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#22.〔妖精の樹〕(アール)

「〔妖精の樹〕については聞いたことがある」翌日、歩きながらブリジットに尋ねると、驚いたことにそう返事が帰ってきた。


「そうなの!?」アールは戦士に担がれながら言った。昨日走り回って足が筋肉痛だ。歩けそうになかった。




 ドラゴンを倒した後、近くに隠れていたのか森の中から数人の人々がやってきて礼を言った。彼らは他の街に身を潜めていたようだが、ドラゴンが村に戻ってきたのを見て様子を伺いに来たようだった。


「スカッとしたよ!」彼らは言って、アールを讃えた。


 彼らからいくらか食料と水をもらい、アールたちは進んでいた。




「ああ。どこにあるのかも知っている。ただ、封印を解く方法は知らないが。……それが目的でここに来たのか?」


「うん。どうしても必要なんだ。ドラゴンの未来予知を完全に封じるために。……最初の目的は少し違ったけど」


 アールは全てをブリジットに話した。ブリジットは驚いて言った。


「そんなことが……。だからドラゴンが活動を始めたのか? 未来予知を取り戻して、妖精を……もしかしたら人間をまた支配するために?」


 アールは眉根を寄せた。「また? またってどういうこと? 前も言ってたけどドラゴンが人間を支配してたなんておかしい。〔黒の書〕にはそんなこと書いてなかった」


 今度はブリジットが眉根を寄せた。「何だ〔黒の書〕というのは。〔赤の書〕なら聞いたことがあるけどな。〔白の書〕と対になっているのは〔赤の書〕だ。黒じゃない」


「じゃあ、〔黒の書〕ってなんなんだ?」


 ブリジットは首をすくめた。「さあな。とにかく今重要なのは、〔妖精の樹〕を手に入れることだ。そうだろ?」


 アールは頷いた。


「〔妖精の樹〕は王のところにあるんだ。ついて事情を話したら案内してもらおう」


 





 王のところについた。アールたちは門の前に立つ。


 アールはその建物を見上げていた。山の中に食い込んでいる屋敷のような建物で、なんだか奇妙に思えた。門番はブリジットを見ると頭を下げた。


「これはこれは、お久しぶりです、団長」


「団長って?」アールが言うとブリジットは笑った。


「私は王家に仕えていたんだ。崩壊してしまってから仕方なく森で暮らしているが」


 どうして崩壊してしまったのか、そこらへんのことは彼女は話さなかった。


「私達はお前たち人間よりずっと長生きなんだよ」それだけ言って、ブリジットは門番に向き直った。


「王に会いに来た。というより、匿ってもらいにきた。ドラゴンが村を襲っている」


 門番は苦笑して頷いた。「わかっていますよ。ただ、王はお許しになるでしょうか?」


 ブリジットは唸った。「話してみるしかない」


 門番は小さく頷いて、門を開いた。


 中に入るとアールは尋ねた。「どうして匿ってもらえないかもしれないの?」


 ブリジットは苦笑した。「喧嘩したからだ」


「王と?」アールは驚いて尋ねた。


 ブリジットは頷いた。「だから私は私についてきた戦士たちと森で暮らしてる」


 アールは眉根を寄せた。




 屋敷に通されるとそこには美しい女性が立っていた。背中には羽が生えていて、それは今まで見たどんな宝石よりも装飾品よりも美しく見えた。彼女の頭の上には王冠が載っていた。彼女の前で、ブリジットたちは跪いた。


 アールはただ少しだけ頭を下げた。それは彼が王子だからだったが、なんとなく嫌な感じがして、ブリジットたちと同じように跪いた。


「どうぞ立ってください。お久しぶりですねブリジット」王はブリジットの前まで歩いてくると微笑んだ。ブリジットは苦笑した。それから、彼女はアールのまえまで歩いてきた。


「そして、王子待っていましたよ。そして今までの活躍を見ていました。彼らを助けていただき感謝します。実際の活躍を見られなかったのは残念でした。妖精たちはドラゴンを嫌って離れてしまうので……」


