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#13. 庶民怖い(アール)

 アールは先程の少女に連れられて、先程の小屋に連れて行かれた。


「ここを使って」


 アールは顔をしかめた。「もっといいところないの?」


 少女は眉間にしわを寄せた。「ないの!」


 アールは小屋の中を見回した。ボロい。隙間風がうるさい。しばらく観察していたが少女が出ていく様子がなかった。


「仕方ないからここを使うよ。あとは自分でやるから」出ていってくれ。そういう意味だった。


「仕方ないって……ここ私の家なんだけど!! 仕方ないって何!!」


 アールは顔をしかめた。ものすごく失礼なことを言ってしまった。「ごめん謝るよ」


 少女は頬を膨らませてアールを見ていたが、ふしゅーと空気を抜くと言った。


「私はクララ。短い時間だけどよろしく。一緒に食べ物取りに行こ」彼女は壁に立て掛けてあった弓を手にとった。アールは首を横に振った。


「食べ物なら持ってる」


「ふうん。じゃあ一人で行ってくる」クララはそう言って小屋から出ていった。


 この小屋を改造しよう。ひどい隙間風から直さないと。





 しばらくしてクララが帰ってきた。


「ああ、おかえり」


 彼女は小屋の扉を開けて、絶句した。「わ……私の小屋が……」


 小屋の壁には内側から大きな毛布を貼って風が通らないようにした。蛍光石のランプを置いて、簡易的なベッドも設置した。いわゆるオシャレ空間というやつだ。このあたりから地面がギシギシ言い出した。


「そしたら床が抜けたんだよね」ベッドは床に埋まっていた。「木の上だって忘れてた」


「何してくれんの、王子様!! これからどうやって生活すればいいの!?」クララは涙目でアールを睨んだ。


「また新しいのを建てたら良い」アールは当然といった顔でそういった。


「馬鹿にしてんの!? 食べ物だってままならないんだよ!! そんな余裕あるわけ無いでしょ!!」


 クララはアールの胸ぐらを掴んだ。女の子に、というか、胸ぐらを掴まれるのは初めてだった。


「心配しないで、食べ物だったらあるから!」


 アールは部屋の端にある机の上を指差した。机もアールが出したもので、そのへんも軽く床がくぼんでいた。


 机の上には皿が載っていて、しっかりとした料理が揃っていた。


「さっきからすごくいい匂いがしてたけど。どうやって作ったの?」クララは目を細めて言った。


「《マジックボックス》にたくさん入ってるんだ。クララも食べなよ」アールはクララが手にしている草や木の実を見た。「それよりずっと美味しいから」


 クララは料理をみて、お腹がキュルキュルなった。彼女は顔を赤らめて言った。


「……わかった」クララの拘束が解かれるとすぐにアールは料理を出して、机に並べた。《マジックボックス》のスクロールは大量に《マジックボックス》の中に入っていた。何かを取り出すときに一緒にスクロールを取り出せば困ることはなかった。


 クララは目を輝かせて、料理を見ていた。料理たちはまだ暖かく湯気が立っていた。時間の経過しない《マジックボックス》の恩恵だった。


「い……いただきます」持ちなれないのか、フォークをギュッと握りしめて、彼女はステーキに突き刺した。ステーキは肉汁とソースを滴らせながらフォークにぶら下がった。切ってないからだ、とアールは思ったが好きにさせることにした。クララは大きく口を開けて、ステーキにかじりついた。その瞬間目がかっと見開かれた。


 彼女はフォークを引っ張ってなんとか肉をちぎると、もっちゃもっちゃと頬張った。


 ごっくんと音が聞こえるんじゃないかってほど盛大に飲み込んで、口の周りにソースをベッタリと付けたまま、クララは言った。


「おいしい!!」クララがまたステーキにかぶりつこうとしたのでアールはやめさせた。抗議の視線が帰ってきた。


「あのね、ナイフを使ってステーキを切るんだ」アールはそう言って、クララの前にあるナイフを持って、フォークを彼女から借りた。食べやすい大きさに切ってやって、フォークを返した。


 クララはがっついた。テーブルマナーを全部破ってステーキを平らげた。


「そ、そっちは!? なにこれ美味しい!! こっちの料理は!?」クララは騒ぎながら次々に料理を口にしていった。あっという間だった。


 彼女はすっかり料理を食べきると、しょんぼりした顔をしていた。


「なに? どうしたの?」


「なくなっちゃった。食べたからなくなっちゃった」悲しそうな顔をしている。


「僕の分までね……」何という大食い。


 アールは《マジックボックス》からケーキを出してやった。それを見た瞬間、クララの目が輝いた。


「なにこれ! なにこれ!」


「ケーキだよ。甘いお菓子……」クララはパクパクと食べて、顔をほころばせた。


「甘いー! 幸せー!! 王子様に矢を放ってよかった!!」アールは顔をしかめた。


 全部食べ終えると、クララは余韻に浸かりながら椅子に深く座り込んだ。木の実や草ばかり食べている庶民が王家の料理を食べるとこうなるんだなと実験できた日だった。


 アールは皿を片付けると、ベッドから毛布を引っ張ってきた。流石に抜けた床の上で眠るわけにはいかないのでダメージの無い場所まで移動してきた。


「その毛布も使わせろー!!」クララが飛びかかってきて、アールは悲鳴を上げた。毛布を投げつけてその場から避けた。


「なにこれ! ふわふわ……」毛布に飛びついてきた新種の魔物(クララ)は毛布の魔法によってすぐに寝息を立て始めた。


 怖い。庶民怖い。というか贅沢が怖い。


 アールはもう一枚毛布を取り出して、クララが眠っている場所から少し離れた場所に陣取って包まった。

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