005 頼りになる友人
スマホゲームで上位に入ると、裏世界に行けるらしい……。
少し修正しました。
翌日、学校に着くなり、隣のクラスに行ってみる。
既に登校していたようで、目的の人物に声をかけながら教室に入っていく。
「おはよー、響介!」
「おぅ、朝から早いな!」
お決まりのメガネをクイッと上げる仕種をしながら、挨拶を返すコイツが、昨日連絡した相手だ。
香坂響介。
同じ小・中出身の秀才だ。
興味を持ったゲームは、がっつりやり込むタイプで、自分で攻略サイトを作ることもある。
それに、eスポーツの陣取りゲームで、年代別の全国大会で優勝した事もある。
『切断君あるふぁー』を始めとして、俺に数々のお役立ちアプリを紹介してくれたのも響介だ。
きっちり理詰めでいくところから、裏じゃ参謀とも呼ばれてる。
俺の知人でゲームの相談相手として、響介以上の適任者はいないからな。
「それより、ホントにアプリ入ってるのか?」
昨日、連絡してみたら、当然のように響介もゲームの事は知っていた。
というより、テスターに応募したらしいが落選してベータ版をダウンロードできなかったらしい。
俺が、そんなのに応募した記憶がないって言うと、本当に同じものなのかと疑問を持たれたので、実際に見てもらう事にしたんだ。
「これなんだけどさ……」
そう言って、ゲームのカメラモードにした状態でスマホを渡す。
「今、俺の肩あたりに使い魔が座ってるの見えないか?」
すると、響介が俺の方にスマホを向けることなくため息をついて、首を横に振る。
「どうやら、生体認証機能が付いているみたいだな。斗真がスマホ持っていないと、画面が真っ暗になってるぞ!」
響介が手にしている画面を見ると、確かに真っ暗だった。
「ほんとだ、静脈認証でも入ってたのかな?」
スマホも進化し続けて高性能化しており、今では生体認証機能がついていない機種はない。
昔も指紋認証くらいは存在したが、個人識別のために、生体認証――指紋、目の虹彩、静脈パターン、声紋などの身体的特徴で個人認証すること――を二種類以上登録しておき、ロックがかけられるようになっている。
今や、キャッシュカードやクレジットカードはもちろん、運転免許証や保険証なんてものをカードで持ち歩いている人はほぼおらず、全部スマホで済むようになっている。
そのため、スマホを購入する際には、生体識別情報の登録が義務付けられている。
登録先は、国が管理する通称『生体バンク』――正式名称は、『生体認証情報保持、保管を目的とする公的取扱い機関』――。
ここは、個人情報(主に生体情報)を国が保存しておく公的機関で、大抵の国家資格保有者にも登録が義務付けられている。
実質ほとんどの国民が登録しているため、現在では個人の照合が容易になり、犯罪の検挙率が昔より向上するという副産物まで発生している。
そんな生体認証機能が付いたアプリは、それなりに存在する。
銀行のオンライン口座はもちろん、ゲームの課金システムにも認証機能が付いてるものが多い。
逆にお金を扱うアプリでパスワードだけなんてのは、セキュリティレベル低すぎで怪しいアプリって事だ。
今回、わざわざ認証画面が出なかったから、ゲームには静脈認証が使われているのだと思う。
静脈認証は、手の静脈パターンで認証する方法で、本体を持った時にスキャンが走る仕組みらしい。
「そっか、んじゃこれなら見えるか?」
響介からスマホを受け取って、俺が手に持った状態でスマホのカメラを自分の肩に向ける。
「あぁ、確かに肩にミニデー○ンみたいなのが乗ってるな」
「だろ? それで、画面のアイコンとかメニューを見た感じどうだ? このアプリで合ってるかな?」
「そうだな……、いくつか実際にメニューを開いてもらって良いか?」
「あぁ!」
それから、いくつか確認のためにアイコンやメニューを開いていった結果、響介の知るアプリの情報と合致するということがわかった。
それで響介が、俺に忠告をする。
「先に言っとくが、俺達は高校生だから時間に限りがある。一日中ゲームできる廃人ゲーマーなニートや大学生には、たぶん勝てないぞ! それに、この特典なら間違いなくプロも動くだろう」
