力の自覚
ダンジョンに着くと、彼らの目の色が変わった。今までのCランク冒険者とはわけが違った。頼りになる。
「いくにゃ」
スティーヴンたちはダンジョンへと潜っていった。
Aランク冒険者はさすがだった。声を掛け合い連携して、魔物を倒していく、しかし、
「この階層にこんな魔物いたか?」盾の男ヒューがそうつぶやいた。
「いない、何かおかしい」
マリオンがそう言って細い剣を振り、ホブゴブリンの喉を切り裂く。
「全部の魔物が上位種に変わってるにゃ!」そう叫ぶと、リンダは詠唱を始めた。
「*********************************アクティベイト!」
弓を放つ。弓はらせん状の氷をまとい、ビッグスライムに突き刺さった。バキンと一瞬でスライムは凍り、脆く崩れ去った。
スティーヴンは戦乱の中でも魔導方位磁石を使って位置を確認しながら周囲の記憶をしていく。
「スティーヴン! ちゃんと仕事してるかにゃ!」
「してますよ心配しないでください!」
そこに、ブラッドタイガーが現れた。
「まだ1階層だぞ! テリー! スクロールを」
狐の獣人はカバンからスクロールを取り出すと封を噛み切り開いて唱えた。
「アクティベイト」
地面からいくつものとがった岩が出現し、ブラッドタイガーを突き刺す。まだ生きている。リンダが詠唱をして矢を放った。
矢はブラッドタイガーの眉間に突き刺さり、奴は息絶えた。
「ふう、危なかった……にゃ?」
リンダは視線を闇の向こうに向けた。目が細くなり、そのあとかっと見開かれた。
「まずいにゃ! ブラッドタイガーの群れが来るにゃ!」
走る。走る。
スティーヴンたちは急いでダンジョンの入口へと向かって行ったが、奴らの音が徐々に近づいてくるのも同時に感じていた。呼吸音、地面を駆ける足音。暗闇の中に光るいくつもの双眸。
スティーヴンは限界を感じていた。それは盾を持っているヒューも同じようだった。ヒューは立ち止まると盾を構えた。
「先に行け! 俺は足手まといになる。ここで少しでも食い止める!」
「だめにゃ! みんなで逃げるにゃ!」
リンダは詠唱をして、弓を放った。テリーは何度もスクロールを巨大なカバンから取り出し封を切って「アクティベイト」を唱えている。
しかし、群れの数は減ったように見えなかった。
「そんな……」ヒューが絶望した声を漏らした。
群れの奥にブラッドタイガーの上位種、キングタイガーが現れた。その体はブラッドタイガーの倍以上、おそらくスティーヴンなど一飲みだろう。
群れはキングタイガーに道をあけるようにわかれた。
キングタイガーが突進してくる。
ヒューの盾では耐えきれないだろう。
どうしたらいい?
スティーヴンは防御魔法の最上段に位置していたスクロールを思い出していた。
それに賭ける。
――私、気を失う前に見てたのよ。あなたが無詠唱で《ファイアストーム》を使うところを。
スティーヴンは『空間転写』で目の前にスクロールを広げる。〈対象の選択〉で自分たち5人を選択する。
頼む!
「アクティベイト」
リンダがぎょっとした目でスティーヴンを見る。
「スクロールなんか持って――」
防御魔法が発動する。突進してきたキングタイガーがはじき返される。力は完全に反射され、キングタイガーは頭蓋が破壊されたまま群れの上に落ちていった。
ブラッドタイガーの群れが下敷きになった。キングタイガーは痙攣し、そのあと動かなくなった。
群れの頭をなくしたブラッドタイガーたちは戦意を喪失し、そそくさと逃げていった。
「いまのはなに?」マリオンが剣を鞘に戻して言った。
「あんな魔法見たことないにゃ。何をしたにゃ、スティーヴン」
スティーヴンは自分の両手を見つめていた。いくつもの記憶と、いま発現した魔法がすべてを物語っている。
これは自分の能力だと。
スクロールは『空間転写』で発動できるのだと。
ブックマーク、評価ありがとうございます。