その後のギルド『グーニー』3
ギルド『グーニー』にいる唯一のSランク冒険者マーガレットはパーティのお荷物、Aランク冒険者のレニーに言った。彼女はまとめた荷物を地面に置いていた。酒場だった。
「私はギルドを出て行く。君ともパーティは解消だ」
「ちょっと待ってください! たかがマップひとつで?」
「たかが? たかがだと? 私がこのギルドにいたのはひとえにあのマップがあったからだと言っても過言ではない。私は出て行く。あのアレックとか言う歯抜け男は話にならんからな」
あの後、マーガレットは何度かアレックに直談判したが、彼は全く聞く耳をもたなかった。もう解雇した、の一点張りだ。ふざけるな。あんな貴重な人材をそう簡単に捨てるのか。もともと気に食わないギルドだったが、もう思い残すことはない。
「お前は新しいパーティを探せ。Aランクだろ。いい貰い手はいっぱいあるだろうさ」
そう言うとマーガレットは立ち上がった。
「待ってください! ギルドマスターにはなんと説明するんですか?」
「冒険者はもともと根無し草だ。一つのギルドにいつまでもいるような人間は冒険者とは呼ばないんだよ」
彼女は酒場を出ると、そのまま街を出て行った。
◇
レニーは歯抜けのアレックに事の次第を報告した。アレックはひざから崩れ落ちた。
「たかがマップだろう。クソ、全部あの無能が悪いんだ。ポールの野郎」
彼は地面を殴りつけると立ち上がり、レニーに言った。
「これからは君がトップだ。頑張りたまえ」
「ええ、そんな」
「いいか! もうこのギルドにSランク冒険者はいないんだ。看板を失ったんだぞ! お前が看板になるんだ。いいな」
歯の抜けた部分から空気をヒューヒュー漏らしてアレックは言うと、写本係の部屋へと入っていった。怒鳴り声が聞こえてくる。
レニーは舌打ちした。
彼がAランク冒険者になれたのはマーガレットのおかげだった。というよりマーガレットのせいだったというべきか。レニーの実力はCランク程度。しかし、マーガレットとパーティを組むことに成功した彼はおこぼれをもらうことでAランクに達したのだった。
彼もまた、ほかの冒険者と同じく前のマップ係のことを馬鹿にしていた。たかが平民のマップ係だ。写本係ってだけでクズの集まりなのにその中に『転写』もできない平民がいるだって?
実際に見てみるとガリガリで見るからに貧相な男だった。冒険者を目指してギルドにやってきたと聞いたときは大笑いした。あの歯抜けに騙されやがった馬鹿な奴だ。
放り出された瞬間の話を聞いてさらに笑った。新しいマップ係にあごを殴られただけで気絶したんだってよ。
レニーは今、写本係全体に怒りを覚えていた。それはどう考えても無責任な怒りだったが、彼は本気で憎んでいた。このギルドを出て行くことはできない。他のギルドで同じ待遇が受けられるはずがない。ここはオアシスだ。こんな辺境の街ではあるがレニーにとってはまるで王になったかのようにふるまえる街だった。
いくらでも娼婦を買える。それだけの金がある。毎日のように大金が入ってくる。それもマーガレットのおかげではあったのだが。もう金が入ってこない。遊んでるだけでは生活できない。レニーはあることを思いついた。
そうだ。パーティを組んでほかの連中に戦わせればいい。自分は見ているだけでいいのだ。
Aランク冒険者をいちいち戦わせるんじゃない。