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#23. カタリスト(スティーヴン)

 僕は固まってしまっていた。


「おーい。どうしたの」パトリシアは無表情の顔でそう言って僕の前で手を振った。


「本物なの? さっき……」僕は彼女の腹を見た。……新しい服に着替えていたので腹の穴は見えなかった。


「触ってみる?」彼女は僕の手を取って、穴のあったあたりに触れさせた。そこにはちゃんと体があった。僕が手を動かすと、パトリシアは「ふっ」と息を吐き出して後ずさった。


「くすぐったい」無表情でそんな事を言う。


「ああ……ごめん」僕はまだ信じられなかった。「どうして……どうして死んでないんだ?」


「ドッキリ大成功ー。いえーい」パトリシアは両手でピースをして僕の前に突き出した、無表情で。


「いえーい」ルイーズが同調した。団長がルイーズの頭を叩いた。「痛えっす」


「ま、死んだんだけどね」パトリシアは手をおろして言った。「でも私は生きてる。なぜならそういう()()()()()()()をもってるから」


 僕は目を見開いた。


「それって……」


「私のユニークスキルは〈不老と不死(イモータル)〉。老いず、死なず、痛みも感じない。そしたら感情も表に出なくなった」


 だからこんなに無表情になってしまったのか。それに、体も成長していないみたいだった。彼女は実年齢よりずっと若く見える。というより幼く見える。僕がパトリシアの身長を測っていると彼女は僕を叩いた。


「測るな」


 団長とルイーズがほとんど何も心配せず僕を連れて行った理由がわかった。生き返ることがわかってたんだ。


 僕はドロシーの言葉を思い出していた。


――あるSランク冒険者がいたのよ。ユニークスキルを持った冒険者ね。


――その人はね、不死身だったのよ。いくら傷つけられようと腕が取れ、足がもげ、首をへし折られようと生き返った。


「あのSランク冒険者ってお前だったのか?」パトリシアは首を横に振った。


「それは前任者で、私の師匠。今は私が()()()()。私はあの人の全てを継承した。ユニークスキルも、〔勇者〕や王立騎士団としての使命も」


「どうして王立騎士団が出てくる?」僕は首を捻った。「王立騎士団って、確か、アムレンが団長だった騎士団だよね」


「ええ。でも後で説明する。今重要なのは、お兄ちゃんが生きてるってこと。それと、妖精術式を覚えなきゃいけないってこと。ついてきて必要なことは全部ここでできるから」




 ついたのは、巨大な滝の近くだった。周りは森に包まれていた。


「ここで妖精と仲良くなってもらう」パトリシアは言ったが、そうはいっても、どこに妖精がいるのかすらわからなかった。


「どこにいるんですか?」


「どこにでもいるっす」ルイーズはそう言ってマントを外した。ルイーズは羽根を広げた。羽根は妖精の王のように美しく、透過する光を色づけていたが、片方が欠けていた。


 団長も同じようにマントを外した。彼の羽根はそれぞれ半分ずつなくなっていた。


「私達、妖精は、どこにでもいる」団長はそう言うと、手を叩いた。


 音が森の中に響き渡る。


 いつの間にか二人の姿が消えている。僕はあたりを見回した。


 どこにいった?


 僕があたりを見回している間に、また、いつの間にか二人は戻っていた。


「どう? 見えた? お兄ちゃん」パトリシアが言ったが僕は首を横に降った。


「全然」


 パトリシアは小さく頷いた。「そうだとおもった。妖精が見えないと、力を借りることができない。だから訓練しないと」


 団長が腰のベルトから、一本の棒を出した。それは先程の制御棒にとてもよくにていたが、短く、先になにか尖ったものがついていた。


「それはペンだ。使い方は羽根ペンと全く一緒。書き心地はどうだか知らないけどな。その方がお前にあってるとパトリシアが言っていた」


「ああ、……ありがとう。……で、なにこれ?」僕はパトリシアに言った。パトリシアはナイフを取り出した。彼女が魔法を使うときに使っていたものだ。


触媒(カタリスト)。私の場合はナイフ。それを使って、妖精から妖力をもらって、加工する」


 パトリシアはナイフを掲げる。先端が光りだす。弱くなったり、強くなったり、光は不安定に揺れる。


「この光を出すのが第一段階かな」


 パトリシアの光をみて、ルイーズは言った。


「相変わらずヘッタクソっす」


「うるさいよ」パトリシアは無表情でそういった。


「光ればいいの光れば。もし一定の力を制御できるようになれば、きれいな魔法陣を書ける。ただ、妖力を持たない人間はそれで妖精術式が発動しないから詠唱するけど」パトリシアは僕に言った。