「そっか……、でも何があるかわからないだろ? 一応、10人以上にチャンスがあるみたいな事書いてあったしさ!」
「あぁ。正確には、『裏世界』に行けるのは10数人らしいが、『ホール』のある猿島に上陸するまでなら、上位100人くらいまで行けるらしいぞ!」
「マジで! そんなの俺の見たサイトには載ってなかったぞ!」
「まぁ、ネタ元は教えられないが確かな情報だ。『裏世界』関連の情報なんだから、信用できるだろ?」
確かに、偽情報だと警察に捕まるからな。
「そっか、んじゃ響介がやったとして、その順位にまで入るのも難しいのか?」
「そうだな……難しいというのが本音だな」
「響介でも難しいのか……」
eスポーツ全国大会の優勝経験者が、難しいと言うレベルなのか……。
「まぁ、ゲームのジャンルから考えると、純粋なゲーム目的のイベント参加者は多くないと思うんだが、特典がコレだからな……」
「そうだよな。コレじゃどれだけ応募してくるかわからないよな」
うーん。確かに、プロや廃人ゲーマーには負けるかも。
ゲーマーって、裏世界行きたいやつとか多そうだしな。
絶対的な時間が違うというのは、大きな違いだ。
スポーツの世界なら、プロで報酬を貰いながら練習しているチームに、アマの一般人チームが連勝するくらい非現実的だ。
いや、もっとか?
俺が気落ちしているところで、響介が言葉をかける。
「唯一有利な点は、斗真がベータ版を手に入れているってところかな? 競合相手がテスターになってなければ、スタートダッシュで有利に運べる可能性は高い」
響介がやれば、可能性ないわけじゃないのか。
すると、メガネをクイッと上げて響介が言葉を続ける。
「知ってるか? テスターの募集人数は、たったの20人なんだ」
「20人! んじゃ、全く希望がないってわけじゃないのか?」
「まぁな。ただし、上位狙うなら、これからゲーム公開日までみっちりとゲームの調査することになるぞ?」
「おぅ、高校一年の夏くらいまでなら、棒にふってもなんとかなるだろ! やるだけやってみようぜ!!」
「……ま、そうだな。やってみても良いか!」
俺が拳を響介の前に出すと、笑みを浮かべた響介が拳を合わせたところで、ホームルームの予鈴がなった。
「朝から確認ありがとな! んじゃ、また!」
「おう、さっそく昼休みからやっていこうか!」
「わかった!」
昼休みからか、……響介がやる気になってくれれば俺も心強い。
絶対100位以内を……いや、目標なんだから高く持たないとな。
目指せ1位だな!
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昼休み。
邪魔が来ない場所で打ち合わせすることになった。
ライバルは極力少ない方が良いし、周囲に声をかけられて時間取られるのを響介が嫌ったからだ。
それで見つけたのが、和室。
主に部活で放課後使われるだけの部屋だが、鍵が閉まってなかったから、ラッキーだと2人して入っていった。
響介から最初に挙げられたのが、ヘルプの確認だ。
まだテスト期間だから、公開時に修正されてる可能性もあるが、大幅な変更は無いだろうと説明される。
せいぜい誤字の訂正やゲームバランスの設定が変更される程度だと教えてくれた。
それで、2人してヘルプの内容を確認していってたのだが、わりとすぐに邪魔が入った。
「……で、ヘルプの「あーーーーー!!」……え?」
いきなり、大きな叫び声が聞こえたかと思ったら、同じ中学出身の倉科美羽が、和室の入り口に立っていた。
「斗真と響介じゃないの! ここで、2人何しているのよ!」
美羽が、俺達にどうしたのかと詰問してきた。
それを見た響介が、俺にだけ聞こえる音量で舌打ちする。
「チッ、ウルサイのが来た」
俺も舌打ちこそしなかったけど、急に大声だされて作戦会議を中止されたため、少し不満気に質問で返す。
「何してるも何も、そういう美羽こそ、何かここに用があるのか?」
すると、真面目な表情をして、美羽が口を開く。
「知ってる? 特別教室って、許可なく無断入室も利用もしちゃいけないのよ!」
お前は、優等生か!
