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広がる世界2  作者: HGCom
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008 ミゲルの仕事

「みげーーる! 今朝出動したマリちゃん、どこいった~?」


 ビルのフロアで、中年男が尋ねてくる。


 彼の名前は、ヤマシタ。

 ボサボサ頭でよれよれのYシャツを身につけ、中肉中背でメガネをかけた、どこにでもいそうな男だ。

 そして、俺の直属の上司で中級悪魔族でもある。


 またかよ。

 こいつ、新人の俺の仕事のアラを探しては、チクチクと嫌味を言うのが楽しみってだけの能無しなんだよな。

 だが残念なことに、これでも一応上司だ。

 ため息をつきたくなるのを押さえて、仕事用の口調で返事をする。


「ヤマシタさん。今朝のは、彼が夕方頃にクラッシュさせて、今は別の個体を再構築中です」


「そんなの知ってるよー。そうじゃなくて、コントロールコアの回収がされていないんじゃないのかって言ってるの! ちゃんとやったのー?」


 自分の指示の悪さは棚上げして、バカにしたような物言いで再質問。


 だったら、そう言えよ。

 以心伝心な間柄でもないのに、ちゃんと言わなきゃ伝わらないっての。

 いくら俺が優秀すぎる部下だと言っても、まともな指示を出さないと、望む回答もあげれないぜ。

 今にも「そんな事もわからないのか?」と、言い出しそうだけどさ。

 そういう態度は、せめて一度くらい説明した相手にするものだろーが。


 そのくせ、正論で正すとイイ年してムキになって、余計愚痴を吐きまくるんだよ。

 この、クソヤマシタ!

 そう思いつつも、オトナな対応を心がけて表情には出さずに淡々と報告する。


「コントロールコアは戦闘時の衝撃で小破してしまったので、開発課のミサキさんに確認しています。結果は、クリーンアップした素体にバックアップからリアルタイムメモリを読み込んだ方が早いということでしたので、既に対応をお願いしています!」


 どうだ、一度も説明された事ないのに、文句の付けどころがない仕事ぶりだろ?


「それって、申請も終わってるのか?」


 どうしても、アラを見つけて愚痴りたいんだなコイツ。

 その労力をアラ探しでなく、通常業務に活かせっての。

 これって、パーツが破損した直後に、上司のあんたから俺に指示を出してやるべき業務だろうが!

 俺に確認するって事は、業務内容は知っているはずなんだから、それなら先に自分で確認しとけよな。


「はい、30分程前に再構築申請書も作成して提出。ヤマシタさんのポストにも控えは転送済です。また、今回の提出書類をテンプレート化したので、次回以降は簡略化した手順で対応可能にしておきました」


「……ふーん。じゃあ、それは後で確認しとくけど、それなら今日中に再構築が終わるだろうから、構築されたマリちゃんに不備がないか確認しとけよ~」


 他にツッコミどころがないか、しばらく考える素振りを見せていたが、思いつかなかったのか、確認だけするように言ってきた。


「はい。わかりました」


「んじゃ、俺は先に帰るから。おつかれ~」


 って、テメーは明日確認するくせ、俺には今日中に確認しろってか?


