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FILE8:赤眼の悪魔

母国を飛び立ってから、三年。

僕は未だに世界を見て廻っている。

母国という箱庭から出て見た世界はとても広大で。

何処も彼処もが違う文化を作り出していた。

天使自体受け入れなれない場所もあったし、母国と同じように畏怖の眼で見る処もあった。

何箇所か何も言われない処はあったが、それは僕自身を誰も目に留めておらず、どうでも良いと思われているだけだった。

自分の定着できる居場所なんてあるはずがないと思いつつも、心の何処かでその希望を捨て切れずに、僕は探し続けた。

母との約束、という事を気持ちに上乗せして…。

空を移動していて、ふと僕は白い靄が掛かっている事に気付いた。


「…?これは……」


初めは雲の中に入ってしまったかと思っていたが、それは広範囲で晴れるばかりか徐々に濃くなってくることから霧だと判明した。

霧は文献でしか読んだ事がなく、実際に遭うのは初めてだ。

先が見えないのに飛ぶのは困難となり、僕は仕方なしに地上へ降りた。

地上も上空とさして変わらなかったが、木々がある分、道が鮮明に判った。

それらの木を頼りに、触れながら作られた道を行くことにする。

じっとしていては抜け出せない。

足を進めて行くと、次第に霧が薄くなってきた。

どうやら抜け出せそうだと思っていると、今まで道を行く助けとなっていた木がなくなり、拓けた場所へ出た。

空は霧掛かっているのに、道だけがはっきりと見えて気味が悪い。

その先へと視線を延ばして、僕は驚愕した。


「すごい……」


思わず感嘆の声を洩らす。

視線の先には一つの大きく立派な屋敷が奥に聳え立っていた。

上から見ていた時は、その霧の濃さで気付かなかったようだ。

どうしてこんな処に建てられているのかは判らない。

だが唯一、其処にはもう誰も住んでいないだろうと思われた。

屋敷自体に損傷はないが、自分の来た道を普通には来れないだろう。

本当はすぐにでもその場所を離れたかったが、身体が吸い寄せられるかのように足は屋敷へと向かっていった。

屋敷に行けと何かが僕に訴えている。


「ただの客とは珍しい…。ようこそ辺境の地へ」


「…っ!?…人?」


屋敷の前まで来た時、屋敷の方から突如声が掛けられた。

声は歳若い男のもの。男は重く閉ざされていた門を開けた。

出てきたのは黒髪に黒服、黒マントという全てを黒で包み込んだ、自分と同じかそれより少し若いかと言った風体の青年だった。

ただ瞳だけがルビーのように真赤で白肌と黒に際立って見えた。

それが彼の第一印象だった。

突然目の前に現れた青年。

前髪で隠された右顔には、包帯も巻かれているのが見える。

驚いている僕を見て、彼は口元に笑みを浮かべた。


「此処に常人はまず来ない。此処の噂を知らなかったのか?」


「噂…?」


「この屋敷の名は“屍の館”。赤眼の悪魔が住まう場所…」


そう言って男は、白い手袋をはめた手で自分を指さした。

悪魔…と僕は反芻して呟いた。とてもそうは見えない。

そう思っていると顔に出ていたのか男はくつくつと笑い出した。


「お前みたいな反応は初めてだ。まぁ、俺は本来人間だったがな」


「人間って…、ならば何故悪魔だなんて嘘を…」


「嘘ではない。人は皆、俺の事を赤眼の悪魔と呼ぶ。この眼を見て人は俺の一族を畏怖し、此処へと追い遣った。何回も危機を回避したからというのもあるがな」


僕は青年の言葉に驚いて、眼を見開いた。

この人は自分と全く同じではないか。

漆黒の片翼だけで畏怖されて一族から追い遣られ、悪魔と呼ばれた自分と…。


「まぁ、今は真実人外だから別に構わんが。俺は一族に伝わる禁呪を使って、不老不死の身体になったからな。もう立派な化け物だ」


意に介した風もなく、男はあっさりとそう言い放った。

どうしてそんな話を僕に…?

そう聞くと門に背を預け、男は何かを企むようににっと口元だけで笑った。


「さぁな。俺にも判らん。ただ…お前が俺と似た眼をしてるからか」


「似てる…?」


眉根を寄せて、訝しみながら尋ねると、男は口に薄い笑みを乗せた。

そして指をついと上げて、僕を指差した。


「その漆黒の片翼。人は畏怖するだろう。お前も追放者ではないのか?」


言い当てられて、ああ、やはり彼は自分と同じなのだと理解した。

自分と同じ異端者なのだと――。



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