どっちかというと、規則に拘らないタイプだと思ってたけど。
「そういう、美羽こそ無断入室じゃないのか?」
すると勝ち誇ったような笑みを浮かべて、美羽が得意げに言う。
「へっへーん。私は部活の用事で入ってるから、無断入室じゃないんですぅーー!」
「部活? バスケ部のか?」
こいつ、中学ん時は女子バスケ部の部長だったんだ。
妹の愛梨も同じバスケ部だったから、何度か試合の応援の際に、顔を合わせる事もあった。
そして、俺と響介は美羽と同じクラスだったから、会ったら普通に話する程度の仲でもある。
運動神経もノリも良く話しやすい相手で、女子の間では面倒見の良い、頼れるお姉さん的存在だったみたいだ。
顔もスタイルも整っている方で、男子にもそこそこ人気があったようだ。
ただ、理詰めな参謀タイプの響介と違って、美羽は即断即決で猪突気味なタイプだから、たまに2人は衝突してたようだ。
ま、衝突というより、美羽に一方的に振り回されてたってのが正確なところかな。
俺は友人として見る分には、絡みやすくてイジり安いし嫌いじゃない。
響介も、嫌ってはいないみたいだけど、そんな感じで苦手なタイプみたいだ。
「それは中学までの話よ! 高校入ってからは、茶道同好会に入ったの!」
「茶道部?」「おまえがか?」
似合わん。
響介も同意見みたいだ。
スポーツビューティーといった感じで、走り回っている姿はよく目にしていたが、正座してお茶を点ててる姿は想像が難しい。
あぐらかいて、お茶菓子食ってる姿なら容易に想像できるけどな!
「どうせ、茶菓子目的だろう!」
「失礼ね! 女を磨くためよ!」
磨いてどーすんだよ!
見せたい相手がいるのかよ!
話の流れで部活の事を聞いたら、茶道部は一度廃部になっていたらしいが、今は同好会として存続しているらしい。
活動も不定期で、美羽も含めて部員は4人。
3年が2人と2年が1人で、美羽も含めて全員女子だそうだ。
3年の1人がメインで活動している程度で、他の2人は在籍しているだけっぽい。
美羽が言うには、その活動している3年生がカッコ良くて憧れてしまい、即決で入部したようだ。
俺と美羽がワイワイ説明してると、入口にもう一人の女生徒が現れた。
「どうかしたの美羽ちゃん? ……あら、どちら様ですか?」
表れたのは、黒髪ロングの柔らかいウェーブがかかったキレイ系の美人で、どうやら3年の先輩のようだ。
ウチの学校は、学年が毎に女子は制服のタイの色が違うから、学年はすぐわかる。
ちなみに男子は、ネクタイの色が違う。
身長は、美羽が165センチくらいありそうなのに対して、先輩は少し低くて160センチ弱くらいか。
ウチの学校って何人か美人がいるけど、その中でもこの人はトップレベルだな。
こんな美人の先輩とお近づきになれれば、高校生活も毎日楽しいだろうなぁ……。
そう思うと、ササッと正座して姿勢を正して名乗りだす。
「俺、……私は一年の朝比奈斗真といいます。で、こちらが同級生の……」
俺が姿勢を正したからか、あるいは先輩相手だからか、響介も先輩の方に向き直ってスッと正座し、無表情で頭を下げ名乗る。
「香坂響介です」
「3年の花咲香澄です。それで……」
戸惑った様子の花咲先輩から、説明を求めるような視線を受けた美羽が、俺達を指さしながら説明しだす。
「斗真と響介が、和室に勝手に入ってたから注意してたとこなんです。何してたのかは知りませんけど」
グッ。
まぁ、事実そうなんだけど、正座している俺達を立った状態で指差すなよ!
女磨いてるんじゃないのかよ?
