初心者用ダンジョン
今日もダンジョンでマップの原本作製だったが、昨日とは状況が違っていた。どうやらマリオンとヒューは付き合いだしたようでお互い体を寄せ合って歩いている。リンダはスティーヴンに体を密着させている。
「##########」
テリーは昨日の酒が残っているのかぶちぎれていた。
「そんなことないにゃテリー。スティーヴンは必要にゃ。ねえスティーヴン」
手をぎゅっと握りしめて、リンダは言った。
「ええと何と言ったのか分からないのですが」
「########」
スティーヴンはまたテリーに足を蹴られた。
「痛い!」
「こら! テリー! あたしのスティーヴンに何するにゃ」
いつから彼女のものになったのだろうか。スティーヴンは苦笑いをした。
同じダンジョンに潜るのは危険だと判断され、今回は別のダンジョンに向かっていた。そこは初心者用のダンジョンだった。
昨日とは違い、中はいつもと変わらないようだった。
「出てくる魔物も変わらないにゃ」リンダはそう言った。
スティーヴンはまた魔導方位磁石を使いながら、場所を覚えていく。
「#####」
テリーがスティーヴンを見上げて何か言った。
「なんて言ったんですか?」
「仕事してるのかっていったにゃ」
「してますよ。全部記憶してます」
「書かなくても覚えてられるのかにゃ?」
「それだけが取り柄ですから」
リンダたちは舌を巻いた。
「それはすごい。マップ係は天職だな」ヒューは周囲を警戒しながらそう言った。
結局何事もなく、最下層までたどり着き、ボス部屋を難なく攻略して外に出た。
「ふう。今日はらくちんだったにゃ」リンダはそう言うと、スティーヴンに絡みついた。
「仕事早く終わらすにゃ。酒場で待ってるにゃ」
「あの……ぼく用事が……」
「あたしの方が先にゃ!」
そう言うと彼女は歩き出した。テリーはまた何かを言ってスティーヴンの脚を蹴った。
ギルドに戻ると、マップを書きだした。
グレッグはそばで見ていたが、いきなり尋ねた。
「メモはどうした?」
「全部覚えていますよ?」
彼もまた舌を巻いた。
ほとんど変わりはないが、小さな部分が変わっている。誰かが最下層に行く道を増やしたらしい。スティーヴンはペンをインクに付けるとその場所に線を引いた。
原本が徐々に更新されていく。方位と記録を頼りにスティーヴンはマップを描く。
「できました」
スティーヴンは言ってグレッグに渡した。
グレッグは報告書とマップを見比べた。
「うむ。更新されたのはほとんど報告にあった通りの場所だな。正しいマップだ」
グレッグはスティーヴンに金貨を一枚手渡した。
「これが賃金だ」
「いや、多すぎますって!」
「そんなことはない。お前のマップは正確だ。正確すぎるほどにな。正確なマップを持っているというだけで、冒険者の死亡率は格段に下がるんだぞ?」
「そう、ですか」
「だからこれはその命の代金だ。これでも足りないくらいだと私は思っている」
スティーヴンは逡巡したが、最後には受け取った。
「わかりました。ありがたく頂戴します」
グレッグは肯いた。
◇
一方そのころ、ギルド『シャングリラ』のある街の僻地でスキル店を営む女が客からある噂を聞いた。
曰く、
「〈エリクサー〉のスクロールが使われたらしい」
「そいつはまだ〈エリクサー〉のスクロールを持っているようだ」
「領主の娘もヒューという冒険者も〈エリクサー〉で傷跡ごと治してもらったようだ」
女は皆が【コレクター】と呼ぶ者だった。丸い眼鏡をかけていた。ぼさぼさの髪だったがその顔は美しかった。それだけに皆はもったいないと思っていた。
その話を聞いた途端彼女は、ギルド『シャングリラ』へと向かった。
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