 光を一定に出すってなんだろう。そもそも光をどうやって出したら良いのかわからない。


 ペン型のカタリストを握って持ってみる。絵かきが、やるように前に出して片方の目をつぶったり色々やってみたが、うまくいかない。


「スキルを使う感覚に似てる」パトリシアはそういいながらナイフで腕に傷をつけた。


 僕はぎょっとしてそれを見ていた。ちょっと傷をつけるというレベルじゃない。腕の腱が見えてる。ぼたぼたと血が溢れている。


「私の場合は傷がついたら、スキルを使うと元に戻る」そう言って、彼女はじっと傷を見た。みるみるうちに傷はふさがって、きれいに戻る。《エリクサー》を使った後のようだった。


「この感じに似てる。実際は少し周りの妖精が力を貸してくれてるだけなんだけど」


 スキルを使う感覚。僕はじっとペンの先を見た。『空間転写』を使う感じで……。


「あ」


 パチパチと火の粉のように青い光が一瞬散った。


「そう。そんな感じ」パトリシアが微笑んだ。


「パトリシアより筋が良いな」団長が言った。「こいつはそこまで行くのに一週間かかった」


 パトリシアは団長を見た。無表情でわからないが多分睨んでいるんだろう。


 僕はもっと集中してみた。散るような光ではなく、もっと、安定した光。マップを書くときに真っ直ぐな線を引くように、力の加減を一定に保つように。


 いつの間にか僕はカタリストをペンを持つように持ち替えていた。ペン先に光が現れる。それは、ぽうっと柔らかく光り続けた。


「ほう、うまいもんだ」団長は言った。「パトリシアはまだそこまでできない。もう数年間、妖精術式をつかってるのに」


 パトリシアは地面を蹴った。


「なんで、できる、の」彼女はナイフをこちらに向けた。


 僕は慌てた。


「知らないよ! でもできたんだ!」


 パトリシアは無表情のままじっとしてたが、ふっとナイフを上げて、また光を作り出した。青い光は不安定だった。


「ヘッタクソっす」ルイーズが言った。


 無表情だったが、パトリシアの口は膨らんでいた。


「お、イライラが最大に達した表現だ。久しぶりに見た」団長は笑っていった。パトリシアは頬にためた空気を吹き出すと言った。


「次は妖力を計る方法。光をカタリストに流してみて。こんなふうに」彼女は不安定な光をナイフに流した。ナイフにゆらゆら揺れる線が何本も引かれる。四本引いて斜めに一本、それが続いていく。


「周りにいる妖精がどれくらい妖力を持ってるかを示してる。妖精たちの妖力がなくなったり、協力を拒否されたりすると、妖力は減っていく。ときどき、気をつけてみて」


 僕はペンのカタリストに集中した。光が流れて、模様が刻まれていく。


 パトリシアは頷いて続けた。


「次は妖精を見る方法だけど、ほとんど同じ」


 パトリシアは自分の目を指差した。


「さっきの光を目の前で弾けさせる感じ。私は眼鏡をかけるようなイメージでやってる。カタリストを握りしめたままでやらないとできないから注意」


 僕はカタリストをしっかりと持った。


 眼鏡ね。メガネと言えばグレッグを思い出す。それとローレンスも片眼鏡をしていたな。


「めがね、めがね」僕はそんなことを呟いて、イメージした。


 目の前がさっと青くなる。団長と、ルイーズの姿がぼんやりと青みを帯びて見える。そして、


「すごいな」僕はあたりを見回した。


 青い光がそこらじゅうを飛んでいた。それは、人の形をとっているものもあればそうではないものもあった。火の粉のように舞っていたり、一つの場所で丸く固まっていたり様々だったが、ただ、総じて美しかった。


「もう見えるの?」パトリシアはまた僕をじっと見ていた。無表情の圧力をやめてほしい。


「光が見えるだけだけど」僕はパトリシアから目をそらして、周りの観察を続けた。


 妖精たちは自由に動き回っていた。団長たちのように姿を表したりしないのだろうか?


「彼らはそこまで力があるわけじゃない」団長はそういった。「人間にも見えるように姿を現すことができるのはごく一部だ」


 ……僕はルイーズを見た。


「なんすかその目は! 私だって妖精の中では上級なんすよ」


「馬鹿だけどな」団長が言った。言ってしまった。


「いやその、あはは。恐縮っす」ルイーズは嬉しそうだった。なんでだ。


「今日はもう暗いからこれで終わり」パトリシアはそういった。



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