「部屋が開いてたから、ちょっと入ってゲームの話をしていたんです。すみませんでした。すぐ、出ていきますので……」
そう言って、軽く花咲先輩に頭を下げてから立ち上がろうとしたところで、声をかけられる。
「あ、そんな畏まらなくても良いわよ? 私達は部活の用事があるから横で作業してるけど、それが気にならないなら、そのまま使ってもらっても良いし。仮に誰かに見つかっても、ちょっと茶道に興味があって見学していたって事にすれば良いし。何ならホントに見学してくれても良いしね?」
笑顔小首を傾げて、部屋の使用許可と、茶道の見学を勧められた。
美羽みたいに、会うなり吼えたり、一方的に処断する事も無い。
軽い勧誘も兼ねているかもしれないけど、美羽の対応と花咲先輩の対応は、雲泥の差があるな。
ただ、ここはライバルを増やさないために、人気の無い場所を探して行きついた場所だからな。
せっかく、部屋を使って良いって言ってくれてるけど……。
そう思って響介を見ると、案の定あごをしゃくって部屋から出て行こうぜって感じだった。
丁寧に断りを入れて、お暇しようと思っていると、美羽が話しかけてくる。
「ちなみに、2人は何のゲームの話してたの?」
それは、あんまり教えたくないんだけど、花咲先輩の前で美羽を無視するのも感じ悪いよな……。
「スマホの新しいゲームの話だよ」
「ふーん。どんな?」
「ARゲームでモンスター倒してキャラ育てるやつだな」
「ARって『ポ○モンDo』みたいなやつよね? 面白いの?」
好きなジャンルのゲームなのか、やや食い気味に美羽が聞いてくる。
正直ウザいな猪突娘。
けど、このままバックレるのも印象悪いし、適当に答えて退出するか。
「まぁまぁだな。それで、響介に話を聞いてたんだ」
「へぇ、それで何て言うタイトルなの?」
「『広がる世界』」
「あ、それ知ってる! 『裏世界』に行けるかもしれないってやつだよね?」
「あぁ……、ていうか、よく知ってるな」
実際、何でお前が知ってるんだよ。
いや、俺が知らなかっただけで、ゲームするやつなら知っててもおかしくないか。
情報サイトに記事が掲載されてるしな。
でも、ゲーマーって感じには見えないのに、よく知ってたな。
「うん。たまにだけど、『ポケモンDo』の情報見るサイトに載ってたの見たの。確か、ゲームのイベントで成績良かったら、『裏世界』旅行プレゼントってやつよね? えっ、もしかしてその対策を練ってたの?」
「「…………」」
「うわ、そうなんだ? 響介行けそうなの?」
美羽が、スゴイ期待した眼差しで響介に質問する。
だよな。
同クラスだった美羽も、当然響介のeスポーツでの成績は知ってる。
俺に一切聞かないあたり、響介が絡むと可能性ありだと思ったんだろうな。
ま、俺も自分一人でやって上位の成績取れる自信ないし。
軽くメガネを押さえながら、響介が答える。
「まだ公開されてないし、今のところは何とも言えないな」
「そっか。でも可能性が無いわけじゃないんでしょ?」
「まぁな」
「うわぁー、私も裏世界行きたい! ねぇねぇ、私も仲間に入れてくれない?」
人の事言えないけど、そんなにゲームのイメージないこいつを仲間に入れても、プラスになる気がしねぇ。
むしろ、響介を振り回す分、時間が無駄に浪費されそうな予感がするけど……。
響介も俺と同意見だと思うが、質問には即答せずに冷静に切り返していた。
「……それより、部活はイイのか?」
そう言った響介の視線の先には、話から取り残された花咲先輩がいた。
「あっ、香澄先輩すみません」
「別に、イイわよ。それに、昼休みの作業は、私一人でも手は足りるし二人と話しててもイイわよ?」
俺達の関係性を知らない花咲先輩は、仲が良いと思ったのか、気を聞かせてくれたようだ。
が、俺や響介は、どっちかという御免こうむる感じだし、美羽も今この場で話を盛り上げるつもりは無いはずだ。
「いえいえ、そんなことは……」
そうだ。もっと、強く断っておけ!
「ほんと、私を気にする必要はないからね?」
「そんな関係じゃないですよぉ!」
よし、ちょぅど良いタイミングだろ!
「んじゃ、部活みたいですし、俺達は失礼しますね。花咲先輩もご迷惑おかけしました!」
軽く頭を下げて入口の方に向かう。
「あら、いいの?」という花咲先輩に、笑顔で了承のため頷き響介に視線を向けると、同じく軽く先輩に頭を下げて、入口に向かってきた。
すると、その気になったのか、慌てて美羽が声をかけてくる。
「あっ! ねぇ、さっきの話、私も仲間に入れてよ?」
ま、ハッキリ答えず有耶無耶にしておくか。
「まぁ、余裕があればなっ!」
そう言って、文字通りお茶を濁して、響介と2人和室を後にしたのだった。