 アールはブリジットを見た。


「王は遠くにいる妖精たちから話をきくことができるんだ。だから私達のことも知っている」


 アールはなんとなくこそばゆさを感じながら、妖精の王に頷いた。


 妖精の王は少し考えていたが、言った。


「〔妖精の樹〕を探しに来たんですね? ……良いでしょう。案内させます。ブリジット、あなたもついていきなさい。彼を守るんです」


 ブリジットは頷いた。




 アールたちは二手に分かれた。他の村人たちは王が手配した場所に行くようだった。


「匿ってもらえてよかったね」アールが言うとブリジットはため息をついた。


「ああ。裏がないと良いが。それかお前を警護することが代償なのか……」ブリジットはブツブツとそう言っていた。


 前を行くのは妖精の王が使わせた男で、小さな羽根が背中から生えていた。王と同じく美しく見えたが、羽根は少し欠けていた。


 彼はアールたちを妖精術式を使って転移させた。何人転移させることができるんだろうとアールは思った。そこは山のようなところだった。屋敷がずいぶん遠くに見える。


 山の入り口から階段が高く上に続いている。


「ここから登ってください」


 アールは目をひん剥いた。絶対に登りきれない。そう思った。




 アールは途中から、また戦士に担いでもらって頂上までたどり着いた。戦士たちもさすがに疲れが出ているようで、アールは申し訳ないなと思った。男は山の入口で待っていると言って、階段には足を置かなかった。


 山の頂上は平たく、開けていて、小屋のような建物があった。


 その前に立っている人物を見て、アールはハッとした。


「ローレンス?」


 彼はホッとしたような顔をして、アールに近づいた。「ああ、良かった。探しましたよ」


「どうしてここに……」


「ドラゴンの目撃情報を聞きました。それを追い払った人間がいるという話も一緒に。すごいじゃないですか、アール様」彼は言ったがすぐに表情を曇らせた。「ただ、これ以上危険なことはしないでください、あなたが心配なのです」


 アールはうつむいて「わかった」と呟いた。


「それで、どうしてこの場所がわかったの?」


 彼はああと言って続きを話した。「ドラゴンを追い払った人間は妖精の王に匿ってもらうようだと聞いたのです。私は〔妖精の樹〕について調べていました。そして、それは妖精の王の近くであるここにあることを知ったのです。あなたを探しながら調べるのは大変でしたよ」そう言って笑った。


「そうか、ドラゴンに襲われていなくて、よかったよ。安心した」


 ブリジットは頬を掻いていった。「それで、どうやって封印を解くんだ?」


 持っていた〔白の書〕を見せ彼は言った。


「これに書いてありました。研究者たちが解読してくれましたよ。開くには、アール様、あなたの〔王家の血〕が必要なのです。こちらに」


 アールはブリジットたちを見た。彼女たちは頷いた。


 アールが近づくと、左目の片眼鏡に触れた彼はアールを小屋の方へと導いた。小屋の前には石碑のような物があった。石のテーブルのような形をしている。なにか文字が書かれているが、アールには読めなかった。


 アールは振り返ってブリジットに言った。「これ読める?」


 ブリジットは近づいてきて、文字を目で追った。


「『〔王家の血〕で扉の魔法陣をなぞれ』」彼女はそう言った。「魔法陣というのはそれのことだろう」


 小屋の木製の扉には確かに魔法陣のような円が彫り込まれていた。


 アールはブリジットにナイフを借りて、手のひらに傷をつけた。以前だったらもっとためらっただろうが、不思議と簡単に傷をつけられた。


 アールは扉の前まで行くと、その血を使って、魔法陣をなぞり始めた。


 門に赤黒い円の模様が描かれる。


 と、魔法陣がまるで魔法が発動する瞬間のように光りだした。


 アールは一歩下がる。光が消えて、扉が開かれる。


 一呼吸入れて、小屋の中に入った。そこはほとんどなにもない場所で、壁にかけられた蛍光石のランプで照らされていた。石造りの地面の上に白いカーペットのような物が道のように敷かれていて、まっすぐ小屋の奥にある台の方へ伸びている。


 アールはカーペットを踏んで、台の方へと歩いていった。靴は汚れているはずなのにカーペットには全く汚れがつかず白いままだった。


 台の上には、枝のように節のついた棒と真っ赤な本が置いてあった。これが〔妖精の樹〕だろう。本はもしかしたら〔赤の書〕かもしれない。


 節がいくつかついたその棒は、光の加減で色を替えた。一見すると木製の棒なのに不思議だった。


 アールは〔妖精の樹〕に触れて、取り上げた。光を放つとかなにか起こるわけではなかった。ずっしりと重いその棒は、よく見ると真っ直ぐではなく節ごとに角度を変えている。


 これがあれば、〔魔術王の右腕〕の封印が解ける。そしてドラゴンからクララたちを救うことができる。


 アールは赤い本を見下ろした。それは〔白の書〕や〔黒の書〕と同じように、ドラゴンの素材で装丁されているように見えた。


 アールは〔赤の書〕には触れずに、小屋を出た。


「ローレンス、これがそうだ……」アールはそう言って口をつぐんだ。


 彼はこちらを見ていなかった。彼が見ているのは全く別の場所で顔をしかめていた。




 そこにはスティーヴンが立っていた。



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