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日々

 スティーヴンは薄暗い蛍光石のランプを頼りにして羊皮紙に線を引いていく。ユニークスキル〈記録と読み取り〉を使って原本であるマップを記憶して、後天的スキル『空間転写』によって羊皮紙の上にそれを表示する。オレンジ色の文字と図が羊皮紙の上に描かれる。その線をなぞっていく。均一な線はまるで後天的スキル『転写』によってひかれたかのように美しい。


 すでにギルド内に人は残っていない。壁の近くに置かれた魔力時計は時刻が22時を過ぎたことを示している。


「これで10枚だ」


 彼はマップの最後に自分の名前を書き込んだ。いそいそと荷物をまとめ、蛍光石のランプをもって壁際により、スクロールの原本を見て回る。今日は新しい魔法が入っているはずだった。


「これだ」


 スティーヴンは手に取ると紐を外し、中身を見た。ユニークスキル〈記録と読み取り〉を発動する。彼はこうやって新しいスクロールが入るたびにユニークスキルで内容を記録していった。今現在この部屋にあるスクロールはすべて絵として暗記している。いつかマップ係から昇格してスクロール係になることを夢見ていた。


 スティーヴンはスクロールを紐でとじ、元の位置に戻すと辺境のギルド『グーニー』を後にした。


 彼の住まう宿は街で最も代金が安いところで、奥まった場所にあり湿気がたまっていていつもカビ臭い。スティーヴンは宿に戻ると着の身着のままベッドに倒れ、眠った。翌日も早かった。


 ◇


「これとこれ、あとこれはやり直しだ」


 上司フレデリックは背もたれに体を預けたままそう言うと、昨日遅くまでかけて書いたマップを3枚も破り、テーブルの向こう側から地面に放り投げた。


 貴族出身の男でデブ、豚鼻、時々死にかけの老人のような呼吸音を出す。汗を拭きながら、マップの確認をするものだから、時々その汗が垂れてマップにつく。そのせいで書き直しを命じられることもある。スティーヴンはいつも垂れるんじゃないぞと思いながら彼の所作を見ている。


 ギルド・写本係は貴族出身が多い。特に妾の子や5男など家督を継ぐことのできないあまりものが、金を求めてやってくる。必要な能力は後天的スキル『転写』のみ。これは書きたい文字や図を頭に思い浮かべインクを垂らすと、羊皮紙にその文字や図形を書き写すことができるスキルだ。『転写』は街のスキル売り場で買うことができるが、値が張る。貴族である彼らにとっては安いものだが。


 加えて彼らは読み書きができる。魔法に使われる特殊なダヴィト文字を学んでいる。そのために、スクロールと呼ばれる誰でも魔力の消費なく魔法を発動できる紙を『転写』を使って量産できる。


 スクロールは冒険者たちにとって貴重な道具である。ダヴィト文字を発音でき、かつ魔力を持つ魔法使いは少ない。ゆえに詠唱による魔法よりはスクロールが使われることの方が多い。要するに、ギルドで売れば資金になる。


 スティーヴンは読み書きができない。ただ書いてあるものをなぞるだけ。値の張る『転写』ではなく『空間転写』を選ばされたのもそう言った理由があったからだった。


「お前は仕事が遅いんだよ」


 豚鼻のフレデリックはそう言うとマップ7枚分の賃金をスティーヴンに渡した。銀貨7枚。宿が1日銀貨3枚。昼食は取らないがそれでも食費だけで1日銀貨1枚は飛んでいく。スティーヴンは銀貨を握りしめた。


「すみません」


 そう言うと彼はフレデリックのいるテーブルを離れた。


 フレデリックはほくそ笑んでいた。本来ならばマップ1枚の賃金は銀貨5枚。フレデリックはマップ1枚につき4枚の銀貨をくすねていた……。

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