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#14. 妖精の王(スティーヴン)

 パトリシアを置いて転移してきた場所は屋敷のようなところだったが、奇妙だった。屋敷というか建物は、崖に半分埋もれるように作られていた。作り上げた建物に、巨人が上から砂を落として埋めてしまったようなそんな形をしていた。


 団長と呼ばれた男性は僕を入り口から中に通した。建物は随分と奥に続いていた。崖の中を更に掘り進めて作ってあるようで、見かけよりかなり広い。


 広い階段がエントランスホールから伸びていて、そこに一人の女性が立っていた。その背中に生えているものを見て僕はハッとした。彼女は背中に羽根を生やしていた。


それは鳥のような羽毛で覆われたものではなく、透き通る青い、蝶のような羽根。模様も、色も、全てが美しく、僕は口を開いたまま彼女を見ていた。


彼女の羽根を通った光が室内を青く照らしていて、ホールはどこか幻想的に見えた。


「おい、跪け。王の前だぞ」なんかつい最近こんな場面を体験した気がすると思いながら、僕は跪いて頭を下げた。彼女の頭の上には王冠らしき物が乗っていた。


 しかしそれにしては若すぎないだろうか。見かけ僕と同じくらいか、僕より下。そうだ、ちょうどアールと同い年くらいに見えた。彼女は僕の近くまで来ると言った。


「お立ちください、〈混沌〉様」


 僕よりも頭一つ分小さい彼女は、見上げるようにして目をみて、僕の手をとった。


「あなたが無事で良かった。あそこで襲われるとは思っても見ませんでしたから……」


 パトリシアもそう言っていた。彼女はギュッと僕の手を握った。彼女の羽根がすこしだけ動いた。


「あなたは……妖精……ですか?」


――妖精の国。


 パトリシアはこの場所をそう言っていた。


「ええ。全ての妖精を統べる者。それが私です。ここなら安全です。襲われることはありませんし、もしそうなったとしてもすぐに逃げることができます」


「僕は〔白の書〕を追ってます。もし〔魔術王の右腕〕の封印が解かれたらここだって……」


 彼女は頷いた。


「ええ、でも、しばらくは時間が稼げるでしょう。彼が追っている〔妖精の樹〕はここにあります。彼が私達を見つけるまで時間がかかるはずです」


 僕は眉根を寄せた。


「どうして彼が〔妖精の樹〕を探していると知ってるんですか?」


「あなた達のことは妖精たちから話を聞いています。ある程度今までの行動も知っていますよ」


 彼女は手を振った。彼女の手を追うようにふっと空気がきらめいて、消えた。


「下の世界にも妖精たちはいます。あまり数は多くありませんが」


「下の世界とは?」


「あなた達の住む世界のことです」彼女は僕から離れて、人差し指を上げる。指の先が光りだすと、彼女はそれを使って何やら図形を描き出す。


 最後にぐるっと円を描いてその図形を囲うと指先から光が消えた。


 僕はその図形を一応〈記録〉したが、多分思い出せないだろう。


 空間には彼女が描いた図形が浮かんでいる。『空間転写』をしたときに似ていた。円は回転して一点に収束し、また展開した。新たに描かれた円は、中が空洞で、真っ暗だった。黒い円が浮かんでいる。


「国の外観を見せてください」彼女が言うと、黒い円は揺らいで、薄くなり、徐々にどこかの景色が浮かび上がってきた。それは空に浮かぶ島だった。大きな岩の塊が雲に乗って空に浮かんでいる。


「これが、私達が今いる妖精の国です。空に浮かぶ島。下の世界からは見えない様になっています」僕は映像に触れた。手は煙の中に入っていくようにほとんど何の感触もなく向こう側にすり抜けた。


「これは魔法ですか?」


「妖精術式です。前にも見たでしょう? 炎の斧と水の槍を。そしてここに来るときも体験したはずです」


――《妖精よ、私と遊ぼう》


 あの聞いたことのない魔法が、これか。


「でもパトリシアも、ローレンスも、なにか唱えていましたよ」


「ええ。唱えても、描いても、術式は発動します。違いは魔力ではなく、代わりに妖力を使うこと。これは、魔力と違い、唱えても描いても消費します。ただ、人間に妖力はありません。これは妖精が持っている力です」


 じゃあ、僕は使えないのか?


 いや、あの二人は使っていた……。僕が悩んでいるのを見て、妖精の王は続けた。


「妖力は人間にはありませんが、代わりに妖精の力を借りることで、人間にも使うことができます。妖精は術者に力を貸し、術者は力を操ることで妖精術式を展開します。周囲の妖精の妖力を使いつくしたり、妖精たちが妖力を渡すことを拒めば、術式は成り立ちません」


 妖精の王は更に続ける。


「妖精術式は、〔魔術王〕の一部の封印にも使われています。あなたは封印を解除し、〈混沌〉を取り戻さなければなりません。それは私達のためでもあるのです。封印を解除するにはこれを使いこなす必要があります。この術式を使うことのできる者は多くありません。……鍵は多いに越したことはありませんよね」


 彼女は団長を顎で示していった。


「あなたにはこれを身につけてもらいます。〔白の書〕を持ったあの男――ローレンスと言いましたか――がここを見つける前に。彼らについていってください。一から教えてもらいなさい」


「よし、いこうか」団長とルイーズが僕の両脇に腕を入れて引きずり出した。


「あの! ちょっと! 〔妖精の樹〕とか、妖精のこととか、まだ聞きたいことが!! 僕がユニークスキルを取り戻すこととあなた達との関係は!? どうして助けになるんですか!?」


「私達が教えてやる。今はついてこい」団長はそう言って、僕を屋敷の外に連れ出した。






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