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#24.英雄(スティーヴン)

 屋敷に戻ると僕は尋ねた。


「屋敷にいる妖精は少ないけれどどこにでもいるってのはこういうことだったんですね」


 僕が言うと団長は頷いた。


「それもあるが」彼は自分の羽根を指差した。「半分なくなってるだろ?」


 僕は頷いた。「どうして……」


「ドラゴンと、やつの手下たちに奪われたんだ。ドラゴンたちは妖精の力を強制的に使うことができる。彼らの妖精術式は野蛮で、惨い。酷使された妖精は羽根を失い、二度と妖精の力を使うことができなくなる。ドラゴンが私達を支配していた時代にはよくあったことだ。私達はドラゴンに支配されていた。いや、今だって支配されている。私達はドラゴンが大嫌いで、だから彼らのそばには近寄らないようにしている」


「まあそれが原因でドラゴンの動きがわからないんっすけどね」ルイーズはそんな事を言った。


「ドラゴンは聖なるものなんじゃ?」


 僕が尋ねるとルイーズは鼻にシワを寄せた。「あれのどこが聖なるものっすか! そんなのどこの誰が言ってたんすか!」


 あまりの剣幕に僕は引いた。


「〔黒の書〕に書かれていたんですよ! 僕だって詳しくは知りません!」


 今度は団長が目を細めた。


「〔黒の書〕? 何だそれ聞いたこともない。〔白の書〕と〔赤の書〕なら聞いたことがあるが」


「〔赤の書〕? なんですかそれ?」


「歴史の書かれた書物だよ。ドラゴンの時代から英雄・・〔魔術王〕の時代に至るまでの歴史」団長の言葉に僕は顔をしかめた。




「英雄? 〔魔術王〕が英雄?」




「ああ、ドラゴンの支配・・から人間と妖精を救い出した英雄だ。そして、〔勇者〕と呼ばれる後継者たちに自らを封印させることで、永続的なドラゴンの封印を実現した。まあそれが今崩れようとしているんだが」団長は僕を見てそういった。


「だから、僕が〈セーブアンドロード〉を……〈混沌〉を取り戻すとあなた達のためになるのか……」


 アールとそのメイドは言っていた。僕のスキルが完全に消滅してしまえば、ドラゴンは未来予知を復活させられる。人間と妖精を支配し直せる。でも……


「〔魔術王〕は人間を支配してきたんじゃないんですか?」


「〔魔術王〕は人間を支配したんじゃない。統治したんだ。全ては〔赤の書〕に載っている」


「〔赤の書〕は今どこに?」


「〔妖精の樹〕と一緒にある」


 誰が敵で誰が味方なのかわからなくなってきた。〔魔術王〕が英雄なのだとしたら、魔術師に対抗する僕たちは何なのだろう。魔術師は本当は英雄を復活させようとしているのか?


 マーガレットはローレンスに言っていた。


 ――魔術師たちが〔魔術王〕を復活させようとするのも彼らにとっては立派な大義だろう。


 それは僕を守るための言葉だった。本当にそうなのかもしれない。いや、しかし、それにしてはあまりにもやり方がひどすぎる。


 ……魔術師たちは、〔魔術王〕を本当に信仰しているのか?


「ドラゴンは私達から全てを奪おうとした。奴らは妖精の力を強制的に使い続け、未来を予知して私達の反乱を防いできた。私達はドラゴンに屈した。彼らに力を貸すことを条件に、羽根の全てを失うことを逃れた。逆に、ドラゴンに反抗し続けて、羽根を完全に失った者たちもいる。彼らはきっと私達を恨んでいる。でもそうするしかなかったんだ……。王を守るために……、大義のために」


 団長はそう言ってうつむいた。


「だから、数が少なくなってるのもあるんだ」




 ◇


 翌日。昨日の復習といって一通りやった後パトリシアはいった。


「後は簡単。それを耳の周りでやって、妖精たちの声をきく」


 パトリシアはナイフを握っているのと反対の手を耳に当てて、耳をそばだてるような仕草をした。


 僕も真似をしてみる。


「きこえる?」ハッとした。何かが耳元で話している。


「きこえる」僕は呟いた。


「ああよかった。ずっと喋り続けてたんだよ。なかなか聞いてくれないからもう飽きちゃった。でもね、やっと話せるようになってうれしい。だって団長とルイーズばっかり話してるんだもの。ふたりとも私達の言葉をあなたに伝えてくれないし、ねえひどいと思わない? ひどいよね、それに……」


 僕は耳から手を離して、集中を切った。


「うるさいでしょ」パトリシアが言った。僕は頷いた。ルイーズが上級なのも納得だった。きっと水準が低いんだこれ。


「なんか失礼なことを考えている目っすよ」ルイーズがジトッとした目で僕に言ったが、すぐに表情を変えた。


 団長も同じようにハッとしていて、僕たちに言った。


「〔妖精の樹〕を取りに来た人間がいるようだ。すぐに迎えと王から命令があった」団長はそういった。


「え! まって、僕まだ妖精術式使えないんだけど!」


「ああ、だが仕方ない。実践あるのみだ」


 団長はそう言って、詠唱を始めた。


 青い光が僕たち四人を包み込む


「《空間転移》」


 僕たちは転移した。




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