「おつかれさまでした~」


 ヤマシタがフロアから退出するまで頭を下げて、出て行ったところで頭をあげる。


「ふー、毎日毎日上司のお守りはメンドウだな。ボスの指示じゃなけりゃ、こんな仕事受けなかったのによー」


 上司はクソだし、同期は年上しかいないし、何より上司が使えねぇ。つまりクソだ。

 ……思わず二度もクソと言ってしまった。

 同期も俺の所属する『第一特別サポート部』には一人もいねぇ。

 それどころか、ここはクソと俺の2人だけの部署なんだ。

 その部署も実質俺一人で回してるようなもんだけどな。

 むしろ、クソはマイナスにしかなってねぇ。

 これなら俺一人の方が、まだ作業が捗るってものだ。

 ……はぁ~。愚痴っぽくなってるな。

 俺も、少し疲れているのかな……。


 とりあえず、指示されるまでもなくマリちゃんは確認して帰宅する予定だったけどな。

 翌日どやされるのもメンドクサイし。


 ちなみに、『マリちゃん』の正式名称は、『高機能(ハイスペック)戦闘用(バトルモード)マリオネット』。

 ボスの作った人形で、その略称にして、機体コードが「マリちゃん」だ。

 今日、斗真が操作ミスって1体クラッシュしたから、現在操作可能なのは予備体のみだ。



 俺は、ミゲル。

 このムータリア国のラドロー領で生まれた悪魔族の平民で、現在は15歳。

 今は勤めているオフィスで、残業中だ。

 やっている仕事は……未開拓地の魔物駆除の代行業務ってとこか。

 ま、色々秘密がある仕事で、下っ端だから全容を知っているわけじゃないんだけどな。


 斗真がゲームだと思って遊んでいるアプリなんだが、実は裏世界のマリちゃんをリモート操作するアプリなんだ。

 そもそも『広がる世界』は存在するが、『広がる世界2』なんてアプリは、斗真のスマホ以外どこにも存在しない。

 マリちゃん本体は、目鼻口の無いのっぺらぼうなんだけど、アプリでテクスチャマッピングした映像を斗真は見ている。

 ゲーム内の背景やモンスターもアプリで表示させている映像なんだけど、一部のモンスターは実物だ。

 その辺の映像と実物の切り替え制御は、制御部という別の部署の人間がやっていて、俺はその辺り詳しく理解していない。

 ウチの部署は、斗真専属のバックアップとして「使い魔」と称したオペレーターをやっているんだ。


 半世紀ほど前からムータリア国では、表世界と呼んでる転移先の世界の国々と交易するようになった。

 表世界の化学という知識を元に、こちらの世界でも様々な技術革新が行われている。

 この建物も、その技術で作られた物の一つ。

 鉄筋鉄骨コンクリート造のエレベータ・空調完備の認証ゲート付きオフィスビルだ。


 ()()()行き来できる転移穴(ホール)ができてから、大きく世界が変わった。

 この国で大きく変わったのは、職業選択の自由だな。

 別の世界を知る事で、様々な職業が増えたのだ。

 兵士の子は兵士になり、商人の子は商人になる。

 以前は親の職業を継承していくのが一般的だったが、今では自由に職業を選択できる。


 自然界に働きかける農林水産の一次産業。

 一次産業で採取・生産したものを原材料にした製造・建築・魔力・鉱業などの二次産業。

 小売・サービス業の三次産業。

 そして、以前は無かった情報・医療・教育サービスなどの知識集約産業である四次産業。

 他、発展著しい産業をさらに分類して様々な業務別に職業の数も増えていった。



 ピー、ピー、ピー!


 突然、懐から振動と共に電子音が聞こえてきた。

 自分の通信端末を取り出し、相手を確認するとミサキさんからだった。

 待ち人来るだな!


「はい、こちら第一特別サポート部主任のミゲルです」


 部に二人しかいないため、俺は新人にして主任という役職が与えられている。

 手当てもなく給与も上がらない、形ばかりの役職なんだけどな。


「ミゲル生きてるか~。ちゃんと休み取れよー」


「はいはい、分かってますよミサキさん。そのためにも、結果を聞きたいんですけど、どんな状況ですか?」


 ミサキさんは、整備部第一特殊整備課の主任だ。

 今朝壊れたマリちゃんの、再構築作業を依頼していた相手になる。

 彼は人族の20代前半の男性で、たまに社員食堂で一緒にメシ食う程度には仲が良い。

 整備部という50人を超える部署で、若くして主任となっている実力派だ。

 ウチのダメ上司から聞けない、オフィス勤めのノウハウを教えてくれた先輩であり、俺のいる部署の専任整備を担当してくれる。

 つまり斗真専用マリちゃんの整備士だな。


 俺と同じ主任の肩書だけど、形ばかりの俺とは違い、あっちは部下が2人いるらしい。

 しっかり部下のフォローもやって、自分の業務もこなすミサキさんを俺は尊敬している。

 ウチの上司(ヤマシタ)を見るたび、入社時にどうして整備部に配属希望を出さなかったかと後悔してるよ。


「もちろん、終わってるよ。君のポストにも構築後のデータ構成を送信済みだから、大変だろうけど確認よろしくねー」


「ありがとうございます。流石ミサキさんですね! 標準構築に120分かかる試算値だったのに、たった80分で終了するなんて、惚れちゃいそうですよ!」


「ははは、君が美女悪魔なら喜んで惚れてくれと言いたいけどね! まだ一年目なんだから、あまり無理しないようにねー」


「はい、ありがとうございます! ……はい、……そうですね。わかりました。では、失礼します!」


 プッと端末の通信を終了させて、早速自分のポストを確認する。

 ポストは、オフィス内の自分宛の私書箱といった感じで、データや品物などを受け取ることができるパーソナルエリアだ。

 確認すると、マリちゃんの再構築データが破損前のデータと並列表示された資料が送られていた。


「……うん、問題なし。速いだけでなく仕事内容も完璧だな!」


 さすがミサキさんだ。

 おかげで、今日は早めに帰宅できそうで助かるな。


 俺は[並列思考]と[思念体]を解除し、今日のオペレーター業務を終了する。

 急いでオフィスの後片付けをして、フロアの管制システムを一時停止(サスペンド)

 監視モードに移行した事を確認してオフィスを後にした。

 監視モードにすれば、斗真がアプリを起動してもAIが「使い魔ミゲル」を代行してくれるから安心だ。

 非常事態のアラームでも鳴れば、出勤してオペレーターしないといけないけど、そうそう非常事態なんて発生しないだろう。


 オフィスから社員寮の自室に帰りつき、テイクアウトしていた夕食を保存庫から取り出し食べると、ベッドでゆったりと横になる。


「はぁ、せっかく働き出したのに、この生活が少なくとも後3ヶ月続くのか……」


 そう言うと、入社してから今までの事を思い返す。

 地元じゃ、歴代でも()()英雄に次ぐ成績で学院を卒業した事になっている俺だ。

 優秀すぎるから、どんな分野であってもすぐトップになれた。

 あまりにイージーな人生に、学生生活を卒業した際に()()()()職業というものがなかった。

 どんな仕事でもそれなりに上手くいくだろうし、むしろ様々な企業からスカウトの話があった。


 そんな中、今の会社に入社したのは、ボスことクロード・ラドローと一緒に働けると聞いたからだ。


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