けたような顔をして、呆然としてそう言った。
ブックマーク、評価ありがとうございます!!!